"祖父が私に遺した最後の拒否権" 第11話
そして『買主が指定する施業者』が法な見積もりをしてくれば、どうなるといますか?」
血の気が、サッと引いていくのが分かった。
「千百万円で売れたはずの代から、千百万円が『撤費用』として引かれる。残るのは、わずか百万円です」
「そ……そんな……」
「それだけじゃありません」 藤は言葉を続けた。 「この物流会社、過にも隣の町で同じようなトラブルを起こしています。まず相よりい額を提示して、に困っている権者に仮契約を結ばせる。決済が終わってヶに『害物質がたから千万円払え』と内容証を送りつけるんです。農側が裁判を起こそうにも、契約にこうして記されていれば、素が勝つのは極めて難しい。結局、泣き寝入りしてだけく巻きげられる」
津の、あの笑顔が脳裏に浮かんだ。 『買い企業様は、付の準備もえております!』 『咲様さえ同していただければ、何つ問題はございません!』
嘘だった。 最初から、父の無と焦燥に付け込み、骨までしゃぶり尽くすための罠だったのだ。
もし私が昨、言われるがままにサインをしていたら。 付の百万円で母の術を受け、遥の居の準備をめた数ヶ、佐伯には千万円を超える巨額の請求が届いていたのだ。
広告
そうなれば、術の母を抱え、婚の遥にまで迷惑をかけ、佐伯は本当に破産するしかなかった。
「……ありがとうございます、藤先」
私は震えるで類を鞄に詰め込んだ。
「佐伯さん、気をつけて」 藤がちがり、配そうに私を呼び止めた。 「相は百戦錬磨のげです。急がせているということは、向こうもく堀を埋めてしまいたい証拠だ。決してで抱え込まないでください」
「はい。絶対に、判は押させません」
事務所をた私のは、のを実へとっていた。 りで、全の血液が沸騰しそうだった。 父にこの事実を突きつけなければならない。 自分たちがどれほど恐ろしい崖っぷちにたされていたのか、その目をこじけて見せなければならない。
***
実の玄関をけた瞬、漂ってきた異様な空気に私はを止めた。
がり框に、見慣れない男物の革靴が、脱ぎ捨てられていた。 除けのついた、物の黒いビジネスシューズ。
津だ。
「……ですから、健さん。これが最のチャンスなんです」
居から、津の粘りつくような声が漏れ聞こえていた。
「買い側も、いつまでも待てませんよ。の夕方までに咲様の署名捺印が揃わない、購入条件の見直し……具体には、買取価格を千百万円まで引きげざるを得ないと、役員会で決定いたしました」
広告
「に……千百万!?」 父の鳴のような裏返った声が響いた。 「そんな……千万もがるのか!? 冗談じゃない! それじゃ借も返せないし、遥の結納だって……!」
「ええ、ですから! 今すぐ咲様を探しして、判を押させるべきなんです! 親の言うことが聞けない娘なんて、力づくでもかせるのが筋でしょう! それとも健さん、娘のわがままのために、ご族全員でに迷うおつもりですか!?」
バタバタと畳を叩く音がした。 父が、津のでをげているのだ。
「頼む、津さん! 値段だけはげないでくれ! 咲には絶対にかせる! 俺が……俺が責任を持って、今夜にハンコを押させるから!」
「お父さん、やめて!!」
私は居の引き戸を、力任せにけ放った。
バーン、と戸が鴨居に激突し、乾いた音が響いた。
部のにいた全員の線が、斉に私に突き刺さった。 座卓のには、すでに津が持参した契約の最終版と、朱肉が置かれていた。 父は額を畳に擦り付けんばかりに平伏しており、母はコタツの隅でさく震え、遥は泣き疲れた顔でぼんやりと座っていた。
「咲……!」 父が弾かれたように顔をげた。その顔はと涙で汚れ、醜く歪んでいた。 「帰ってきたか! どこへってたんだ! ほら、今すぐここに座れ! 津さんが待っててくださってるんだ! ここに名をけ!」
津は、私を見てややかな笑みを浮かべた。
昨までの卑屈な笑いは消え、獲物を追い詰めたハイエナのような目をしている。
広告
おすすめ作品
-
完結第19話
棺の中の男を、夫は知らない
親を捨てて逃げた冷酷な男だと親族中から罵倒される義兄の葬儀で、義母は涙を流し、夫を支えの孝行息子だと称えていた。だが焼香台へ進む夫の前に立ちはだかった私は、「あなた、本当に棺の中にいるその人を知っているの」と告げた。夫が隠していたのは、過去五年間、毎月義兄へ送り続け、そのたびに全額突き返されていた六十回分の送金記録だった。血の気を引かせる夫と親戚の前で、私はその明細を祭壇の上に広げた。兄弟姉妹|親不孝|絶縁|親子関係|修羅場2.8万字5 0 -
完結第21話
妹のドレスを二十センチ切った
妹の結婚式を数時間後に控えた深夜二時、私はリビングで特注のウェディングドレスに裁ち鋏を入れた。事故で右足に傷が残る妹に対し、相手の家族は配慮という名目で足を隠す重いドレスを強要し、当日は動かず座り続けるよう言い含めていた。母の怒声が響き、私の頬に平手打ちが飛ぶ。泣き崩れる妹の足元には、前裾だけが二十センチ切り落とされた純白の布が散らばっていた。私は鋏を置き、「今日これを着て出なさい」とだけ告げた。裡切られた|兄弟姉妹|裡の顔|親子関係|修羅場3.1万字5 0 -
完結第21話
母を遠ざける姉の嘘
長野で一人暮らす母の介護を一手に担う姉から「母の体調が悪化するから来るな」と言われ、私は五年間帰省を控え、毎月五万円の仕送りを続けていた。だがある夜、母から五年ぶりに直接電話が入る。「まだ怒ってるの。あんたが私の顔も見たくないと言っていたと姉から聞いた」と母は怯えていた。直後に受話器を奪った姉は「母の被害妄想だ」と言い放つ。不審に思った私は姉に告げず始発の新幹線に乗り、五年ぶりに実家の引き戸を開けた。兄弟姉妹|裡の顔|親子関係|介護3.2万字5 0 -
完結第19話
完璧な夫に給料を突き返した朝
毎月二十五日、夫は手取り四十五万円の給料を一円も引かずに私の口座へ振り込み、親戚の前で完璧な夫として称賛されている。だがその裏で、私は息子の塾代を払うために結婚五周年の指輪を買取店へ持ち込んでいた。固定費と夫のカード代だけで毎月赤字が続き、私の独身時代の貯金も底をついた。翌朝、いつも通り振り込まれた四十五万円の通知を見つめた私は、その全額をそのまま夫の口座へ送金し、スマートフォンの画面を伏せた。嫁姑|夫婦|金銭問題|修羅場2.9万字5 20 -
完結第20話
教室の最後列に座る元教員
定年退職した元教員の私は、一度も教えたことのない男子生徒の保護者会に、身元を偽って六年間通い続けていた。教室の最後列から見つめる先には、油まみれの作業着を着た父親が座っている。受付簿の不審な記録に気づいた校長から昇降口で問い詰められた帰り道、桜が散る坂道でその父親が私の前に立ちふさがった。二十四年前の元教え子だったその男は、振り返りもせず、私の背中に向けて「あの席、あと何年座るつもりですか」と低く告げ怒り|真実|親子関係|修羅場3.1万字5 8 -
完結第20話
祖母は十二年年賀状を書いてない
八十歳を迎えた祖母のため、私はいとこたちと過去十二年分の年賀状を集めて記念のアルバムを作った。毎年元旦に届く「元気に暮らしています、トマトがたくさん実りました」という三行は、遠方で暮らす私たちが実家の無事を疑わずに済む確かな証拠だった。だが親戚一同が集まる祝宴の席でアルバムを開いた瞬間、祖母は整った文字を見つめ、十二年間一度も年賀状など書いていないと言い放った。親族の視線が一斉に、実家の近くで暮らす叔母へと向かう。孤獨|親子関係|介護|認知症3.0万字5 12 -
完結第21話
優しい教室で震える息子
息子が突然学校に行けなくなり、担任は「いじめなどなくクラス全員に愛されている」と胸を張った。不審に思った私が息子のランドセルを調べると、底板の裏から三十七枚の給食費受領書が出てくる。我が家は困窮などしていないのに、三ヶ月間、生徒全員が日替わりで息子の昼食代を立て替えていた。私が学校へ確かめに行こうとした瞬間、息子は「言わないで」と叫んで床に泣き崩れ、その紙片を必死に胸へ抱え込んだ。怒り|裡の顔|親子関係|金銭問題3.2万字5 7 -
完結第15話
五人の元彼と三万一千円
結婚式当日の朝、ホテルのフロントに差出人不明の現金書留が五通届いた。中身はすべて、三万一千四百八十円という奇妙な端数のご祝儀だった。面識のない私の歴代の元彼五人からだと気づき、私は血の気を引かせて金庫への保管を頼み込む。だが、不審に思った夫が私の手提げから抜き取ったのは、三週間前に私がその五人へ同額を送金した明細だった。親族紹介まであと十五分、夫は控え室の鍵を閉め、冷たい目で私を見下ろした。夫婦|裡の顔|金銭問題|修羅場2.2万字5 25 -
完結第23話
母の職場で死んでいた私
母の定年退職をサプライズで祝うため、私は東京から新幹線に乗り宴会場へ駆けつけた。お祝いの品を手にして扉を開けた瞬間、母の同僚は手にしたグラスを取り落とし、顔を青ざめて後ずさりした。毎年盆と正月には実家へ顔を出し、仕送りも続けていたはずの私は、母が二十八年勤めた職場では十五年前に事故で亡くなった娘として扱われていた。ステージを駆け下りてきた母は私の手首を強く掴み、そのまま非常階段へと力任せに引きずり出した。親不孝|親子関係|退職金|修羅場3.5万字5 40