みかん小説
本棚

"祖父が私に遺した最後の拒否権" 第13話

の文字がっている。

争いが、ピタリと止まった。 父が息を呑み、津がを止める。

遥は、幽霊のような取りでスマートフォンに歩み寄り、震える指で通話ボタンを押した。

「……もしもし、修平さん……?」

スピーカーにしていないにもかかわらず、静まり返った居に、話の向こうの淡な男の声が漏れ聞こえてきた。

『あ、遥? ごめん、に話すわ。うちの親父とお袋とさっきまで話してたんだけどさ』

遥の呼吸が止まる。

『やっぱり、今回の話、に戻させてほしい。おのとこのお父さん、なんか怪しいと揉めてるらしいじゃん。所でも噂になってるよ。そんなゴタゴタしてるの娘さん、うちの親父がどうしても受け入れられないって。式のキャンセル料は、うちで半分持つからさ。……じゃあ』

ツーツーツー。

子音が、え切った居に響き渡った。

遥のから、スマートフォンが滑り落ちた。 畳のにポトリと落ちた画面が、虚しく滅している。

「あ……」

遥のから、声にならない音が漏れた。

「ああああああっ!!」

次の瞬、遥は獣のような鳴をげ、座卓をひっくり返した。 湯呑みがび散り、たい茶が畳に染みを作る。 津が持ってきた契約が、と茶に塗れてぐしゃぐしゃになった。

「お姉ちゃんのせいだ……!」

遥が、髪を振り乱しながら私を指差した。

広告

その瞳には、もはや妹としてのなど欠片も残っていなかった。 純粋な、底なしの憎悪。

「お姉ちゃんが……お姉ちゃんが余計なことを言ったから! 帰ってこなきゃよかったんだ! 京で野垂れねばよかったのに! お姉ちゃんなんて嫌い! 私のを返してよ!!」

「遥、待ちなさい!」 母の制止も聞かず、遥は裸のまま玄関へとり、りしきるへとしていった。

バタン、と玄関の引き戸が激しく閉まる音が、佐伯の終わりを告げる弔鐘のように響いた。

「……やれやれ」 津はたくを鳴らし、散らばった類を瞥もせず、玄関へと向かった。 「佐伯健さん。これで名実ともに、商談は破滅ですね。違約は請求しませんから、せいぜいご族仲良く、破産続きでもなさってください」

カチャリ、と玄関のドアが閉まり、津の音がざかっていく。

に残されたのは、ひっくり返った座卓と、散らばった陶器の破片。 そして、に突っ伏して慟哭する父と、両で顔を覆って声を殺して泣く母の姿だけだった。

私は、殴られた頬のじながら、たい畳のち尽くしていた。

正しかったはずだ。 私は、あの恐ろしい詐欺契約から、この族を守ったはずだ。 だが、その結果として残ったのは、救いなどではなく、修復能なまでに々に砕け散った族の残骸だった。

広告

は、さらにまっていた。 りのの音が、古い根を激しく叩きつけている。

私のポケットのの真鍮の鍵が、く、たく、私の太ももを押し付けていた。

おじいちゃん。 これが、あなたの望んだことなの? 私がブレーキを踏んだせいで、このは、ごと々に破してしまったよ。

に沈みゆく居で、私の問いかけに答えてくれる者は、誰もいなかった。

は、息が詰まるほどのりだった。

玄関先にた瞬粒が横殴りに顔を打ちつけ、界が瞬でく霞んだ。 灯のない農の向こうには、夜のに呑まれた果園の肌が、巨な濡れた怪物の背のように黒々と横たわっている。

遥は、傘も持たずにあのしていった。 裸だった。 玄関のには、遥が揃えて脱ぎ捨てたはずの、履き古したスニーカーが片方だけ横倒しになって残されていた。

「遥! 遥、どこにいるの!」

声を張りげても、濁流のような音と、鳴りのようなの音にかき消される。 ネイビーのジャケットは数秒でを吸って鉛のようにくなり、たいが首筋から背へと伝い落ちた。 元はぬかるみ、革靴の爪先がズブズブとに沈む。

どこへったのか。 この町の夜は、京とは違う。 コンビニのかりも、夜までいている駅のカフェもない。

を過ぎれば、々の戸は固く閉ざされ、舗装の切れた農は本物の暗に沈む。

広告

おすすめ作品

リンクを共有

以下のリンクをコピーして友達と共有してください: