みかん小説
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"偽りの仕送りと緑の通帳" 第1話

夕暮れの淡いが差し込むダイニングテーブルので、私は指先本すらかせないままち尽くしていた。

胃の底にずしりと鉛を流し込まれたような苦しい痛みが広がり、呼吸をするたびに胸の奥がきしむ。では、先ほど放たれたばかりの酷な言葉が、い陶器の破片のように何度も、何度も反響を繰り返していた。

――卒の孫に、無収入の嫁。

その言葉を吐き捨てた瞬、義母の君代(きみよ)が浮かべた蔑みの笑みと、射るように細められたの瞳が、網膜の裏に焼きついてれない。

私は震える線をわずかに落とし、自分のすぐ隣に座っている娘の奈々(なな)の横顔を見つめた。

歳になったばかりの娘は、両膝のに置いたさな拳をぎゅっと固く握りしめ、顔を伏せたまま微かに肩を震わせていた。膝ので丸められた指先はく鬱血し、膝掛けの布く掴んでいる。俯いた髪の隙から、必に噛み締めている桜の唇が見えた。そこから零れ落ちそうになる嗚咽を、娘は全の筋肉を直させて耐えていた。

「本当に、あなたたちは何をやらせても何もできないわねぇ」

向かい側の席から、カチャリと箸を置く無慮な属音が響いた。

義母の君代は、まるで汚れた雑巾でも見るかのようなたい線を私たちに浴びせ、元をこれ見よがしに歪めて嘲笑を漏らした。

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喉の奥を鳴らすような、乾いた嘲りの笑い声だった。

の程をりなさいよ、の程を。卒で老の世話しかできない孫に、何つ稼ぎのない無収入の嫁。けないにもほどがあるわ。男のところの恭子(きょうこ)さんを見習いなさいよ。あっちはね、毎きっちり万円ものを、親孝のために仕送りしてくれているのよ。そういうきちんとした庭を見習ったらどうなの?」

でせせら笑いながら、君代は顎をしゃくって言い放った。

その言葉の端々には、にわたって磨きげられてきた悪の棘がびっしりと張り付いていた。

私はこのに嫁いできてからの、ずっとこのような言葉のナイフを浴びせられ続けてきたのだ。胸元に突き刺さり、肉を裂き、骨を削るような鋭利な刃。今もまた、温かいはずの夕の席で、その刃が私の無防備なく切り裂いていく。

目のには、私が夕方から台所にって丹精込めて作った料理が並んでいた。

汁を丁寧に取り、義母の健康を考えて塩分を極力控えめにした煮物、脂の乗った焼き魚、炊きての米。かつては族の団欒を願ってえたはずの温かい湯気が卓。しかし、今の私にとって、この所は極の氷原よりもたく凍りついた獄の底でしかなかった。

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何が族だろう。

何が、本物の絆だというのだろう。

義母にとって、族とはいったい何なのか。毎差しされるの額でしか測れないようなものを、このは本気で族と呼んでいるのだろうか。

する娘が血のにじむような努力をして選んだを嘲笑され、私が庭を守るために費やしてきたのすべてを、で踏みにじられる。

あのにとって、夫の稼ぎだけで慎ましく暮らす私たちは、ただ族の面汚しであり、恥晒しでしかないのかもしれない。

ポタリと、テーブルの目を濡らすさな雫が落ちた。

奈々の睫毛に溜まっていた粒の涙が、堪えきれずに零れ落ちたのだ。娘はすぐに袖で乱暴に目元を拭ったが、その仕の痛々しさに、私の胸の奥で張り詰めていた糸が、ピンと乾いた音をてて千切れんだ。

――もう、できない。

の毛穴が逆つような激しいりと、それ以に澄み切った決が、え切っていた私の肢の末端まで気に駆け巡った。

こんな理尽な侮蔑に、なぜ私たちが耐え続けなければならないのか。娘がこんなにも傷つき、さく震えている姿を、母親である私が見過ごしていいはずがない。

こんな侮辱を受け続ける々は、もう終わりにする。

私はく息を吸い込み、固く張っていた指先をゆっくりと広げた。

テーブルに両をしっかりとつき、背筋を伸ばす。

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