みかん小説
本棚

"祖父が私に遺した最後の拒否権" 第2話

類の確認に入らせていただきます」

それまで静かに分いファイルを繰っていた司法士の松永が、鏡のブリッジを指で押しげながらいた。 を過ぎた髪混じりの、この町で業している堅物そうな男だ。

松永は、父が提した登記簿謄本と、津が用した売買契約の承諾に目を落としていたが、ふとを止め、引きしのから茶で閉じられた別の類を取りした。

「佐伯健さん。そして、咲さん」

松永の声は、く、妙に改まっていた。

の所名義自体は、公正証遺言に基づき、すでに法定相続である健さんに単独移転の続きが完しております。通常であれば、健さんご本の署名捺印と印鑑証があれば、第者への売買契約は成いたします」

「だったら、何をぐずぐずしてるんだ」

父が苛ちを隠さずに舌打ちをした。

「咲だって納得してわざわざ京から来たんだ。くハンコを押させて、津さんに決済の続きをめてもらわんと、今週が入らんのだろうが」

津も慌ててを挟む。

「ええ、松永先。買い側の担当役員も、本の夕方には稟議の最終決裁を待っておりますので」

しかし、松永司法士は首を縦に振らなかった。 彼は茶き、几帳面な毛かれた枚の文を、机の央へと滑らせた。

広告

そこには、葬された祖父の、あの震えながらも芯のい独特の跡が残されていた。

「源造が、くなる半――ご自の判断能力が完全に晰であった期に、当事務所で作成された『秘密証遺言』の付帯条項です」

「付帯条項……? そんなもの、遺産の分配は全部俺にするって遺言いてあったはずだぞ!」

父がを乗りし、机を拳で叩いた。

松永は眉かさず、淡々と指先で類の節を指し示した。

「ええ。所権および管理責任は健さんに帰属する。しかし、そこには確な止条件が付されております。『当該果園用の全部または部を第者に償譲渡、賃貸、あるいは担保提供する、いかなる理由があろうとも、孫・佐伯咲の事の自由志による面同を絶対の件とする。咲の署名捺印なき処分為は、無効とする』」

の空気が、瞬で凍りついた。

カチ、カチ、と壁の掛計の秒針の音だけが、無慮に響く。

「……は?」

父のから、抜けな呼気が漏れた。

「なんだそれ。どういうだ」

「文面の通りです」 松永は私にまっすぐな線を向けた。 「このを売るか売らないか、その最終な決定権は、健さんではなく、咲さんにあります。咲さんが『売らない』と拒否した、この売買は法に成いたしません」

広告

「ふざけるな!」

父ががった。 パイプ子が甲い音をててを擦る。 父の顔は、驚きを通り越して、屈辱とりで赤黒く染まっていた。

「親父は何を考えてんだ! 咲はだぞ! 京にかまけて、盆も彼岸も帰ってこねえようなな娘だ! ひとつ触ったこともねえやつに、なんで俺のの指図をされなきゃならんのだ!」

「お父さん、落ち着いて……」 母がおろおろと父の袖を引くが、父はそれを乱暴に振り払った。

「落ち着いてられるか! 俺がこれまでどれだけあのクソ忌々しい果園の面倒を見てきたとってんだ! 親父が腰を痛めてからは、農薬散布も刈りも、全部俺がやってきた! 赤字を埋めるためにトラックの運転の夜勤までやって、すすってを守ってきたのは俺だぞ! なんで最に、京で涼しい顔して暮らしてる娘の許るんだ!」

父の鳴り声が、狭い部の壁に反響する。 び散った唾が、机の類のさく落ちた。

私は、息を止めたまま、机の類を見つめていた。

おじいちゃん、どうして。

で、たい疑問が渦を巻いた。 私は決して、祖父にとって「い孫」ではなかったはずだ。 を卒業する京の学へきたいと言った私に、父は猛反対した。「女が京の学にってどうする」「業の帳簿でも伝え」

鳴り散らす父の横で、祖父はただ黙って煙を吸っていた。 私がる朝、祖父は私に言も声をかけなかった。

広告

おすすめ作品

リンクを共有

以下のリンクをコピーして友達と共有してください: