"炎天下に追い出された新人と、5年ぶりに戻った男" 第7話
滝川は何も言わなかった。 面に落ちた麦わら子を拾いげ、を払い、その子での顔に必でを送り続けた。 そのは、りで刻みに震えていた。 滝川の線が、階建てのビルの最階――役員のいガラス窓を射抜いた。
「……堀田」 「は、はい!」 「証拠はすべて揃ったな」 「はい! グリーン企画の裏座、常務へのキックバックの細、すべてコピーしました!」
「よし」 滝川は静かにちがった。 「決着をつけるぞ。あいつらの傲のツケを、今ここでを揃えて払わせてやる」
をタクシーに乗せ、堀田の付き添いで病院へ向かわせた、滝川は、階の総務フロアへとを踏み入れた。
フロア内には、昼休みを終えた社員たちの気だるい空気が漂っていた。 部席の黒岩は、パソコンの画面でゴルフのアイアンのカタログを眺めながら、をっていた。 そこへ、と汗で汚れた作業着姿の滝川が、音もてずに歩み寄った。
「何だよ、子会社さん。のデスクのに突っって」 黒岩はカタログから目をさず、鬱陶しそうにを振った。 「仕事がないなら、のむしりの伝いでもしてきたらどうだ? あ、さんはどこった? まだ終わってないだろ?」
滝川は、く、しかしフロアのすべての雑音を圧殺するような声で言った。
「つだけ、忠告しておく」
広告
黒岩が眉をひそめ、ようやく顔をげた。 「あ?」
「つ。潮見さんに対する切の嫌がらせを即刻止し、彼女を正規の業務に復帰させること。……つ。グリーン企画への正送の帳簿を、今のうちに自分ので監査部へ提することだ」
フロアの空気が、瞬にして凍りついた。 キーボードを叩く音が完全に止まり、全社員の線が部席へと集した。
黒岩の顔から、瞬にして血の気が引いた。 しかし、次の瞬、その顔は屈辱とりで真っ赤に沸騰した。 ガタアンッ!ときな音をててちがり、滝川の胸ぐらに掴みかからんばかりに詰め寄る。
「てめぇ……! 誰に向かってを利いてるんだ!? 方のから拾ってもらった分際で、いい気配乗るなよじいさん!! ここは俺の部署だ! 文句があるなら、部の俺が直々に聞いてやるよ! あぁ!?」
滝川は、黒岩の号を微だにせず正面から受け止めた。 その瞳は、の底のようにたく澄み切っていた。
「部、だと?」 滝川は静かに首を横に振った。
「違うな。……貴様じゃない。役員全員と、今すぐ最階の会議に集まれ」
「は……? 役員全員……? お、気が狂ったのか!?」
滝川は黒岩を瞥もくれず、部席のに置かれていた内線話の受話器を平然と取りげた。 縮ボタンの「0」――社・役員直通ダイヤルを押す。
スピーカーから、役員秘の落ち着いた声が響いた。
広告
『はい、役員受付でございます』
「滝川だ」 その言を発した瞬、滝川の纏う空気が、うだつのがらない窓際社員から、百戦錬磨の徹な統率者のそれへと完全に変貌した。
「予定通りだ。本付で臨役員会を招集する。……議題は、総務部における業務横領および背任為、ならびにな労働全法違反について。……役員全員、分以内に第会議に揃えろ」
『かしこまりました、滝川専務。直ちに各役員へ招集通を発信いたします』
受話器が置かれるカチャリという音が、の宣告のようにフロアに響き渡った。
「せ……せん……む……?」 黒岩の喉から、空気の抜けるような異音が漏れた。 フロアの片隅で、古参の女性社員がガタガタと震えながら元を押さえた。 「た……滝川って……まさか、まで資材部で、方を奇跡にV字回復させた……あの伝説の滝川さん……!?」 「今朝の事発令……『経営企画付・専務執役員』への就任が決議されたって噂……本当だったの……!?」
ざわざわと広がる波紋。 全社員の顔から、急速にが失われていく。 自分たちが、窓際で放置し、「方からの預かり物」と嘲笑っていた男。 その男こそが、今この、本社の全業務を統括する最権力者として返り咲いた「本物の怪物」だったのだ。
滝川は青ざめてち尽くす黒岩を瞥した。 「分だ。
遅れた者は、そので解任とみなす」
背を向け、悠然と歩きす滝川の背に、フロアの社員たちが々と腰を折って最敬礼を捧げていた。
広告
おすすめ作品
-
完結第34話
妻の葬儀の夜、義母が外した指輪と娘の写真
妻・美保の葬儀が終わった夜、修二の結婚指輪を外したのは、亡き妻の母・麗子だった。「もう美保に隠す必要はないでしょう」と唇を寄せたその瞬間、娘・咲から1枚の写真が届く。そこには半年前の病院で抱き合う修二と麗子、そしてガラス越しに2人を見つめる病衣姿の美保が写っていた。 闘病中の妻を支える献身的な夫を演じながら、修二はいつしか自分の弱さを理解してくれる義母へ逃げ込み、越えてはならない境界を越えていた。しかも麗子は「美保も知っていた」「私がいなくなったら修二さんを1人にしないでと頼まれた」と主張し、その証拠となる録音まであるという。 だが翌朝、咲が告げたのは「お母さんの声を最後まで聞いて」という一言。 亡き妻が本当に残した言葉を前に、2人が都合よく信じてきた“許し”が崩れ始める――。夫婦|修羅場5.1万字5 612 -
完結第16話
四十九日の追放、母の隠し遺言
「十年世話しただけの妹に、実家の取り分はないわ」 母の四十九日、喪服の兄夫婦は親族の前で澄子を指差し、台所の冷えた板の間へ追いやった。信金を辞め10年間、720万円の私財を投じて母を看取った澄子に、兄は「今週中に出て行け」と冷酷に通告する。 母のキャッシュカードは7年前から兄が独占し、消えた年金は1240万円。 家財すべてが二束三文で業者に売り払われようとする中、母が50年愛用した古い足踏みミシンの奥底から、厳重に隠された「ある物」が滑り落ちた。 「その言葉、そっくりそのままお返しします」 あの日からちょうど49日後、審判の幕が上がる――。兄弟姉妹|修羅場2.3万字5 434 -
完結第27話
妻を追い出した翌朝、7枚のブラックカードが止まった
結婚3年目の夜、美桜が帰宅すると、夫・達也は若い愛人と義両親を囲み、離婚届を突きつけてきた。「無能で地味な女」「1円も稼げない寄生虫」と嘲られ、慰謝料もなく豪邸から追い出される。 だが4人は知らなかった。美桜の正体は、世界経済を動かす巨大グループの総帥。倒産寸前だった達也の会社を救い、資金も仕事も与え、彼を“天才社長”に見せていたのは全て美桜だった。 さらに豪邸も別荘も、7枚のブラックカードも、達也自身の資産ではなく美桜の法人名義。 離婚届が受理された瞬間、美桜は静かに全カードを停止し、豪邸の退去手続きと会社への特別監査を開始する。 勝ち誇っていた一家がまだ知らない、本当の“無一文”への転落が始まろうとしていた――。修羅場|熟年離婚4.0万字5 285 -
完結第22話
夜勤の救急外来に運ばれた夫と義姉
深夜2時、救急外来で夜勤中の看護師・佐藤み咲のもとへ、交通事故で重傷を負った男女2人が搬送されてきた。シーツの下にいたのは、夫・拓也と義姉・麗子。しかも2人は、決して「姉弟愛」では説明できない姿で倒れていた。 み咲は5年間、看護師という仕事を見下す夫と、「子供も産めない」と侮辱する麗子、その2人を庇い続ける義母・里子に耐えてきた。 それでも彼女は感情を捨て、看護師として2人の命を救うことを選ぶ。 だが、惨状を目にした義母まで「全部あなたのせい」とみ咲を罵倒した瞬間、最後の迷いは消えた。 何年も残してきた暴言の記録と証拠を武器に、奪われ続けた人生を取り戻す反撃が静かに始まる――。夫婦|修羅場|不倫3.3万字5 2860 -
完結第11話
貧乏老人を嘲笑った行員の末路
「あんな貧乏臭い爺い、適当にあしらっとけばいいのに」ボストンバッグを抱えた老人に、新入行員は嘲笑の声を浴びせ、エリート課長代理は別の窓口へ強制的に追い返した。母親の入院費のため百万を引き出しに来ただけの、よれよれのジャケットを着た年寄り――。だが、彼こそが全日本経済の裏を牛耳るクオンホールディングスの会長・久音次郎その人だった。侮辱に耐えかねた新人の篠崎水希が一人で抗議する中、老人が静かに古びたバッグの金具を閉じた瞬間、端末の画面で一千万円、一億円と出金通知の数字が狂ったように跳ね上がり始めた。絶望の淵に立たされた傲慢な行員たちの運命を決定づける、驚愕の審判の行方は――。職場逆転|修羅場1.6万字5 1861 -
完結第19話
深夜2時、隣家の物置で赤ん坊を抱く4歳児
心臓の不整脈で消防士を辞め、故郷の民宿「緑海荘」へ戻った27歳の相馬蒼太。 ある深夜2時、隣家から突然途切れた赤ん坊の泣き声に異変を感じて駆けつけると、物置のような暗い部屋で、全身に青あざを負った4歳のひなが、痩せた妹メイを必死に抱いていた。 「泣いたらまた叩かれるんですか?」――その一言に、蒼太は2人を必ず守ると決意する。民宿へ連れ帰り、常連客の旅行ライター・りんや両親と共に食事と温かな寝床を与え、児童相談所へ連絡。 しかし保護の朝、ひなは「お兄ちゃんと離れたくない」と蒼太の服を握りしめる。初めて見る海の前で、ようやく声を上げて泣いた少女を前に、蒼太とりんは“助ける”だけでは終われない未来を選び始める――。親子関係|修羅場2.8万字5 251 -
完結第10話
洋食屋の絆と、高級寿司屋の逆転
岡田悠斗は、高校生の時に両親を交通事故で亡くし、高卒の自動車整備士として働きながら、三歳下の妹・真央をたった一人で大学の法学部まで育て上げた。真央は猛勉強の末に難関の司法試験を突破し、弁護士として初任給をもらう。悠斗への感謝を込めて予約した高級寿司屋の席で、悠斗の職場の傲慢な上司・西村が偶然居合わせ、「工場で油まみれになって働く底辺の作業員」と悠斗と真央を激しく侮辱する。絶望と怒りが交錯する中、隣の席に座っていた一人の客が立ち上がり、西村を冷徹に一喝する。その男の正体は、かつて両親の営む洋食屋「ひまわり」で無銭の少年時代に助けられた大手IT企業の社長・藤井宗介だった。過去の恩返しと、血を分けた兄妹の絆が奇跡を引き起こす感動のヒューマンドラマ。兄弟姉妹|修羅場1.5万字5 641 -
完結第25話
底辺受付嬢を見下す役員たちの誤算
父の会社は、最も信頼していた人間の裏切りによって無惨に食い物にされた。巨額の負債を背負い、絶望の中で病に倒れた父。私はその冷酷な真相を暴くため、ハーバード大の博士号を隠し、ただの「受付嬢」として敵の中枢である星空グループに潜入した。 誰からも見下され、理不尽な侮辱に耐え忍ぶこと3年。息を潜めて集めた証拠が示したのは、あまりにも残酷な真実だった。父を破産に追い込み、私から全てを奪った黒幕の正体は、父が家族のように慕っていた古参役員だったのだ。 「黒幕は役員会の中にいる」――私を守るため、父が命懸けで残してくれた最期のメッセージを知った時、胸の奥の悲しみは絶対的な冷酷さを持つ復讐の炎へと変わった。私の素性を知る新社長のハルトや、父の旧友たちと共に、私は決して逃れられない完璧な包囲網を密かに築き上げていく。 そして迎えた運命の役員会。全てを掌握したと信じ、私の前で勝ち誇る黒幕。だが彼はまだ知らない。無力な受付嬢だと思っていた私が、彼を社会的死の淵へと突き落とす致命的な罠を仕掛けていたことを。仮面を脱ぎ捨てた時、強欲な悪魔を地獄の底へと引きずり下ろす、容赦なき反撃が幕を開ける――。因果応報|真相|修羅場3.8万字5 1809