"給料袋を取り上げる姑と、娘の進学" 第7話
「お母ちゃんが働いているのはね、あんたの荷になるためじゃないのよ。あんたを犠牲にして、あんたに気を使わせるためにへってるんじゃないの」
「でも……」
「お母ちゃんはね、悔しかったの」 典子は自分の胸にを当てた。
「の、学が好きで、本を読むのが好きで、もっと勉したかったのに……『が貧乏だから』『女だから』って理由で、先にをげてへ働きにされたの。汽のでね、の町へく同級たちを見送りながら、お母ちゃん、唇を噛み切るほど悔しかった。あのの悔しさはね、経った今でも、昨のことのようにいせるのよ」
恵子の瞳が、きく揺れた。
「自分のをね、誰かに勝に決められて、諦めさせられることほど、にとって惨めなことはないの。お母ちゃんは、あんたにだけは、絶対にそんないをさせたくない。……恵子。お母ちゃんのことなんて、配しなくていいの。おばあちゃんに何を言われようが、お父ちゃんが頼りなかろうが、そんなことはの問題なのよ。あんたが背負うことじゃないの」
典子は娘のを、痛いほどく握りしめた。
「だから、本当のことを聞かせて。周りのことなんか全部忘れて、あんたののにある、本当の気持ちを教えておくれ。……恵子、あんたは本当はどうしたいの?」
沈黙が流れた。
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が吹き抜け、線がヒューヒューと鳴をげる。 恵子は唇を震わせ、何度も息を吸い込んでは吐きした。迷い、恐れ、そして母親への慮が、女のさな胸ので激しくせめぎっていた。
やがて――。 恵子は袖で乱暴に涙を拭うと、真っ赤になった目で、典子をまっすぐに見つめ返した。
「……きたい」
絞りすような、けれど確固たる志の宿った、凛とした声だった。
「私、へきたい。もっと難しい本を読んで、もっと広い世界を見てみたい。……できるなら、その先も勉して、自分で働いて、お母ちゃんをこのから連れしてあげられるようなになりたい!」
その言を聞いた瞬、典子の界が涙で滲んだ。 だが、その涙は先ほどまでの悔し涙ではなかった。魂の底から湧きがる、歓と覚悟の涙だった。
「よし!」 典子はちがり、娘の背をバシッと力く叩いた。
「よく言った! それでこそ、私の子だよ。決まりだ。あんたは女を受ける。そのためのは、お母ちゃんが絶対に用する。あんたはだけ見て、机にかじりついて勉しなさい!」
「……うん!」
恵子の顔に、数ヶぶりに本当の笑顔が咲いた。 はをつなぎ、夕暮れのをへと急いだ。 母の覚悟と、娘の志が、初めて本の固な鋼の糸となって結ばれた瞬だった。
だが、運命の歯は、容赦なくを次の試練へと引きずり込んでいく。
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そのの暮れ、典子が命がけで隠し通してきた「秘密」が、最悪の形でのに晒されることになろうとは、こののはまだる由もなかった。
昭の。 官公庁の仕事納めの、それは突然やってきた。
が午で終わり、典子が急いでに戻ると、玄関のに見慣れない自転がまっていた。郵便配達の赤い実用だった。 胸騒ぎを覚えながら式台にがった典子の目に、居の異様な景がび込んできた。
ちゃぶ台のに、仁王ちになったタツ。 その元には、真っつに引き裂かれた青い片が散らばっていた。 郵便局から送られてきた、定期預の利計算通――いわゆる「残確認ハガキ」だった。
「……お義母さん」
典子の喉から、掠れた声が漏れた。 タツの顔は、りで青く引きつり、額には青筋が浮きていた。には、あの古い李の底から引きずりされたのであろう、典子の青い通帳が握られていた。
「これはいったい、何の真似だい」
タツの声は、く、うような気を孕んでいた。 畳のに、通帳がピシャリと叩きつけられる。 かれたページには、とに典子が密かに積みてた、計『千円』の数字が印字されていた。
「のを横領して、こそこそと自分名義の座に隠していたのかい。
おは……このに棒まで働くようになったのか!」
「棒じゃありません!」 典子もまた、恐怖をねじ伏せ、歩に踏みした。