"「この子は俺の子じゃない」" 第7話
臓を、太い氷の杭で貫かれたような気がした。
葵が? 健太に、相談していた? 私のらないところで?
「嘘よ……」 私の唇が震えた。 「嘘よ! 葵は納得してた! だっていたのよ! 産まれたら私たちが親権を持つって、あの子自がサインしたのよ!」
バッグのから、つ折りにした誓約を取りそうと、私は狂ったように自分の持ち物を漁り始めた。 汗でファスナーが滑り、化粧ポーチや鍵がに散らばる。
そのだった。
カツン、カツン、と。 点滴スタンドの輪が擦れる音が、面談のけ放たれたドアの向こうから聞こえてきた。
部にいた全員の線が、入りに向けられた。
そこにっていたのは、葵だった。
いピンクの入院着をにまとい、腹部を庇うように腰を折ってっている。 産から数しか経っていないその顔は、気で、唇はカサカサにひび割れていた。 腕の血管には点滴の針がくテープで固定され、そこから透な管がスタンドの薬剤バッグへと伸びている。
「……葵……」 母がちがった。 「葵! あんた、歩いちゃダメじゃないの! 寝てなきゃ……!」
葵は母の制止に答えなかった。 付き添おうとする若い護師のを々しく振り払い、歩、また歩と、擦りで部のへと入ってきた。
その目には、私が見たこともないが宿っていた。
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かつて私ので「どうしよう」と泣きじゃくっていた、頼りない妹の目ではなかった。 自らの肉を引き裂いてつの命を世に送りした者だけが持つ、野物のような、昏く、研ぎ澄まされただった。
葵はテーブルのにち止まった。 そして、に散らばった私の荷物と、テーブルののシリコンの腹を見つめた。
「お姉ちゃん」
葵の声は、驚くほどく、かすれていた。
「……葵」 私はすがるようにちがった。 「葵、よかった、歩けるのね? 丈夫よ、私が全部お父さんたちに説してるから。あなたが配することなんて何もないの。予定通り、この子は私たちが――」
「お姉ちゃん、ごめん」
葵のい言が、私の言葉を断ち切った。
「……え?」
葵はく、くをげた。 点滴スタンドがカタカタと激しく揺れた。
「この子……渡せない」
が止まった。
の奥で、キーンという音の属音が鳴り響いた。 面談の蛍灯が、チカチカと点滅したような錯覚に囚われる。
「……何を、言ってるの?」 私のから、滑稽なほどの抜けた声が漏れた。 「葵? 疲れてるのよ。も陣痛に耐えたんだもの、が混乱してるのよ。く部に戻って寝なさい。あの子のことは、私がちゃんと――」
「混乱なんかしてない!」
葵が顔をげた。 その頬を筋の涙が伝い、顎の先からポタポタとへ落ちた。
「産んだの! 私が産んだのよ! お腹を痛めて……骨が砕けるかとうような痛みに耐えて……てきたあの子の泣き声を聞いた、分かっちゃったの!」
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葵は自分の腹部を、両で抱え込むように押さえた。
「渡せるわけないじゃない! 私の体からてきた子なのよ! 指の本本まで、爪の先まで、私が作った命なの! それを……『最初からお姉ちゃんの子でした』なんて顔をして、戸籍をき換えて、私はただの『叔母さん』としてあの子の成を見ろっていうの?! そんなの……耐えられるわけない! んだ方がマシだよ!」
「葵!!」
私の叫びは、もはやの言葉の体をなしていなかった。 獣の威嚇のような濁声だった。
「何言ってるの?! ふざけないでよ! 今さらそんなこと言えるだとってるの?!」
私はテーブルを回り込み、葵の胸元へ詰め寄った。 護師が慌てて「産婦さんかられてください!」と割って入ろうとしたが、私はそれを振り払った。
「誰のおかげでここまで来られたとってるの?! 病院の配は誰がした?! 京のアパートの敷礼、毎の賃、活費、産院の特別の費用……全部、全部私たちが払ったのよ! 百万円よ! 妊治療をやめて、私たちの老のために貯めてたおを、全部あんたに注ぎ込んだのよ!」
私の界が、りと裏切りで真っ赤に染まっていった。
「私はね、会社でろ指を指されながら産休を取ったの! 『梨さん、おめでとう』って言われて、お祝いの品をもらって、みんなに笑顔でをげてきたのよ! ゴムの腹を巻いて、にあせもで皮膚が腐るほど痛いいをして、それでも耐えてきたの! 全部、今こののためじゃない! それを……『渡せない』?! どのがそんなこと言ってんのよ!!」
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