"完璧な夫に給料を突き返した朝" 第12話
「おはよう、お母さん」 「おはよう、健太。トースト焼けてるよ」
健太は黙って席に着き、俯いたままトーストをに運んだ。 亮介はそんな息子の姿を直できず、逃げるように洗面所へと駆け込んでいった。
健太がトーストを半分ほどべたところで、ぽつりと呟いた。
「お母さん」 「ん? 何?」 「……僕、休みの特訓、かなくてもいいよ」
私のが止まった。 胸の奥を、たい針でブスリと刺されたような痛みがった。
「健太……」 「塾の先が言ってたんだ。特訓は、で自分で過問を解きまくれば、ある程度はカバーできるって。それに、僕、公の貫じゃなくて、普通の元の学から公を目指すのでもいいし……」
健太の指先が、さく震えていた。 無理に笑おうとしているけれど、その瞳の端には涙が滲んでいる。 この子は、昨夜の父親の取り乱し方を見て、全てを察してしまったのだ。 自分がすれば、このの嵐が収まるのだと。 かつての私と、全く同じ考回で。
「健太、聞きなさい」
私は息子のにしゃがみ込み、その両を握りしめた。 ペンだこのできた、まださくて温かい。
「あなたはおのことなんて、秒も配しなくていいの。きたいなら、きたいって言いなさい。勉したいなら、したいって言いなさい。子どもの教育費を面するのは、親の責任よ。
広告
あなたが諦めて、の顔を窺う必なんて、これっぽっちもないの」 「でも……お父さん、すごく困ってたから……」 「困るべきなのは、お父さんよ。あなたじゃない」
私はちがり、洗面所からてきた亮介を真っ直ぐに見据えた。 ネクタイを締め、スーツを着た亮介が、鏡ので引き攣った顔をしている。
「……ってきます」
健太はさな声でそう言って、逃げるようにをてった。
玄関のドアが閉まる音を聞き届けた、私は亮介に向き直った。
「聞いたでしょう」 「……」 「あの子に『塾を諦めろ』って言わせるの? あなたが自分の見栄を捨てられないせいで」 「俺だって……俺だってどうにかしたいよ!」
亮介はを抱え、に崩れ落ちるように膝をついた。
「でも、母さんになんて言えばいいんだよ……! 『がない』なんて言ったら、あいつ、うちの実の親戚に話して『亮介の嫁が息子を洗脳して、親孝すらさせない』って言いふらすに決まってるんだ! 親父がきてた頃から、母さんはそういうなんだよ! 世体と親戚の目が全てなんだよ!」
っている。 痛いほどっている。 、その親戚のたい線と、お義母さんの湿な嫌を、全部で防波堤となって受け止めてきたのは、私なのだから。
「じゃあ、あなたが戦いなさいよ」
私の声は、どこまでも徹だった。
「あなたのお母さんでしょ。
広告
あなたの見栄でしょ。……いってらっしゃい、亮介さん。今に、塾の万を振り込むか、お義母さんに万を振り込むか、あなたが決めてね。締め切りは、今までよ」
亮介は蒼な顔のまま、いすようにして玄関からてった。
*
そのの夕方。 私はスーパーのパートの求雑誌をパラパラとめくりながら、リビングで静かに過ごしていた。 専業主婦の座にしがみつく気など、もう毛ない。 健太の学受験、そしてその先の、学。 この無責任な男に息子の未来を委ねるわけにはいかない。 私自が稼ぎ、私自のおで息子を守る準備を始めなければならなかった。
午過ぎ。 亮介から、震えるようなメッセージが届いた。
『塾に、特訓代の万を振り込んだ』
画面を見つめながら、私はさく息を吐いた。 さすがに、息子の目ので「おの特訓はナシだ」と言い放つ度胸はなかったらしい。
だが、その直に続いたメッセージを見て、私の眉がピクリといた。
『母さんへの旅代、万だけ振り込んだ。残りの万は、来必ず払うって約束した』
……万円。 卓を弾くまでもない。 残万千円のから、塾の万と、義母への万を払ったら……。 マイナス万千円。
すでに座はショートしている。 の宅ローンとのローン、どちらかが確実に引き落とせない。
数分、亮介がボロボロの雑巾のような姿で帰宅した。 取りはく、壁にをつきながらリビングに入ってくる。
広告
おすすめ作品
-
完結第19話
母の葬儀を拒んだ叔父と、消えた教育資金350万円
母を突然失った18歳のまほは、葬儀の方法すら分からず父方の本家へ助けを求める。しかし叔父・正尾は「最後まで自分たちだけでやれ」と突き放し、亡き母まで恩知らずだと罵った。 それから15年、まほは苦学の末にIT企業を立ち上げ、約300人を率いる社長へ成長する。そこへ会社が傾いた正尾が現れ、自分の息子・優と娘・沙耶を「親戚だから」と縁故採用するよう要求。だがまほは「親戚枠も縁故枠もない」と公平な選考を突きつける。 やがて従兄妹が本家の納戸から発見したのは、母が祖父母へ何年も仕送りを続けていた証拠と、父がまほの大学進学のために残した約350万円の信託預金だった。しかも、その金は叔父の会社口座へ流れていた。 15年間母を悪者にしてきた叔父の嘘が、ついに物証によって崩れ始める――。親子関係|金銭問題2.8万字5 367 -
完結第10話
クラウドが暴いた午前一時の密会
「23時には行く」 40度近い高熱で生後3ヶ月の息子と救急搬送された私を置き去りにし、夫は電話を20回鳴らしても無視し続けた。 眩しすぎる処置室で泣き叫ぶ我が子。深夜2時、現れない夫の代わりに訪れた児童相談所の車へ、私は震える手で息子を託した。 深夜3時40分、酒と女の香水を漂わせて現れた夫は「接待だ、児相なんて大袈裟だ!」と逆上。 だがその時、家族共有クラウドに次々と同期されたのは、21時15分の花火、そして深夜1時50分のホテルで浴衣姿の後輩社員と笑い合う自撮り写真だった――。 私は冷え切った指先で、弁護士へ一本の電話をかけた。夫婦|親子関係1.5万字5 353 -
完結第12話
離婚を知らずに生活費25万円を催促する夫
3年間無職の夫・浩司から毎月25万円を要求され続けてきた設計士の美保は、出張先のホテルで「振り込まなければ離婚する」と脅されながら、すでに役所で受け取った離婚届受理証明書を静かに見つめていた。 夫は愛人と豪遊し、義母まで共謀して、美保が亡き父から受け継いだ家の名義を書き換えようとしていた。美保は実印を密かに変更し、カードと生活費口座を停止。さらに3年間集めた不正利用、浮気、恐喝、名義変更計画の証拠を弁護士へ渡す。帰宅した彼女に夫は顧客資料を盾に300万円を要求するが、そのファイルは最初からダミーだった。 そして美保がテーブルへ置いた1枚の「離婚届受理証明書」を見た瞬間、自分たちが奪うはずだった家も金も、すでに手の届かないものになっていたと夫と義母は初めて知る――。夫婦|金銭問題1.8万字5 258 -
完結第11話
豪邸を奪う義母と一枚の公正証書
「今日から同居ね。この一番大きな部屋でいいわよ」 庭付き一戸建てを購入した翌朝、引っ越し業者を引き連れた元義母が土足で新居に乗り込んできた。 中卒の元専業主婦と見下され、「不倫女」と理不尽に罵倒されるユイ。だが義母は知らなかった。その家はユイが自力で買い取ったもので、夫とは半年前に離婚済みだったことを。 「慰謝料代わりにこの家を寄越しなさい!」 逆上する義母の前に、ユイは一枚の「公正証書」を突きつける。 ある「不審なメモ」から暴かれた、夫と実の妹によるおぞましい裏切りとは――。 「この名前、誰だか分かりますか?」嫁姑|修羅場1.6万字5 465 -
完結第14話
余命3か月と嘘をついた夫は、離婚後の3000億円を知らない
夫・翔太から「すい臓がん末期で余命3か月」と告げられ、突然離婚を求められたゆい。だが診断書は偽物で、翔太には2年以上関係を続ける愛人・リナがいた。 ゆいは騙されたふりをして離婚に応じる。なぜなら父が残した信託には、婚姻関係が解消された瞬間、3000億円の一族資産が彼女へ移る条件が設定されていたからだ。 さらに翔太には会社資金約5000万円の横領まで発覚する。 莫大な資産を手にしたゆいは、父の顧問弁護士ハルトと共に元夫とその一族へ反撃を開始。ところが調査の果てに、翔太がゆいへ近づいた本当の理由が、20年以上前から続く両家の復讐にあったことを知る。 金と裏切りだけでは終わらない、父世代から仕組まれていた巨大な秘密が姿を現していく――。夫婦|修羅場|不倫2.2万字5 177 -
完結第12話
八万八千円のスカーフと離婚届
ゴミ箱で見つかった高級スカーフ「八万八千円」のレシート。母の日に私へ渡されたのは、千五百円の安菓子だった――。 十四年前に幼子を捨てて逃げた元嫁が突然現れ、泥水をすすって育てた継子たちは一変。「血の繋がらない赤の他人」と罵られ、夫からは一方的に離婚届を突きつけられる。 家族四人でやり直すと私を追い出す夫たち。だが、元義父の四十九日法要に乗り込んだ私の手には、周到に集めた録音データと、二億八千万円の公正証書遺言があった。 そこには、裏切り者たちを戦慄させる「ある解除条件」が記されており――。 弁護士が冷徹に告げる。「全遺産を相続するのは、あなた方ではありません」夫婦1.7万字5 338 -
完結第11話
認知症に仕立てた息子夫婦が奪った実印は偽物だった
雪の降る夕方、はる子は息子・健二と嫁・さやかに「ドライブへ行こう」と誘われ、そのまま人里離れた介護ホームへ置き去りにされる。携帯電話まで奪われ、外出も自由にできない中、彼女はようやく「息子夫婦に捨てられた」と悟った。 さらに2人は、はる子に正体不明の薬を飲ませて混乱させ、認知症の診断を取ろうとしていた。 目的は、失敗したカフェ経営で消えた3000万円と、闇金から借りた2000万円を穴埋めするため、成年後見制度を利用して母の通帳と家を奪うことだった。 しかしはる子は密かに認知症のふりを続け、ズボンに隠したペン型録音機で「後見人になれば通帳も家も私たちのもの」という嫁の声を記録する。 何も分からない老人を演じながら、彼女は息子夫婦が自ら罠に入る瞬間を静かに待ち始める――。親不孝|金銭問題|修羅場1.6万字5 348