"給料袋を取り上げる姑と、娘の進学" 第15話
「……おばあちゃん?」 恵子がおずおずと受け取る。 封筒のを覗き込んだ恵子が、息を呑んだ。
千円札が、枚。 ピン札ではない。何度ものを渡り、角が丸くなった、くしゃくしゃの千円札が枚、几帳面に折り畳まれて入っていた。
「……これで、しい通学鞄をお買い」
タツの声は、恐ろしいほど平坦だった。 慈も、優しさも、切含まれていない、砂を噛むような乾いた声。
「へくのを、認めたわけじゃないよ。おが勝に受けて、勝に落ちるならそれまでのことだ。……ただ、井のの名がついた子供が、破れたボロ鞄を提げて汽に乗るなんて、世体が悪くて所に恥ずかしいからね。それだけだよ」
タツはそう言い捨てると、典子の方を度だけチラリと見た。 その瞳には、敗を認めた悔しさと、しかし自らの呪縛を破られたことに対する、名状しがたい複雑なが宿っていた。
典子は、突きされた千円を見つめ、くをげた。 「……ありがとうございます、お義母さん」
「礼を言われる筋いはないよ」 タツは背を向け、障子をピシャリと閉めて奥のへと消えていった。
恵子は茶封筒を胸に抱きしめ、典子を見げた。 「お母ちゃん……これ……」 「持っていきなさい」典子は娘の肩を抱いた。「おばあちゃんが、自分のと戦って、絞りしてくれたおだよ。……さあ、見にこう。
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あんたの番号を!」
はを取りい、のが満ち始めたを駆けした。
の庭に張りされた巨な布。 『受験番号 』 その数字を見つけた瞬、恵子は典子の胸にび込み、は目も憚らず、声をげて泣き続けた。
格発表から週。 町の用品で、恵子のしい通学鞄が買われた。黒い牛革の、角がしっかりとした、角い学鞄。タツのくれた千円は、寸分違わずその鞄の代へと変わった。
だが、このが「美談」のように解することはなかった。
タツは依然として、恵子の学を放しでぶことはしなかった。 親戚から「恵子ちゃん、女に入ったんだってねえ! したもんだ」と話がかかってきても、タツは「ええ、親が無理をさせましてね」とややかに答えるだけだった。
夕の席でも、タツは正には相変わらず魚の太い部分を盛り、恵子の皿には尾にいいを置いた。 父制の残滓と、自らが歩んできた「女の犠牲」の歴史は、たかだか回の受験の成功くらいで、簡単に消えるほど浅いものではなかったのだ。
けれど、典子の態度は決定に変わっていた。
ある晩、台所で洗い物をしていた典子の隣に、タツが湯呑みを持ってやってきた。 のに流れる、いつものい沈黙。 タツがポツリと呟いた。
「……おは、私が憎いんだろうね」
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典子はを止めず、たい井戸で茶碗をすすぎながら、静かに答えた。
「憎いとったこともありました。今でも、許せない言葉はたくさんあります」 「……」 「でも、お義母さんの帳面を見て、浩さんから昔の話を聞いて、分かりました。お義母さんは、このを守るために、自分を殺してきてこられたんですね」
タツの眉が、ピクリといた。
「お義母さんが欲しかったのは、私の料袋のおじゃなかった。……こののく末を、誰がどう決めるのかという【権利】だったんですね」
典子は茶碗を伏せ、濡れたを掛けで拭いて、タツをまっすぐに見つめた。
「お義母さんのきてきた代は、そうするしかなかったのかもしれません。でも、恵子の代は違います。私は、あの子に自分の未来を自分で決める権利を渡したかった。……それだけです」
タツは何も言わなかった。 ただ、に持った湯呑みの縁をじっと見つめ、やがてさく、かすかに息を吐きすと、何も言わずに茶のへ戻っていった。
「分かりえた」わけではない。 タツの価値観が変わったわけでもない。 しかし、の女のには、互いに自らの信のために血を流した者同士の、乾いた、妥協のない「境界線」が、確かに引かれていた。
易に抱きい、許しうことなどできない。 けれど、もう度と、相を自分の都のいい奴隷として扱うことはできない。
それは、傷だらけの闘争の果てに勝ち取った、静かで、徹なしい族の距だった。