"給料袋を取り上げる姑と、娘の進学" 第9話
「今ここで千円浮かせたって、へけば毎がかかるんだぞ。教科代だ、定期代だ、修学旅の積だって……おで全部払えるわけないだろ。結局、計からすことになるんだ。……なあ、母さん、とりあえずこの通帳は母さんが持っててくれよ。典子も、もう正の準備で忙しいんだから、この話はまた今度……落ち着いたに話しえばいいじゃないか」
「今すぐ決めなきゃ駄目だって言ってるでしょうが!!」
典子の喉から、獣のような鳴が迸った。 ちゃぶ台のの湯呑みが倒れ、たい茶が畳に広がっていく。 浩がビクッと肩をねさせ、タツも眉をひそめた。
「あなた……自分が何を言っているのか分かってるの!? 『また今度』って何よ! 今決めなかったら、恵子は願すらせないのよ! 誰が恵子のの責任を取るの!? お義母さんなの!? それとも、逃げてばかりのあなたなの!?」
「な、なんだよその言いは! 俺だってで懸命働いて、料を全部に入れてるじゃないか! の主に向かって、なんてを利くんだ!」
浩が顔を真っ赤にして鳴り返した。 だが、その瞳の奥にあるのは、自尊を傷つけられた男の浅ましい防本能だけであり、娘の未来に対する責任など、欠片もしなかった。
典子は、崩れ落ちそうになる膝を必で支えながら、夫を、そして姑を見据えた。
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このは、狂っている。 母親が計の殺与奪の権を握り、 夫は「料を運んできた」という事実だけで責任を果たした気になり、 娘の未来は、族の体面と跡取り息子のために、平然と贄に捧げられる。
「……分かりました」
典子は畳のに散らばった通帳を、素く拾いげた。 タツが「あッ、返しなさい!」とを伸ばしたが、典子はそれを鋭く払いのけた。
「この通帳は、渡しません」 「典子!」浩がちがった。 「渡しません。これは私が働いて稼いだおです。恵子の受験料です。……もしこの通帳を奪うなら、私は今夜、子どもたちを連れてこのをていきます」
「な……!」 タツが絶句した。 昭代の農帯において、「嫁が子どもを連れてをる」という言葉は、名に対する最級の脅迫だったからだ。
部の隅、襖のから、恵子が息を殺して母を見つめていた。 その瞳には、恐怖ではなく、自らのために鬼となってち塞がる母への、狂おしいほどの信頼が宿っていた。
だが、本当の修羅は、願の提期限という「タイムリミット」をにして、さらに残酷な形で幕をけようとしていた。
昭の正は、井にとって過に例を見ないほど寒々しいものだった。
のに飾られたさな鏡餅のさが、暗い座敷で異様に浮きっていた。元旦の朝、箱に詰められたのは、タツが煮しめた黒豆と数の子、それにの欠けた田作りだけ。
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いつもなら浩の晩酌に酒が振るわれ、親戚への賀の挨拶での笑い声が交わされるはずの居は、苦しい沈黙に支配されていた。
典子は朝から台所にち、雑煮の餅を焼き、根を冊に切りながら、切タツと線をわせなかった。タツもまた、典子に指図することなく、ただ仏壇のに座って珠を繰り続けていた。 ので交わされる言葉は「醤油を取っておくれ」「はい」という、必最限の事務連絡のみ。夫婦の寝でも、浩は布団に入るなり背を向け、狸寝入りを決め込んでいた。
そんな凍りついた空気を破ったのは、歳の男・正の無邪気な歓声だった。
「見て、姉ちゃん! ばあちゃんが、お玉で買ってくれたんだ!」
正が誇らしげに掲げたのは、属製の真しい段式の箱だった。蓋の表には、幹線の絵が鮮やかなエナメル塗料で描かれている。ければ、削りての菱の鉛が本、赤青鉛、象のマークの消しゴムが、誇らしげに並んでいた。
「すごいだろ。これ、町の番きい文具にしかなかったんだ。ばあちゃんが、正はからになるから、しっかり勉していい学へけって」
恵子は、座卓のでい綿入れの袖を引っぱり、を隠しながら、さく微笑んだ。 「よかったね、正。事に使いなさいよ」
その声の震えを、典子は見逃さなかった。