みかん小説
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"「この子は俺の子じゃない」" 第13話

その言葉が、私の臓を素で握りつぶした。

健太は線を落とし、ボストンバッグのファスナーをけた。 そして、葵のクローゼットから、退院用のを丁寧に畳んで詰め始めた。 私にはもう、切の線を向けなかった。

まるで、そこに誰もしないかのように。

作業を終えると、健太はバッグのファスナーを閉め、がった。 そして、玄関へ向かう途、テーブルの脇でを止めた。

、朝に病院へく」 健太は背を向けたまま言った。 「葵の届の続きにち会う。母親の名は、梨葵です」

「……健太……」

「おも来い」 健太は振り返らなかった。 「病院の院に、すべてを話して謝罪しろ。そして、おの会社の事部にも、に本当のことを報告しろ」

「そんなことしたら……!」 私の声が裏返った。 「私の、全部終わっちゃうのよ?! クビになるわ! 訴えられるかもしれないのよ?!」

「自分で蒔いた種だ」 健太の声は、鉛のようにかった。 「もし、おが来ないなら……俺が全部話す。おの会社にも、警察にも、区役所にも、俺がで全部ぶちまける。共犯者として、俺も職を失う覚悟はできている」

健太がドアノブにをかけた。

「……もう、終わりにしよう、紗枝。これ以、誰も巻き込むな」

バタン。

ドアが閉まった。

に残されたのは、私だった。

に落ちたノート。

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壁に貼られた、破れかけたカレンダー。 物の柔剤の匂い。

私は崩れ落ちるように、たいフローリングに両をついた。

ポケットので、スマホがまた震えた。 画面がる。 会社の同僚からの、しいメッセージだった。

『紗枝さん、赤ちゃんの名、もう決まったら教えてくださいね!』

画面のが、私の涙でぼやけて滲んでいった。

、すべてが終わる。 私が守ろうとして、必に作りげたが、、完全に崩壊する。

に包まれ始めた畳の部で、私は声をげて泣き叫んだ。 だが、その叫び声を聞いてくれるは、もうこの世界のどこにもいなかった。

の朝、洗面所の鏡のった。

の蛇をひねり、たいを両ですくって、何度も顔を洗った。 指先で触れる頬の腫れは、黄く変して引き始めていたが、骨の奥にある鈍い痛みはまだ消えていなかった。

鏡に映る私は、ひどく痩せて見えた。 目のには濃い隈が落ち、頬がこけている。 私はにつけていた、胸からふわりと広がるマタニティ用のワンピースを脱ぎ捨て、クローゼットの奥から枚のを取りした。

妊治療を始めるに着ていた、細のインディゴブルーのデニムと、体に沿ういハイネックのニット。 ジッパーをげるしだけ息を止めた。

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何の抵抗もなく、滑るようにがった。

腹部にを当てる。 そこには、何の膨らみもなかった。 シリコンのみも、蹴りげてくる胎児の命の気配もない。 ただ、平らで、たく、空っぽな私の肉体があるだけだった。

「……くよ」

誰もいない部に向かって、声にして言った。

玄関の靴箱のには、私が昨夜のうちに用した封筒が通置かれていた。 通は、病院のカルテ改ざんや偽装作のために私がき溜めていた類の控え。 もう通は、会社に提するための退職届だった。

ると、初が容赦なく私のいニットを通り抜けていった。 つない青空が広がっていた。こんなにも澄み渡った空を見るのは、偽腹を巻き始めてから初めてのような気がした。

産婦科へ続く坂を、歩ずつ踏みしめながら登った。 が震えていた。逃げしたいという本能が、何度もを止めようとした。 だが、目を閉じれば、健太のあの言葉が元で蘇る。

『これ以、誰も巻き込むな』

私は自ドアを抜け、エレベーターで階へがった。 ナースステーションのを通り過ぎる護師たちの線が斉に私に突き刺さるのをじた。 あの騒は、当然ながら病院れ渡っていた。 妊治療の末に妹の子供を横取りしようとした、異常な姉。 腫れ物に触るような、侮蔑と警戒の混ざった線。

私は俯かず、ただだけを見て、葵のいるのドアのった。

ドアノブにをかけ、呼吸をする。

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