みかん小説
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"目覚めた部下にクビを問われた" 第3話

私は彼のに歩み寄り、げた。

「正彦さん……美さんのこと、本当に、なんとお詫びを申しげればいいか……」

「坂井さん」

遮るような、く乾いた声だった。 正彦さんは顔をげなかった。組んだ指に、ギリギリと力が込められていく。

「あんた、さっき美がなんて言ったか、ちゃんと聞こえたか」

「……はい」

「『クビになったのか』って聞いたんだよ。識が戻って、激痛のなかで目をけて、番最初に見たあんたの顔を見て……あいつがしたのは、のあんたの顔だったんだ」

胸の奥が、焼けるように痛かった。 反論の言葉など、片も持ちわせていなかった。

歳だった私は、経営再建という板を背負い、持ちならないエリート識に凝り固まっていた。 創業を誇る翠閣の現は、私から見れば「甘えの温」に過ぎなかった。 仲居や清掃スタッフがの勘で回すオペレーション、客の望に応じて無償で提供される過剰なサービス、帳簿にわない備品の消費。

私は着任々、徹底なマニュアル化と件費の削減を断した。 そして、その象徴として標にしたのが、現の精神支柱だった森さんだった。

「お客様の顔を見て、そのそので対応を変えるのが、私たちの誇りです」 そう言って私の業務マニュアルに異を唱えた彼女を、私は支配に呼びした。

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今でも、あのの自分の言葉を、句違わずにすことができる。 の効きすぎた部で、私は彼女のの勤務評価がかれた類を、指先で無造作に弾きながら言ったのだ。

森さん。論でお客様は泊まりませんよ。これまでのやり方に固執して、しいサービス基準についてこれないなら――ご自の引き際をお考えになったらいかがですか。代わりなら、いくらでもいますから』

退職届の用を、机の端に置いて。 半の、誇りを持って働いてきたの女性に対して、私は酷にそう言い放ったのだ。

あのときの森さんの顔。 唇を噛み締め、悔しさに震えながら、涙をこぼさないように必で見かれていた瞳。 あれからが経ち、私たちは分かりえたはずだった。 彼女は私の改革を受け入れ、私は彼女の現に対するに敬を払うようになり、脚で旅館をて直してきたはずだった。

だが、記憶を失った彼女にとって、私は今もなお―― の誇りを踏みにじり、活の糧を奪おうとした、血な侵略者のままなのだ。

「あいつな」 正彦さんが、静かにいた。声が微かに震えていた。 「、あんたにそう言われて帰ってきた夜、台所で声を殺して泣いてたんだよ。次のも、その次のも、朝起きると吐き気が止まらなくてな。

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療内科の薬をみながら、それでも『私が辞めたら、若い子たちがもっと酷い目に遭うから』って、歯をいしばって旅館に通ってたんだ」

「正彦さん……私は……」

「あんたにとっては、過の武勇伝か何かなのかもしれねえ。その、仲良くなりました、めでたしめでたし、ってか?」 正彦さんが、初めて私を睨みつけた。その目には、抑えきれないりと、妻を傷つけられたことへのい怨嗟が宿っていた。 「美は全部忘れちまったんだよ。あんたと仲直りしたことも、緒に頑張ったことも、ぜんぶだ! 今のあいつにとって、あんたはただの『自分をクビにしようとした憎い司』なんだよ。頼むから、もう病に入らないでくれ。あいつをこれ以、怖がらせないでくれ」

正彦さんはがり、私に背を向けて病へと戻っていった。

ドアが閉まり、廊に私だけが取り残された。

病院のい壁が、妙に眩しかった。 私は壁に背を預け、ずるずるとそのにしゃがみ込みそうになるのを、必で堪えた。

喉の奥が引き攣るように痛い。 彼女は、私を助けるために、あのへ戻ったわけではなかったのか。 いや、違う。彼女は旅館の客を守るために、自分の職責を果たすために戻ったのだ。 それを私は、どこかで「私と彼女の絆」の証のように、傲にもがっていたのではないか。

にあるスマートフォンが、く震えた。

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