みかん小説
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"完璧な夫に給料を突き返した朝" 第5話

そう言って、亮介は空になったビールの缶を持ち、ゴミ箱へ捨てた。

「飯、まだ? 腹減っちゃったよ。噌炒め、めないうちにべたいな」

男はリビングへ戻り、再びテレビの画面に目を向けた。 バラエティ番組の笑い声が、キッチンの隅々にまで響き渡る。

私は、カウンターのに残された収支表を見つめた。 千円のマイナス。

「君を信じてる」 「財布を全部預けてる」

その美しい言葉の正体を、私はようやく理解した。 それは信頼などではない。 「拒絶する痛み」から逃げるための、卑怯な防壁だ。

がない現実を見たくないから、私に通帳を押し付ける。 母親に「せない」と言って落胆されるのが怖いから、私に振り込ませる。 息子に「諦めろ」と言って嫌われるのが嫌だから、私に判断を委ねる。 自分が良い夫、良い息子、良い父親で居続けるために、すべてのを私に呑ませているのだ。

フライパンの底で、え切った豚肉の脂がく固まり始めていた。

。 リビングのソファで毛布にくるまりながら、私はスマートフォンの画面を見つめていた。

隣の寝からは、亮介の規則正しい寝息が聞こえてくる。 何のろめたさもなく、何のもなく、く満ちりた眠り。

は、だ。

朝になれば、亮介の会社の座から、私の座へと万円が振り込まれる。

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そしてその数分には、お義母さんから「亮介から聞いたわよ、ありがとうね」という催促のLINEが入るはずだ。 夕方には、塾から「特訓講座のお申し込み期限について」という最終通告のメールが届く。 末には、宅ローンと、のローンと、亮介のカード代が、容赦なく座から引き落とされていく。

千円。 今、私が自分の過を切り売りして作ったお。 それを使っても、まだりない。 次は何を売ればいい? 祖母の形見の着物? それとも、健太の学資保険を取り崩す?

スマートフォンの画面が、暗で青っている。 画面に表示されているのは、私のメインバンクのアプリ画面。

【お振込指定座】 佐藤亮介。

私は、その画面をじっと見つめた。

、私はずっと「良い妻」でいようとしてきた。 夫のプライドを守り、義母の嫌を取り、息子のを壊さないように、で穴を掘り、を埋め続けてきた。 私がすれば、このは「幸せな庭」のままでいられると信じていたから。

でも、違った。 私が埋めていたのは、このの赤字じゃない。 夫の、果てしない無責任と虚栄だったのだ。

ツンと、の奥が痛んだ。 涙はなかった。 昼、志保ので零れそうになった涙は、もうどこにも残っていなかった。 残っていたのは、ただたく研ぎ澄まされた、静かなりだけだった。

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「……もう、やめる」

で、声にして呟いてみた。 驚くほど、自然にその言葉が喉を通った。

分。 枕元のスマートフォンが、く震えた。

画面をくと、アプリからのプッシュ通。 【与振込 カ)トウヨウデンキ 450,000円】

いつもと同じ、寸分狂わぬ額。 そして、その直。 まるで計ったかのように、メッセージアプリの通なった。

【義母・悦子:おはようございます。亮介から聞いたけれど、旅の件、午続きしてくれるかしら? 旅会社への支払いが今までなのよ】

さらに、もう通。

学ゼミナール:【期集特訓講座のお続きについて。本15が最終締め切りとなっております】

完璧な包囲網。 いつもなら、ここで私の胃はキリキリと痛み、や汗を流しながら各座の残卓でわせ、どれを優先し、どれを先送りするか、血の滲むようないでパズルを組みてていただろう。

けれど、今の私の指先は、全く震えていなかった。

洗面所から、歯を磨き終えた亮介が、タオルで顔を拭きながらてきた。 ネクタイを締め、アイロンの効いたワイシャツに腕を通している。 完璧な、清潔あふれるサラリーマンの姿。

「朋美、朝飯ありがとね。あ、今だからさ、ちゃんと振り込まれてるか確認しといてよ。じゃ、ってくるから」

亮介は玄関へ向かい、靴べらを使ってピカピカに磨かれた革靴にを滑り込ませた。

「母さんの件、よろしくね。

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