みかん小説
本棚

"祖母は十二年年賀状を書いてない" 第15話

祖母は自分の着物の膝を、拳で何度も、何度も殴りつけた。

「私はね、の嫁として、あんたたちを派に育てげたんだよ! 所のたちに『子さんの子供たちは京の学をて、社になって、派なんで親孝だ』って、そう言われることだけが、私のきがいだったんだよ!」

「おばあちゃん……」 私がを伸ばそうとすると、祖母は首を激しく振った。

「その私が……が震えて名けなくなって、淳子さんにげて代してもらって……それだけでもぬほどけなかったのに! 、転んでを打ってから、自分のがおかしくなっていくのが分かったんだよ! さっき言ったことも忘れる、鍋を焦がす、トイレにもわなくなる……!」

祖母の涙が、畳を濡らしていく。

「怖かったんだよ。あんたたちに見捨てられるのが怖かったんだ! もし本当のことを言ったら、あんたたちは私を施設に放り込んで、度と会いに来てくれなくなるんじゃないかって……! だから、淳子さんが勝賀状をしてるのをった、私しゃ……ホッとしたんだよ」

祖母はく、く首を垂れた。

「『元気にしています』っていて送ってくれれば、あんたたちは私のことを『自の母親』のままでいてくれる。正度だけ、優しい声で話をかけてきてくれる。……その話の声が聞きたいがために、私しゃ、淳子さんにをかぶせて、らんぷりを決め込んでたんだよ!」

広告

祖母は畳に両をつき、淳子叔母さんに向かって額を擦りつけた。

「淳子さん……すまなかったねぇ……! 私が悪かったんだよ! あんたを棒猫呼ばわりして、辛い介護を全部押し付けて、そのくせあんたの作った嘘にすがりついて……! 番卑しくて、番汚いのは、この私だよ……!」

の絞りすような泣き声が、茶のに響き渡った。

誰も、何も言えなかった。 男伯父さんは両で顔を覆い、肩を激しく震わせていた。 母は畳に崩れ落ち、声をげて泣きじゃくっていた。

嘘をついていたのは、淳子叔母さんではなかった。 祖母もまた、自らのプライドと孤独のために、その嘘を貪りっていた。 そして、母と伯父は、自らの寧のために、その嘘を何つ疑わずに買い取っていた。

全員が共犯者だった。 誰として、無垢な被害者などいなかったのだ。

その慟哭の渦ので、淳子叔母さんだけが、涙を拭って静かに座っていた。 その顔には、りも、みも、もはや憐れみすらもなかった。 ただ、すべてをし切り、魂が抜け落ちたのような、絶対な静寂が漂っていた。

叔母さんは、トートバッグの奥から、もうつのものを取りした。 の布で作られた、チャック付きのポーチだった。

カチャリ、と音がして、ポーチのが円卓のにぶちまけられた。

祖母の国民健康保険証。

広告

介護認定の保険証。 が振り込まれるの通帳と、届印。 そして、この平鍵。

「……淳子さん?」 母が涙で濡れた顔をげ、呆然と叔母さんを見た。

淳子叔母さんは、それらを円卓の真ん――男伯父さんと母の目のへと、両で押しした。

「本付で、私はお義母さんの介護からります」

その声には、切の迷いがなかった。

「え……?」 男伯父さんが顔をげた。

「な、何を言ってるんだ、淳子さん。りるって……」

「言葉通りのです」

叔母さんはがった。 ブラウスの皺をで払い、男伯父さんと母を、たく見ろした。

「通帳のは、先ほど申しげた通り円もをつけていません。の受額、固定資産税の引き落とし、費の座、すべてノートの巻末にまとめてあります。主治医の連絡先も、ケアマネージャーの名刺も、すべてそこに挟んであります」

「待てよ、淳子!」 叔父さんが慌ててがった。

「お、そんな急に……俺たちはどうするんだよ!」

「あなたはお義母さんの実の息子です。どうするかは、男の男さんと、女の恵子さんと、で話しって決めてください」

叔母さんは夫を瞥し、そして然と言い放った。

「私はです。赤のです。分すぎるほど務めを果たしました。もう度と、このの敷居を跨ぐつもりはありません」

「淳子さん!」

広告

おすすめ作品

リンクを共有

以下のリンクをコピーして友達と共有してください: