"祖父が私に遺した最後の拒否権" 第14話
失の底に落ちた歳の女の子が、逃げ込める所など――。
ふと、まみれのが止まった。
記憶の底の、古びた映像が蘇る。
学の頃、父に激しく鳴られた、遥が決まって逃げ込んだ所があった。 母の化粧を倒して割ったも、通表の成績が悪くて居から追いされたも。 泣きじゃくる遥のを引いて、私が連れてった所。
――果園の、旧ポンプ。
の最もい、用の脇に建てられた、半ば朽ちかけたコンクリート打ち放しの部だ。 にスプリンクラー灌設備が更されて以来、誰もを踏み入れなくなった、蜘蛛の巣と錆にまみれた畳半ほどの廃墟。
私はぬかるむ斜面を、滑り落ちそうになりながら駆けりた。
を取られて膝をつき、がジーンズの布をたく濡らす。 のひらを鋭いススキの葉で切ったが、痛みをじる余裕すらなかった。
暗のに、角いコンクリートの塊が浮かびがった。 波板のトタン根が、に叩かれてバラバラと凄まじい音をてている。
「遥……!」
歪んだアルミの引き戸にをかけ、力を込めて引いた。 錆び付いたレールがギャリギャリと鳴をげ、隙がセンチほどく。
隙からへ滑り込むと、の音がわずかにのいた。 コンクリートの気と、澱んだの臭い。
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そして、暗がりのに、さく丸まったがあった。
の隅、古びた械油のドラム缶のに、遥がうずくまっていた。 にまみれた先を両で抱え込み、濡れ鼠になったカーディガンを震わせながら、歯をガチガチと鳴らしている。
「遥……」
私が寄ると、遥の肩がねた。 顔をげた彼女の瞳は、怯えと、剥きしの敵で濁っていた。
「……来ないで」
擦れ切れた声だった。
「来ないでよ……! なんで追ってくるの? もういいじゃない! 私の結婚も、お母さんの術も、全部お姉ちゃんが壊したんだから! これ以、私に何を言いに来たの!?」
「遥、寒いでしょ。戻ろう。邪をひくわ」
私が脱いだジャケットを肩にかけようと差しすと、遥はその腕を狂ったように払い除けた。 ビチャリと、が私の頬にねる。
「触らないで!!」
遥の叫び声が、狭いコンクリートの壁に反響した。
「あんたのそういうところが嫌いなのよ! いつだってそう! 正しい顔して、静な顔して、から目線で私をな妹扱いして! お姉ちゃんはいいよね! 京の学にって、綺麗なオフィスで働いて、自分の稼いだおで好きな買って! こののドロドロしたものから、全部で逃げしたくせに!」
胸の奥が、ぎゅっと締め付けられた。
「逃げたんじゃない……。私は、あので息ができなかっただけよ」
「それが逃げたって言うのよ!」
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遥は膝を抱えたまま、涙とでぐしゃぐしゃになった顔を歪めて叫び続けた。 「残された私のこと、度でも考えたことある!? お父さんが夜勤けで嫌が悪くて、茶碗を投げつけるのを片付けるのは誰だとってたの!? お母さんが『膝が痛い、にたい』って毎泣き言を言うのを、隣でずっと聞いてたのは誰だとってたのよ!」
遥の声が、喉の奥で詰まり、嗚咽に変わる。
「私だって……私だって、をたら仙台にきたかった。アパレルの仕事がしたかった! でも、私がをたら、お父さんとお母さんはどうなるの? 誰がご飯を作るの? 誰が病院へ連れてくの? お姉ちゃんが帰ってこないから……女のくせに連絡も寄こさないから、私が残るしかなかったんじゃない!!」
遥の拳が、たいコンクリートのを何度も叩いた。 乾いた鈍い音が響くたびに、私の臓が削り取られていくようだった。
「修平さんはね……私の唯の逃げだったの。あのと結婚して、隣のにアパートを借りて、佐伯の名を捨てて……やっと、普通の女の子になれるはずだったの。お父さんの顔を伺わずに、自分の族を作れるはずだったの! それを……なんでお姉ちゃんが壊すのよ……! おじいちゃんのがどうなろうと、私のより事なわけないじゃない!!」
崩れ落ちた遥のさな背が、激しく震えていた。
その叫びは、すべて正しかった。
私は、逃げたのだ。 京という巨なの匿名性に隠れ、「自」
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