"給料袋を取り上げる姑と、娘の進学" 第11話
「よそはよそ、うちはうちです」 タツの声は、内の弁をまるで油を弾くのようにね返した。
「奨学だろうが何だろうが、借は借です。女の子が所のへ嫁にくに、学歴という名の贅沢と借を背負わせてどうするんですか。女に必なのは、慎ましさと、を守る忍耐です。……先、これ以のお話は無駄でございます。お引き取りを」
内は唇を噛み締め、悔しさに顔を歪めながらちがった。 そして、玄関で見送る典子に向かって、震えるで願の用を押し付けた。
「お母さん……諦めないでください。締切は今週の曜、午までです。それまでに、教育委員会へ直接持ち込めばにいます。……恵子さんの未来を、の都で殺さないでやってください!」
内がった、に残された典子のので、純の願がクシャリと音をてて歪んだ。
引き戸が閉まった瞬、典子の胸ので何かが完全に弾けんだ。
「お義母さん!!」
典子はのまま式台を駆けがり、茶ののタツのにち塞がった。 まれて初めて、義母を見ろす位置から、喉が張り裂けんばかりの声を叩きつけた。
「どうして……どうして本ので、あんな酷い嘘をつくんですか! 就職が決まってるなんて、誰が決めたんですか! どうして恵子のを度も聞かないんですか!」
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タツは驚きもせず、静かに湯呑みを片付けながら、淡に言い放った。
「親が決めるのは当たりだろう。まだの娘に、世の何が分かるんだい」
「世が分からないのは、お義母さんの方です!」 典子の叫びは、もはや敬語の体裁すら保っていなかった。
「先の言う通りよ! 今はもう、戦じゃないんです! 昭なんですよ! オリンピックが来て、幹線がって、女の子だって自分の腕できていく代なんです! なぜ正の代は円単位で積みてて、恵子には受験の会すら与えないんですか!?」
「がないからだよ!」 タツもまた、ちがった。柄な老婆の全から、凄まじい気迫がちる。
「へかせたら、授業料だけじゃ済まないんだよ! 通学の定期代、のような制代、修学旅の積、教科、参考……! あの子に何万円も使ったら、正が学をるに、正の学資が底をつくだろうが! 男の子が学できなくなったら、誰がこの井のを背負ってつんだい!」
「じゃあ恵子は!?」
典子はタツの胸ぐらに掴みかからんばかりに詰め寄った。涙が、りので沸騰して頬を焼いていく。
「じゃあ、恵子はこのの何なんですか! 正のための具ですか!? このを維持するための贄ですか!? 恵子だって、浩さんと私の、血を分けた切な子どもじゃないですか! なぜあの子だけが、最初から切り捨てられなきゃならないんですか!!」
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「……」
タツのが、初めてく閉ざされた。 いつもなら、髪入れずに「女だからだ」「嫁の分際で」と浴びせかけてくるはずの罵声が、てこない。
タツの濁った瞳が、わずかに揺れていた。 その線は、典子を通り越し、座敷の奥の暗い仏壇へと注がれていた。 仏壇の奥に掲げられた、煤けた古い黒写真――代半の若さで軍を着て戦した、タツのき実弟の写真だった。
「……おに、何が分かる」
タツの声から、先ほどまでの激昂が抜け落ち、代わりに鉛のようにくたい響きが染みしてきた。
「おに……私の何が分かるっていうんだい」
その呟きは、典子に向けられたものではなかった。 半世紀、この国の暗がりで自らの未来を圧し殺し、その痛みを「正しさ」へとすり替えることでしかき延びられなかった、の女の怨の残滓だった。
その夜、浩が帰宅したのは夜を過ぎていた。 同僚と酒を煽ってきたのか、酒臭い息を吐きながら玄関に入ってきた浩のに、典子は逃げを塞ぐように座っていた。
「……なんだよ、典子。まだ起きてたのか」 浩は妻の尋常ではない形相を見て、酔いを引かせたようにずさりした。
「あなた。お義母さんの昔の話を、教えて」 「は……? 母さんの昔の話?」
「お義母さんは、どうしてあそこまで女の子の学問を憎むの。どうして、恵子の学を親の敵みたいに拒むの。