"母を遠ざける姉の嘘" 第7話
ここにいるのは、美咲が話で酷に吐き捨てたような「現実と妄の区別がつかない狂」なんかじゃない。 ただの、老いて痩せ細った、私の母親だ。
「お母さん、寒かったでしょう。座って。ゆっくり話そう」
私は母の体を支え、居のこたつへと誘導した。 母は私の腕を掴んだまま、片もそうとしない。まるでをせば、私が煙のように消えてしまうと怯えているようだった。
こたつ布団のに母を座らせ、私もその正面に腰をろした。 で見る母の顔には、確かな気と、そして――それ以にい疲弊が刻まれていた。
「お母さん、昨の話、美咲ちゃんにられた?」
私が尋ねると、母はビクッと肩を竦め、居の入りを怯えたように見つめた。
「美咲は……美咲はね、すごくったわ。『どうして勝に話なんてしたんだ』って。『お母さんが余計なことをするから、千佳が迷惑するんだ』って……」
「迷惑なんかじゃないよ! 私、お母さんと話せて本当に嬉しかった。だから、幹線に乗ってんできたの」
「でも……」 母の瞳に、激しい困惑と恐怖が混ざりう。
「美咲がいつも言ってたのよ。『千佳は京で責任のある仕事をしてるんだから、田舎の母親のことなんていさせちゃいけない』って。『千佳から連絡がないのは、お母さんを忘れたいからだ』って……。お母さん、本当に千佳に捨てられたんだとってた。
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あの蘇のお菓子が届いたも、美咲は『義理で送ってきただけだから、いちいち話なんてしたら千佳に嫌がられる』って言ったのよ……」
胃の奥が、雑巾を絞られるように痛んだ。
美咲は、母に何を吹き込んできたのか。 私が送ったも、贈り物も、仕送りも、すべて「妹の義務な憐れみ」として歪められ、母のに届くに毒を塗られていたのだ。
「お母さん、よく聞いて」 私は母の両を包み込み、その目をまっすぐに見つめた。
「私、度もお母さんを忘れたことなんてないよ。毎、お盆にもお正にも帰省したいってお姉ちゃんに頼んでた。でも、お姉ちゃんがいつも『お母さんの体調が悪いから、千佳が来ると悪化する』って言って、私を実に来させないようにしてたの」
母の目がきく見かれた。 「美咲が……? そんな……だって美咲は、毎『千佳に帰ってこないかって連絡したけど、忙しいって断られた』って……」
やっぱりそうだ。 姉は、野と京ので、完全に報を操作していた。 母には「妹が拒絶している」と嘘をつき、私には「母が拒絶している」と嘘をついていた。
「どうして……?」 母の乾いた唇から、掠れた声がこぼれ落ちる。 「どうして美咲が、そんな嘘を……?」
「それを確かめに来たのよ」
私がちがり、居を見渡した、部の隅にあるさな茶箪笥のに目が止まった。
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そこには、黒い固定話の受話器が置かれていた。 しかし、その本体から伸びているはずのモジュラーケーブルが、壁のコンセントから引に引き抜かれ、茶箪笥の裏側に黒いビニールテープで貼り付けられていた。
「お母さん、これ……」
「あ……」 母が怯えたように顔を伏せる。
「美咲がね、抜いていったのよ。昨の夜、声で鳴りながら……『お母さんはすぐに変な話に引っかかるから、からの話は全部止めとく』って……」
それだけではなかった。
居の壁にかけられたカレンダーを見て、私は背筋が凍りつくのをじた。 付のマス目には、赤と黒のボールペンで、びっしりと異様な指示がき込まれていた。
【8:00 圧剤用(確認必須)】 【10:00〜11:00 庭のむしり禁止(所と会話しないこと)】 【12:00 昼(蔵庫のタッパーAのみ)】 【14:00 美咲訪問(体温・血圧測定)】 【来客があっても絶対に鍵をけないこと。インターホンにないこと】
赤ペンの太い文字は、すべて美咲の跡だった。 「所と会話しないこと」。 「来客があっても絶対に鍵をけないこと」。
これは介護じゃない。 監だ。隔だ。
「お母さん、デイサービスにはってないの? 所のとお茶をんだり、体操教にったりは……」
「ってないわよ……」 母はさく首を横に振った。 「美咲がね、『今のデイサービスは老を虐待するようなところばかりだから、かせられない』って。
『お母さんの面倒は私が全部見るから、余計なのと関わっちゃダメだ』って言うのよ。
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