"帰れなかった実家" 第9話
これまで、温かく育てていただき、本当にありがとうございました」
々と畳に額をつける娘の姿に、正雄は目を押さえ、子はそっと膝のでを握りしめた。
タミは杖を脇に置き、震える膝に両を当てて、孫娘をまっすぐに見据えた。
「恵子や」
「はい、おばあちゃん」
「嫁にってもね……ここがあんたのじゃなくなるわけじゃないんだよ」
かつて昭30のあの、子に対して「こののだ」と酷に言い放ったその同じから、正反対の言葉が絞りされていた。
「寂しくなったら、いつでも帰っておいで。お母さんやお父さんが病気になったら、向こうのの顔なんか気にせず、真っ先にんでくるんだよ。向こうの親御さんに何か言われたら、『の祖母がそう言って送りしました』と言いなさい。あんたはの娘であり、誰のものでもないあんた自なんだからね」
恵子は涙を零しながら、屈託のない笑顔を咲かせた。
「おばあちゃんたら、今どきそんな古い配しなくても丈夫よ。向こうのお義母さんも、本当は器用なだけで優しいなんだから」
「そうかい……そうかい、それならいいんだよ」
タミは破顔し、シワだらけの顔をくしゃくしゃにして笑った。
ハイヤーのドアが閉まり、砂埃をげてがっていくのを、族全員でいつまでも見送った。
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の陽が、肌の緑をまばゆく照らししていた。
親戚たちが座敷へ戻り、片付けが始まった夕暮れ。
子は、仏壇のにで座り込んでいるタミの背を見つけた。
線の煙が細くちる、タミは位牌に向かってをわせ、く経文を唱えていた。その隣には、あの回忌を営んだ祖父の古い写真と、タミの夫の遺が並んでいる。
子は湯呑みを載せた茶托をに、音を忍ばせて歩み寄った。
「お義母さん、お茶が入りましたよ」
タミは振り返らなかった。ただ、線のを見つめたまま、掠れた声で言った。
「……子さん」
「はい」
「あなたのお父さんのこと、私はぬまであの世へ持っていくよ。あんな残酷なことをした罪は、どれだけ仏様を拝んでも消えやしない」
子はタミの隣に、静かに正座した。
仏の暗がりので、の呼吸だけが静かになりっていた。
「お義母さん」
子は膝のでねた自分のを見つめながら、静かに言葉を紡ぎした。
「私ね、あののお父さんのたいの触を、今でもに見ることがあります。報を見たの、あの目のが真っ暗になった覚も、汽ので流した涙のしょっぱさも、忘れることはできません」
タミはさく肩を震わせ、黙って頷いた。
「許せたのかと聞かれれば、今でも分かりません。
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『はい、許しました』なんて綺麗事を言えば、あのたい棺ので眠っていたお父さんに嘘をつくことになりますから」
「……うん、それでいい。許しておくれなんて、言える義理じゃないよ」
タミの頬を、筋の涙がつたい落ちた。
「でもね、お義母さん」
子は仏壇の蝋燭の揺らめく炎を見つめた。
「今、恵子にあの言葉をかけてくださった、私、胸の奥のつかえがすっとりた気がしたんです。……あなたが恵子を守ってくれた。私がわったあの獄を、恵子には絶対にわわせないと言ってくれた。それだけで……私は救われました」
タミが息を呑み、顔をげた。
「もしあの、お義母さんが頑なに昔の掟を恵子に押し付けていたら、私はきっと、あなたを呪い続けたといます。でも、あなたは自分の痛みを認め、自分の過ちを認めて、その呪いを自分の代で断ち切ってくれた」
子はタミの痩せ細った、たいをそっと両で包み込んだ。
「私たちは、昔の族の形を壊したのかもしれません。でも、壊さなければ、誰も息ができなかった。お義母さんも、私も、恵子も……みんな、あの暗い田ので苗を植え続けるしかなかったんです」
タミのから、堰を切ったような嗚咽が漏れした。
「子さん……悪かったねぇ……本当に、済まなかったねぇ……」
の老女が、娘のような嫁のを握りしめ、子どものように肩を揺らして泣き続けた。
、田ので母親のに目にち会えず、涙をで洗い流した女が、半世紀のを経て、ようやく自らの流した涙のを見した瞬だった。