"帰れなかった実家" 第6話
本が度経済成の気に沸きつ、女の恵子が22歳になり、隣町の農協に勤める青との結婚が決まった。
婚礼の夜、の広には親族が集まり、華やかな祝宴がかれた。
70歳を過ぎ、すっかり腰の曲がったタミは、座で孫娘のれ姿を細めた目で見つめていた。昔の厳格な面は消え、穏やかな好々爺ならぬ好々婆となったタミのには、古い数珠が握られていた。
翌朝、嫁ぎ先へ向かうに乗り込む直、恵子は玄関先で祖母と母のに正座し、々と礼をした。
「おばあちゃん、お母さん、これまで育ててくれてありがとうございました」
タミは震えるで、孫娘の柔らかなをぎゅっと握りしめた。
「恵子や」
「何、おばあちゃん?」
タミはきく息を吸い込み、隣につ子の顔を度見げてから、はっきりと告げた。
「嫁にってもね……ここがあんたのじゃなくなるわけじゃないんだよ」
恵子がさく目を見張った。
「寂しくなったら、いつでも帰っておいで。お母さんやお父さんが病気になったら、向こうのの顔なんか気にせず、真っ先にんでくるんだよ。あんたはの娘であり、佐々の血を引いた、誰のものでもないあんた自なんだからね」
恵子は祖母のいがけないい言葉に驚いたように目を丸くし、やがて朗らかに笑った。
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「おばあちゃんたら、今どきそんな古い配しなくても丈夫よ。向こうのお義母さんも、優しいなんだから」
「そうかい……そうかい、それならいいんだ」
タミも破顔し、孫娘の背をポンポンと叩いた。
しかし、その景をろで見つめていた子だけは、笑うことができなかった。いものが喉元まで込みげ、胸が締め付けられるように震えていた。
が砂埃をげてりり、親類たちが引き揚げた夕暮れ。
タミは仏壇のに静かに座っていた。線の煙の向こうには、き夫と、あの回忌を営んだ祖父の遺が並んでいる。
子が盆に載せた湯呑みを運んでいくと、タミは振り返らずに言った。
「子さん」
「はい、お義母さん」
「……あののこと、私はぬまであの世へ持っていくよ。あなたのお父さんに、あんな残酷なことをした罪は、どれだけ仏様拝んでも消えやしない」
子はタミの隣に静かに正座した。
「お義母さん。私、あののお父さんのたいの触を、今でもに見ることがあります」
タミはさく肩を震わせ、頷いた。
「忘れることはできません。許せたのかと聞かれれば、今でも分かりません」
「……うん、それでいい。許しておくれなんて、言える義理じゃない」
「でもね、お義母さん」子は仏壇のを見つめ、静かに微笑んだ。「恵子の背を見送った、いました。
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あの昭30のの夜から始まった苦しみが、今、ようやく終わったんだって」
タミが驚いたように顔をげた。その皺だらけの頬を、筋の涙が伝い落ちていた。
「あなたが恵子にかけてくれた言葉を聞いて、救われました。私たちの世代で、あの呪いを止めることができたんです。それだけで……父もきっと、笑って許してくれるといます」
タミは顔を覆い、声を忍ばせて泣いた。
昭22にしい民法が施され、法のの「制度」は廃止された。しかし、々の血肉に染み付いた「嫁」という名の鎖を断ち切るには、それからさらに何もの歳と、名もなき女たちの流した血の滲むような涙が必だったのだ。
夕が迫るあいの里に、寺の鐘の音がく響き渡っていた。
台所からは、今夜の夕餉を炊く竈の煙が、夕暮れの空へと真っ直ぐにちっていた。その煙は、もはや過の暗に縛られることなく、どこまでもく、澄み切ったの空へと溶けっていった。
の夕暮れ、え込みが厳しさを増したあいのを、タミはで歩いて戻ってきた。
駅へ迎えにた正雄が自転の荷台に荷物をくくりつけ、母に付き添って歩く姿が、の格子戸越しに見えた。タミの取りは、発した夜の取り乱した様子とは打って変わり、酷くく、どこか老け込んだように見えた。
玄関の敷居を跨いだタミは、に膝をついて履を脱ぐ際、迎えた子の顔をまともに見ることができなかった。