"消えた子猫と、花壇の頑固おじさん" 第15話
僕と郎は、これからもに晒され、危険と隣りわせのの世界で、域猫としてきる。
と内。 が引いた境界線が、僕たちのに横たわっている。 もう度と、同じ茂みで夜をかすことはできない。 それは、族の終わりをするのだろうか?
僕は首を横に振った。力く、迷いなく。 そして、クマの額のい毛を、舌先で丁寧に梳くように舐めげた。
「そんなわけないだろ、クマ」
クマが顔をげた。
「暮らす所が違っても、僕たちが緒に過ごしてきたは消えないよ。あの凍えるの夜、でお腹をくっつけって温めったことも、怖いカラスを郎が追い払ってくれたことも、全部僕たちの体のに残ってる」
僕はクマの首の迷子札に、そっと先を触れさせた。
「クマには、族がつ増えたんだよ。僕と郎っていうの族と、さんっていうおうちの族。つも族があるなんて、クマは世界で番幸せな猫じゃないか」
郎も隣に寄り添い、太い尻尾をクマの背に優しく巻きつけた。 「そうだぞ。たまにこうして、あのおじさんと緒に公園に来ればいい。俺たちはいつだって、こののでおを待ってるからな」
クマの瞳から、ボロボロと粒の涙が零れた。 けれど、その涙はもうしみの涙ではなかった。 クマは「ニャウン」
広告
と嬉しそうに喉を鳴らし、僕と郎の首筋に、力いっぱいに自分の体を擦り付けた。
ベンチので煙を吸い終えたさんが、ゆっくりとちがり、僕たちのそばへ歩み寄ってきた。 膝をつき、クマの背をポンポンと叩く。
「クマ、そろそろ帰るぞ。昼飯のだ」
クマはさんの顔を見げ、それから僕たちを振り返った。 「こん兄ちゃん、郎兄ちゃん、またね!」
「ああ、またな。元気でな、クマ」
キャリーケースに入ったクマを抱え、さんが歩きす。 その途、さんはち止まり、振り返って僕と郎をじっと見つめた。
そして、ポケットから素をした。 乾いた、皺だらけのきな。 僕はそのに、迷うことなく歩み寄り、自らのを差しして、ぐっと押し当てた。
さんの指先が、僕のの裏を優しく掻いた。 「……おらも、達者でやれよ」
さんはさく笑い、今度こそ真っ直ぐに、がへと帰っていった。 空はどこまでもく、澄み切った青が広がっていた。
その夜。 公園のクスノキの根元で、僕と郎は並んで座り、夜空を見げていた。
昼の賑やかさが嘘のように静まり返った広。 くで救急のサイレンが微かに響き、初の乾いた夜が、サクラの葉をカサカサと揺らしている。
郎がふと、の爪をペロリと舐めながらをいた。
広告
「おい、こん。……お、もし誰かが『うちの子にならないか』って言ってくれたら、くか?」
唐突な問いだった。 僕は夜空のを見つめたまま、しだけ考えた。
のの。 テレビの音、エアコンの適な、いつでも清潔なと、お腹いっぱいのカリカリ。 に轢かれる恐怖も、カラスに怯える必も、たいに体温を奪われる苦しみもない世界。 それは確かに、命にとっての国のような所にえる。
「……郎は、きたいの?」 僕が聞き返すと、郎はフッとを鳴らし、夜の広を見渡した。
「俺はいいよ。……まれてからずっと、この公園のを踏んできてきたからな。の匂いも、のたさも、季節が巡っていくの肌触りも……全部、俺の体の部になっちまってる。狭い部のに閉じ込められたら、俺の魂まで縮こまっちまいそうだ」
郎の言葉は、静かだったが、確固たる誇りに満ちていた。 野良としてまれ、野良としてきる。 それはれなことでも、劣ったことでもない。 自分のでを踏みしめ、自由の空ので命を全うするという、つの尊いき方なのだ。
「僕もだよ、郎」 僕は郎の逞しい肩に、自分の体をぴったりと寄せた。
「僕も、郎と緒にここにいるよ。クマは体がかったし、まださかったから、おじさんのにけて本当によかった。でも、僕たちの居所は、やっぱりこの広い公園なんだ」
「そうか」 郎は嬉しそうに目を細め、僕ののてっぺんをザラリとした舌でペロリと舐めてくれた。
広告
おすすめ作品
-
完結第14話
「死産」と告げた院長と20年目の出生記録
20年前、出産した娘を「死産でした」と告げられた私・佐藤しず子。しかし私は、麻酔の中で確かに聞いた産声を一度も忘れられなかった。 真実を確かめるため、私は清英産婦人科医院の清掃員として20年間働き続け、誰にも気づかれず院内の秘密を探ってきた。そんなある夜、若い看護師から「まだ間に合います。あなたの娘さん生きています」と書かれた紙を渡される。 やがて地下の保管庫へ忍び込んだ私は、自分の出産記録の隣に「佐藤女児――転送」と記された手帳を発見する。 さらにそこには複数の新生児と金銭の記録まで残されていた。娘を奪ったのは誰なのか。そして病院は20年間、何を隠してきたのか。見下され続けた“掃除婦”は、集めた証拠を手に院長・安藤剛と対峙する――。真相|修羅場2.1万字5 407 -
完結第15話
全盲の義母が言い当てた味噌汁の色
「お味噌、白味噌に変えたでしょう?」。11年前の事故で全盲になったはずの義母・かず子が、漆塗りの椀を抱えて微笑んだ。亡き実母への後悔から、365日欠かさず介護と手料理を捧げてきた嫁の私。だが翌朝、ゴミ袋の底から現れたのは、手つかずのまま無残に捨てられた私の料理と、1万8千円の銀座高級寿司やフレンチのデリバリーレシート30枚だった。夫は「お前の味付けが悪い」と冷笑し取り合わない。孤立無援の中、弁護士の助言を得た私はある罠を仕掛ける。そして勝手口の前で義母が放った「ある一言」で、11年間の嘘が音を立てて崩れ去る――。嫁姑|真相2.3万字5 3039 -
完結第25話
底辺受付嬢を見下す役員たちの誤算
父の会社は、最も信頼していた人間の裏切りによって無惨に食い物にされた。巨額の負債を背負い、絶望の中で病に倒れた父。私はその冷酷な真相を暴くため、ハーバード大の博士号を隠し、ただの「受付嬢」として敵の中枢である星空グループに潜入した。 誰からも見下され、理不尽な侮辱に耐え忍ぶこと3年。息を潜めて集めた証拠が示したのは、あまりにも残酷な真実だった。父を破産に追い込み、私から全てを奪った黒幕の正体は、父が家族のように慕っていた古参役員だったのだ。 「黒幕は役員会の中にいる」――私を守るため、父が命懸けで残してくれた最期のメッセージを知った時、胸の奥の悲しみは絶対的な冷酷さを持つ復讐の炎へと変わった。私の素性を知る新社長のハルトや、父の旧友たちと共に、私は決して逃れられない完璧な包囲網を密かに築き上げていく。 そして迎えた運命の役員会。全てを掌握したと信じ、私の前で勝ち誇る黒幕。だが彼はまだ知らない。無力な受付嬢だと思っていた私が、彼を社会的死の淵へと突き落とす致命的な罠を仕掛けていたことを。仮面を脱ぎ捨てた時、強欲な悪魔を地獄の底へと引きずり下ろす、容赦なき反撃が幕を開ける――。因果応報|真相|修羅場3.8万字5 1809 -
完結第21話
母がナイフで砕いた自分の名前
母の七十歳の祝いで、私は家族に尽くし続けた母に自分の人生を取り戻してほしい一心から、ケーキのプレートに書かれた夫の姓を削り落とし、母の旧姓を書き直した。これで母は喜んでくれるはずだった。しかし母は青ざめ、「誰が戻りたいなんて言ったの」と私を睨みつけると、ナイフを掴んで自分の名前を何度も突き刺し粉々に叩き割った。家族全員から責め立てられた私は、母の部屋で底面を無残に削り取られた大量の人形を見つける。怒り|兄弟姉妹|真相|親子関係|修羅場3.1万字5 137 -
完結第20話
偽りの仕送りと緑の通帳
専業主婦の佐藤真美は、長年にわたり傲慢な義母・君代から「無収入の居候」と見下され続けてきた。夫の減給により進学を断念し、誇りを持って介護職に就いた二十歳の娘・奈々までも、義母は「高卒の無能な孫」と親戚の前で嘲笑する。さらに君代は「長男の嫁・恭子を見習い、毎月十五万円を仕送りしろ」と理不尽な要求を突きつけてきた。耐えかねた真美が恭子に相談すると、長男一家の仕送りに隠された信じがたい事実が判明する。義母の言う通り「見習う」ことを決意した真美は、夫の浩一を巻き込み、スマートフォンに収めたATMの振込画面の写真と、タンスの上の空の茶封筒を使ったある計画を仕掛ける。だが、疑念を深めた義母が「緑の銀行通帳」を差し出し、記帳を命じたことで事態は急転する――。嫁姑|真相3.0万字5 721 -
完結第20話
教室の最後列に座る元教員
定年退職した元教員の私は、一度も教えたことのない男子生徒の保護者会に、身元を偽って六年間通い続けていた。教室の最後列から見つめる先には、油まみれの作業着を着た父親が座っている。受付簿の不審な記録に気づいた校長から昇降口で問い詰められた帰り道、桜が散る坂道でその父親が私の前に立ちふさがった。二十四年前の元教え子だったその男は、振り返りもせず、私の背中に向けて「あの席、あと何年座るつもりですか」と低く告げ怒り|真実|親子関係|修羅場3.1万字5 122 -
完結第30話
一万八千円の伝票
病を克服し、身なりを隠して自らのホテルへ宿泊客として訪れたオーナー・佐藤かず子。亡き夫と四十年にわたり心血を注いできた老舗ホテルは、かつての温もりを失い、強欲な支配人・中村の私欲に侵されていた。 きっかけは、わずか千八百円の粗末な昼定食に突きつけられた「一万八千円」の法外な伝票。中村たちは気の弱そうな高齢客を狙って組織的なぼったくりを繰り返し、さらにはホテルそのものを外資系ファンドへ売り飛ばそうと目論んでいた。 無力な老婆と侮られ、嘲笑と脅迫を受けるかず子。だが彼女の手には、亡き夫の誇りである一本の「蒔絵万年筆」と、深夜に掴んだ決定的な「裏帳簿」の証拠があった。誇りを泥靴で踏みにじられた元女将の、静かなる大反撃が今、幕を開ける――。職場逆転|真相4.6万字5 6317 -
完結第21話
優しい教室で震える息子
息子が突然学校に行けなくなり、担任は「いじめなどなくクラス全員に愛されている」と胸を張った。不審に思った私が息子のランドセルを調べると、底板の裏から三十七枚の給食費受領書が出てくる。我が家は困窮などしていないのに、三ヶ月間、生徒全員が日替わりで息子の昼食代を立て替えていた。私が学校へ確かめに行こうとした瞬間、息子は「言わないで」と叫んで床に泣き崩れ、その紙片を必死に胸へ抱え込んだ。怒り|裡の顔|親子関係|金銭問題3.2万字5 6057 -
完結第23話
締め出された新社長
父から印刷会社を継ぎ、代表取締役として誰よりも早く出社した初日の朝、私のカードキーだけが赤く点滅して通用口が開かなかった。清掃員や入社三カ月の新人、配送トラックが次々と通過していく中、古参の会計は「先代の指示で権限を削除した」と告げる。社内では判断を下せる者がおらず、営業と現場の怒号が響き合い、輪転機が完全に停止した。私は閉ざされたガラス扉の脇にパイプ椅子を置き、冷たい缶コーヒーを握りしめた。職場逆転|人生逆転|怒り|親子関係|修羅場3.5万字5 216