"昭和五十一年、消えた父の声を十八年後に聞いた" 第2話
局の記録では《警察提、返却》。警察の保管記録には《局へ返却済み》。同じ本を、双方が相へ返したことになっていた。
、解体業者が副調の壁から古いオープンリールを見つけた。段ボールで包み、《・予備回線》とかれている。放送用の本線とは別に、送信所へ向かう音を確認するため録音したテープだった。奈津美は資料館の技師会いで再した。父の声、葉のをめくる音、局員が声で笑う音まで残っている。
父が最の葉を読み始めたとき、放送では聞こえなかった別の声が入った。
「それを読むな。の名をしたら、娘は帰れない」
孝は黙り、子を引いた。続いて扉が閉まる音がし、放送には流れなかったい声で、こう答えていた。
「娘なら、もうにんだことになっている」
資料館では、発見したテープをいきなり洗浄しなかった。箱、巻き方、リールの傷、片の位置を撮し、温度を定させてから度だけ再する。塩田は磁性体が剥がれれば音そのものが失われると説し、複製用のデジタル録音を同に回した。奈津美は再ボタンへ触れず、作業記録をつけた。娘である自分がで扱えば、から都よく編集したと言われる能性があった。
父の声に混じる音を聞くと、葉は枚ではなかった。
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孝は最の曲のに枚をね、番だけを取っている。榎本の記憶では、は赤鉛でとした葉を別箱へ移していた。父は放送直、その箱から千代の枚を戻したのだろう。決められたを破ったために止められたのであり、偶然その名を読んだわけではない。
写真から切られた澄子の顔は、刃の跡がしかった。写真自体はの物でも、誰かがになって顔をした能性がある。榎本は倉庫理の際、沢から《事件関係者が写る物は寄贈しない》と言われ、何枚か処分したと認めた。切ったのは榎本ではない。奈津美は残る写真をそので預かろうとせず、所者である彼に提供記録へ署名してもらい、複写だけを作った。
テープを止めた奈津美は、父が自分のことを話したのではないとすぐ分かった。昭に奈津美は歳で、局のならっている。集落の誰かに、戸籍はした別の娘がいたのだろう。父が読もうとした葉には、そのの名か、帰れなくなる事がかれていた。問題は葉自体が消えていることだった。
副調の予備録音は送信所へるの音を拾う。マイクを切っても、内の会話やレコードの操作音が記録されるがある。資料館の技師、塩田は継ぎ目を調べ、から音をした形跡は見られないと説した。
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ただし録音刻を示す信号はなく、テープ箱の表記が正しいかは番組表や報と照する必がある。奈津美は父の声だから本物だ、と急いで決めなかった。
当の番組表には、最の曲が鉛で消されていた。に残る文字を斜で読むと、《いの咲く丘》という謡曲だった。リクエスト者の欄は《・千代》。集落の民名簿に姓はあるが、千代という女性はいない。昭代の名簿まで戻ると、千代は昭に歳でしたと記されていた。父の言った「」と致する。
奈津美は母へテープのことを話した。子は父の名を聞いても作業のを止めず、注文のスカートへ裾印をつけ続けた。千代をっているか尋ねると、「らない」と答えた。ところが曲名を伝えた瞬、布のの針が止まった。『いの咲く丘』は、孝がで度もかけなかったレコードだったという。
「局にそのレコードが届いた、お父さんは帰ってきて、燃やしてくれと言ったの。私はを見ず、翌朝ごみにした」
子は夫に理由を聞かなかった。孝は、古いから送られた物でに置きたくない、とだけ言った。奈津美は母を責めるに、レコードが局にも枚あった理由を確かめた。放送局の購入台帳では、昭、同じ曲の見本盤がレコード会社から届いている。
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