"父の葬儀を捨てた夫へ、亡き父が遺した最後の証拠" 第5話
ペーパーナイフで慎に封を切り、から枚の便箋を取りした。
『美央へ。 このを読んでいるということは、父さんはもうこの世にはいないな。 そしておは今、いしみと、誰にも言えない孤独ので、たったでち尽くしているはずだ。 まず、謝らなければならない。 おに黙って、健太郎君の周辺を調べた。 病の父親が娘の夫を疑うなど、本来であれば許されることではない。 おの選んだ伴侶を信じてやりたかった。 父さんの杞憂であってほしいと、神仏に祈るいだった。 だが、事実はあまりにも残酷だった。 箱のにある資料を、して見てほしい。 これはおに婚をするためのものではない。 おがこれからのを、の嘘に搾取されることなく、 自分の志で正しく選び取るための武器だ。 弁護士にはすべて話してある。 で抱え込まず、先の指示を仰ぎなさい。 父さんは、いつだっておの方だ。 佐伯正雄』
便箋の文字が、美央の目から零れ落ちた粒の涙でわずかに滲んだ。
父は、病気と闘いながら、痛む体を引きずってこの準備をめていたのだ。自分がんだ、遺された娘が夫の欺瞞によって破滅へ追い込まれないように。
美央は涙をの甲で拭い、文庫箱の留めをした。
蓋をけると、には理されたつの束が入っていた。
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番にあったのは、探偵事務所による調査報告のファイルだった。表には『対象者:佐伯健太郎 素調査報告』と印字されている。
震える指でページをめくった。
そこには、健太郎が見らぬ若い女性と腕を組み、級ホテルやレストランへ入りする鮮な写真が、と詳細な記録とともに数枚にわたって綴られていた。
相の女性の名は、リサ。歳。健太郎が経営するデザイン会社の主取引先である広告代理の担当役員秘だった。
交際はから始まっていた。美央が父の病のために実と病院を往復し、疲弊しきっていたまさにその期、健太郎は「夜残業」や「方張」と偽り、都内のリサのマンションへ繁く通い詰めていたのだ。
そして、美央の線が、報告の最の枚に吸い付けられた。
撮は、昨——父の告別式の真っ最である『分』。
写真には、喪の黒いネクタイをし、リサのむ世田区のデザイナーズマンションのエントランスへ、慣れた取りでオートロックを解錠して入っていく健太郎の姿が、寸分の狂いもなく捉えられていた。
『会社でトラブルがあった。してくる』
そう言って式を抜けした夫は、父を見送る読経の最に、倫相の部へと直していたのだ。
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「……っ!」
喉の奥から、乾いた鳴が漏れた。りやしみを通り越し、全の毛穴が逆つような激しい悪寒がった。父の命の灯が消え、娘が泣き崩れていたその瞬に、この男は何をしていたのか。
しかし、文庫箱のはそれだけにとどまらなかった。
央に置かれていたつ目の束――それは、健太郎が経営するデザイン会社『スタジオ・ケン』の直期分の決算と、信用調査関の財務分析レポートだった。
赤字の連続、取引先の倒産による焦げ付き、そしてからの追加融資の拒絶通。
健太郎の会社は、破綻寸の危状況に陥っていたのだ。
そして、つ目の束を見た瞬、美央の考は完全に凍りついた。
そこに入っていたのは、美央が父から相続する予定の産——この自宅の建物、および父が所していた駅の商業用ビルの概、固定資産税評価証だった。
その類の末尾に、枚の『銭消費貸借契約(案)』と『根抵当権設定承諾』がクリップで留められていた。
借入:株式会社スタジオ・ケン 代表取締役 佐伯健太郎 借入額:千万円 担保物件:京都杉並区……(父の駅商業ビル) 物保証兼連帯保証:佐伯美央(実印捺印欄・印鑑証添付欄)
美央の署名欄には、あらかじめ鉛でく「ここにサインをさせること」
と、健太郎の跡でメモがき残されていた。
付は、来週の曜になっていた。
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