"帰れなかった実家" 第4話
に倒れ込むようにして履を脱ぎ、居へ駆けがってくるなり、押し入れから季の入った呂敷包みを引っ張りした。
「お義母さん、どうされたのですか」
聞を読んでいた正雄がちがった。
「姉さんが……梨の姉さんが、脳溢血で倒れたそうだ。今夜が峠だって……!」
タミの歳の実姉・フジは、甲府の商に嫁いでいた。幼い頃に母をくしたタミにとって、フジは母親代わりとして自分を育ててくれた唯無の肉親だった。
「の朝番の汽でくよ。いや、今すぐ夜を歩いて駅までれば、臨列に乗れるかもしれない」
震えるで着替えを呂敷に詰め込むタミの背を、台所で茶碗を洗っていた子は、静かに見つめていた。
のあのの夜が、寸分違わぬ形で蘇っていた。
同じ呂敷、同じ慌ただしい支度、同じ肉親の危篤のらせ。
子は茶碗を拭くを止め、ゆっくりと居の敷居を跨いだ。
「お義母さん」
タミは荷物を結ぶを止めずに振り返った。
「何だい、忙しいに」
「かれるのですか」
「当たりだろう! 姉さんがにそうなんだよ!」
子の元に、酷な笑みが浮かんだ。自分でもぞっとするほど、たく乾いた笑いだった。
「私は、かせてもらえませんでしたけれど」
タミの指先が、呂敷の結び目のでピタリと止まった。
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居の空気が、瞬で凍りついた。正雄が息を呑み、母と妻のに割って入ろうとした。
「子、やめろ、今はそんな話をしているじゃ——」
「あなたは黙っていて!」
子の鋭いが、正雄の言葉を断ち切った。5、決して荒らげることのなかった嫁の声に、正雄は気圧されてずさった。
子は歩、タミのへみた。
「私の父が危篤だったあの、お義母さんは何とおっしゃいましたか。『嫁に来た以、あなたの体はこののものだ』とおっしゃいましたね。『は誰でもいつかぬ』と、笑って言い放ちましたよね」
タミの顔から、急速に血の気が引いていった。
「お義母さんは、ののではないのですか? 嫁に来て以経った今でも、実のお姉さんが危篤になれば、のすべてを放りして駆けつけるのが許されるのですか?」
「姉さんは……姉さんは、私を育ててくれた親代わりなんだよ……!」
「私の父だって、私を育ててくれた親でした!」
子の声が、激しいの昂ぶりに震えた。
「なぜ私の父のは『誰でもいつかぬもの』で済まされ、あなたのお姉さんの命は特別なのですか! 嫁の実の命は虫けらで、あなたの血筋だけが尊いとでもおっしゃるのですか!」
タミは畳のに力なく座り込んだ。
握りしめていた呂敷包みがからこぼれ落ち、のに転がった。
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いの妻でも、嫁を威圧する姑でもない。そこにいたのは、さく縮こまり、過の霊に怯えるの老いた女だった。
「……私もね、けなかったんだよ」
掠れた、今にも消え入りそうなタミの声が、静まり返った居に響いた。
「え……?」
子は眉をひそめた。
タミは自らの節くれだった膝を見つめたまま、独り言のように語り始めた。
「昭の初め、私がこのへ嫁いできて目のだった。田植えの真っ最に、実の母が流り邪で急したというらせが届いた」
正雄もらなかったのか、目を見いて母親を見つめていた。
「私はね、泣いて頼んだんだよ。当の姑……正雄の祖母にね。『だけでいい、田植えが終わったら夜通し歩いてでも帰るから、母のに顔を見せてほしい』と、に額を擦り付けて頼んだ」
タミの肩が、刻みに震え始めた。
「だが、許されなかった。『嫁にした娘は、実のに関わるもんじゃない。の田植えを放りすような得者は、の敷居を跨がせない』と言われたよ。私は……母の葬式のに、田のにって、泣きながら苗を植え続けた。涙で霞む目の向こうに、実のが見えていたよ」
子は息を呑んだ。
「その、私はので自分を殺したんだ。『嫁というのは、そういうものなんだ。親のに目にも会えないのが、このに嫁いだ女の定めなんだ』と……そうい込まなければ、狂ってしまいそうだったからね」
タミは顔をげ、涙で濡れた瞳を子に向けた。