"祖父が私に遺した最後の拒否権" 第21話
被告はのリンゴ農。そして……まったく同じスキーム。相より割い価格で農を買い取る契約を結び、引き渡しからヶに『から旧本軍の遺留廃棄物と基準値を超える鉛が検された』と主張して、売買代の割に相当する壌入替費用を請求した。結果、農側は敗訴し、を奪われたに千百万円の借を背負わされた」
居の空気が、急速に凍りついていく。
母・恵子が息を呑み、胸元を両で押さえた。 襖のにっていた遥が、目を見いて震えている。
「田でも、形でも、同じ訴訟を繰り返していますね」 私の声は、静かに、しかし刃物のように研ぎ澄まされていた。 「最初からを千百万で買う気なんてない。付の百万を渡して油断させ、造成事を始めた瞬に、息のかかった解体業者に法な見積もりを作らせて相殺をかける。残るはゼロどころか、何千万円もの負債を農に押し付ける。それが、あなた方のビジネスモデルでしょう」
寺は類に線を落とした。 その表から、さっきまでの傲な余裕が完全に消えっていた。 たい、械のようなを宿した目が、私を捉える。
「……よく調べられましたね、お嬢さん」
寺はく息を吐くと、机のの類を乱暴に払いのけることもせず、ゆっくりとアタッシェケースの蓋を閉めた。
広告
パチン、とつの具がい音をてて噛みう。
「津。撤収だ」
「て、寺部!?」 津が狼狽えてちがった。 「しかし、沿いの型デポの計画が……!」
「プロの入れ恵がついた案件に、これ以数を割くはない。次を探す」
寺はちがり、コートの襟を正した。 そして、にへたり込んだままの父を瞥した。その目は、端に転がるころを見るような、徹底した無関に満ちていた。
「佐伯健さん。娘さんに謝することですね。……もっとも、これであなた方の抱える借が消えるわけではありませんが」
寺は靴を履き、度も振り返ることなく玄関をてった。 津は悔しそうに私を睨みつけ、吐き捨てるように「馬鹿族が」と呟いて、寺の背を追ってびしていった。
バタン、と玄関の引き戸が閉まる。
居には、い、のような静寂が戻ってきた。 ストーブの芯がチチチと鳴る音だけが、虚しく響いている。
津たちがったには、何つ残っていなかった。 百万円の札束も、千百万円の売却益も、すべてはのように消えった。
「……あ」
父のから、掠れた声が漏れた。
「ああ……あああ……」
父は両でを抱え、畳に額を擦り付けた。 その背が、刻みに、激しく震え始める。
「終わった……」 父の呻き声が、部の隅々に染み渡っていく。 「全部、終わりだ……。
広告
が……円も入らなくなった……。母さんの術も、借の返済も……遥の式も……全部パーだ。咲、おが……おが全部壊したんだ……!」
父が顔をげた。 その顔は涙とでぐしゃぐしゃに汚れ、絶望とりで醜く歪んでいた。
「詐欺だろうが何だろうが、百万円は目のにあったんだぞ! そのがあれば、今の支払いは凌げたんだ! 遥だって破談にならずに済んだんだ! 半のことなんか、そのに考えればよかったんだ! それを……全部追い払いおって! これからどうやってきていくんだ! 俺に首を吊れって言うのか!!」
父がちがり、拳を振りげた。 私を殴ろうと、狂乱の目で迫ってくる。
「お父さん、やめて!!」
甲い叫び声とともに、遥がに入った。 遥は私のにちはだかり、父の胸元を両で押し返した。
「遥……!?」 父がたじろぐ。
「もうやめてよ、お父さん!」 遥の瞳から、粒の涙が溢れしていた。 「お姉ちゃんを殴らないで! お姉ちゃんは……私たちを助けてくれたんじゃない! あのまま判を押してたら、半に千万円の借が残るって……私たちがに迷うところだったって、お父さんには分からないの!?」
「遥、お……何を言ってるんだ! あいつのせいで、おの結婚が……!」
「私の結婚の話は、もう終わったの!」 遥の痛な叫びが、居に霊した。 「修平さんはね、昨話本で私を切り捨てたのよ! 『親が怪しい産と揉めてるからにしたい』って……私がどれだけ泣いて縋っても、話も聞いてくれなかった! そんなだったのよ! うちにおがあるかないかで私を値踏みするような男のために……お父さんが犯罪者みたいに借背負って、お姉ちゃんを殴って……そんなの、絶対に違ってる!!」
広告
おすすめ作品
-
完結第19話
棺の中の男を、夫は知らない
親を捨てて逃げた冷酷な男だと親族中から罵倒される義兄の葬儀で、義母は涙を流し、夫を支えの孝行息子だと称えていた。だが焼香台へ進む夫の前に立ちはだかった私は、「あなた、本当に棺の中にいるその人を知っているの」と告げた。夫が隠していたのは、過去五年間、毎月義兄へ送り続け、そのたびに全額突き返されていた六十回分の送金記録だった。血の気を引かせる夫と親戚の前で、私はその明細を祭壇の上に広げた。兄弟姉妹|親不孝|絶縁|親子関係|修羅場2.8万字5 0 -
完結第21話
妹のドレスを二十センチ切った
妹の結婚式を数時間後に控えた深夜二時、私はリビングで特注のウェディングドレスに裁ち鋏を入れた。事故で右足に傷が残る妹に対し、相手の家族は配慮という名目で足を隠す重いドレスを強要し、当日は動かず座り続けるよう言い含めていた。母の怒声が響き、私の頬に平手打ちが飛ぶ。泣き崩れる妹の足元には、前裾だけが二十センチ切り落とされた純白の布が散らばっていた。私は鋏を置き、「今日これを着て出なさい」とだけ告げた。裡切られた|兄弟姉妹|裡の顔|親子関係|修羅場3.1万字5 0 -
完結第21話
母を遠ざける姉の嘘
長野で一人暮らす母の介護を一手に担う姉から「母の体調が悪化するから来るな」と言われ、私は五年間帰省を控え、毎月五万円の仕送りを続けていた。だがある夜、母から五年ぶりに直接電話が入る。「まだ怒ってるの。あんたが私の顔も見たくないと言っていたと姉から聞いた」と母は怯えていた。直後に受話器を奪った姉は「母の被害妄想だ」と言い放つ。不審に思った私は姉に告げず始発の新幹線に乗り、五年ぶりに実家の引き戸を開けた。兄弟姉妹|裡の顔|親子関係|介護3.2万字5 0 -
完結第19話
完璧な夫に給料を突き返した朝
毎月二十五日、夫は手取り四十五万円の給料を一円も引かずに私の口座へ振り込み、親戚の前で完璧な夫として称賛されている。だがその裏で、私は息子の塾代を払うために結婚五周年の指輪を買取店へ持ち込んでいた。固定費と夫のカード代だけで毎月赤字が続き、私の独身時代の貯金も底をついた。翌朝、いつも通り振り込まれた四十五万円の通知を見つめた私は、その全額をそのまま夫の口座へ送金し、スマートフォンの画面を伏せた。嫁姑|夫婦|金銭問題|修羅場2.9万字5 20 -
完結第20話
教室の最後列に座る元教員
定年退職した元教員の私は、一度も教えたことのない男子生徒の保護者会に、身元を偽って六年間通い続けていた。教室の最後列から見つめる先には、油まみれの作業着を着た父親が座っている。受付簿の不審な記録に気づいた校長から昇降口で問い詰められた帰り道、桜が散る坂道でその父親が私の前に立ちふさがった。二十四年前の元教え子だったその男は、振り返りもせず、私の背中に向けて「あの席、あと何年座るつもりですか」と低く告げ怒り|真実|親子関係|修羅場3.1万字5 7 -
完結第20話
祖母は十二年年賀状を書いてない
八十歳を迎えた祖母のため、私はいとこたちと過去十二年分の年賀状を集めて記念のアルバムを作った。毎年元旦に届く「元気に暮らしています、トマトがたくさん実りました」という三行は、遠方で暮らす私たちが実家の無事を疑わずに済む確かな証拠だった。だが親戚一同が集まる祝宴の席でアルバムを開いた瞬間、祖母は整った文字を見つめ、十二年間一度も年賀状など書いていないと言い放った。親族の視線が一斉に、実家の近くで暮らす叔母へと向かう。孤獨|親子関係|介護|認知症3.0万字5 12 -
完結第21話
優しい教室で震える息子
息子が突然学校に行けなくなり、担任は「いじめなどなくクラス全員に愛されている」と胸を張った。不審に思った私が息子のランドセルを調べると、底板の裏から三十七枚の給食費受領書が出てくる。我が家は困窮などしていないのに、三ヶ月間、生徒全員が日替わりで息子の昼食代を立て替えていた。私が学校へ確かめに行こうとした瞬間、息子は「言わないで」と叫んで床に泣き崩れ、その紙片を必死に胸へ抱え込んだ。怒り|裡の顔|親子関係|金銭問題3.2万字5 7 -
完結第15話
五人の元彼と三万一千円
結婚式当日の朝、ホテルのフロントに差出人不明の現金書留が五通届いた。中身はすべて、三万一千四百八十円という奇妙な端数のご祝儀だった。面識のない私の歴代の元彼五人からだと気づき、私は血の気を引かせて金庫への保管を頼み込む。だが、不審に思った夫が私の手提げから抜き取ったのは、三週間前に私がその五人へ同額を送金した明細だった。親族紹介まであと十五分、夫は控え室の鍵を閉め、冷たい目で私を見下ろした。夫婦|裡の顔|金銭問題|修羅場2.2万字5 25 -
完結第23話
母の職場で死んでいた私
母の定年退職をサプライズで祝うため、私は東京から新幹線に乗り宴会場へ駆けつけた。お祝いの品を手にして扉を開けた瞬間、母の同僚は手にしたグラスを取り落とし、顔を青ざめて後ずさりした。毎年盆と正月には実家へ顔を出し、仕送りも続けていたはずの私は、母が二十八年勤めた職場では十五年前に事故で亡くなった娘として扱われていた。ステージを駆け下りてきた母は私の手首を強く掴み、そのまま非常階段へと力任せに引きずり出した。親不孝|親子関係|退職金|修羅場3.5万字5 40