みかん小説
本棚

"目覚めた部下にクビを問われた" 第5話

「待ってください」 私の声が、わず荒くなった。喉の奥が破れるように痛み、激しい咳が込みげた。 「ゴホッ、ゲホッ……! 森さんは……森さんはも現を守ってきたです! 防扉を塞ぐようなミスを、彼女がするはずがない!」

「では、誰がピンを落としたのですか?」 松永は表つ変えずに切り返してきた。 「災当夜、あのフロアに最にいたのは彼女です。そして彼女自が、その扉をけるために危険を冒して戻っている。自分が施錠したことをし、パニックになって隠蔽しようとした……警察や保険会社がそう推測しても、何ら自然ではありませんよ」

「隠蔽などではない! 彼女は命がけで客を助けたんです!」

「ええ、ですから彼女を犯罪者にするつもりはありません」 松永は声のトーンを落とし、まるで甘い毒を差しすように囁いた。 「彼女は今、を打って入院している。業務の過失による事故、しかしそのの必の救によって者はなかった。会社としては、彼女に相応の退職慰労を支払い、表汰にせず依願退職という形で処理するのが、最も傷が浅くて済む着点です」

が、真っになった。

この男たちは、初めからその筋きを描いてここに来たのだ。 老朽化した旅館の設備投資を渋り続けてきた本社の責任を回避するために。

広告

そして、その贄として――病で怯えている、記憶を失った森さんを差しそうとしている。

森主任の識が戻ったのなら、話はい」 松永は鞄から、枚の面を取りした。 そこにはすでに、『事故当夜の状況に関する事実確認』というタイトルが印字されていた。

「本に確認のサインをもらってきてください。『巡回、防扉の放防止ピンががっているのを目で確認しなかった能性がある』――このがあれば分です。彼女のこれまでの功績を考慮し、退職の割り増しと、今の治療費の全額補償を約束します」

「……彼女は」 私は震える拳を太ももので握りしめ、掠れた声で言った。 「森さんは、直の記憶を失っています」

松永のが、ピタリと止まった。 隣に座っていた弁護士が、初めてさく目を見いた。

「……記憶喪失、ですか?」

「そうです。逆性健忘です。事故の夜のことも、自分が客を助けたことも、何つ覚えていません」

面談に、苦しい沈黙がりた。 松永は数秒、虚空を見つめていたが、やがてその元に、酷な計算が完した者のい笑みが浮かんだ。

「……そうですか」 松永は確認を机の央に押しした。 「なら、なおのこと好都ではありませんか」

「何だと……?」

「本が何も覚えていないのなら、争う余もない。現の状況証拠から見て、そうであった能性が極めていと説すれば、彼女も納得せざるを得ないでしょう。

広告

彼女の夫も、活と治療費の保障があれば悪い話ではないはずだ」

「ふざけるな!」

私はパイプ子を蹴てるようにしてがった。 激しいりで界が赤く染まり、で血管が破裂しそうだった。

「彼女は今、の記憶に戻っている! 私が彼女をクビにしようとした、あの最悪のの記憶に縛られて、怯えているんだ! そこにこんなを突きつけて、おのミスだからサインしろと? そんな卑劣な真似が、にできるとうのか!」

松永は眉かさず、たい目で見げてきた。

「坂井支配になるのはやめなさい。あなた自を忘れているのではありませんか?」

「私の……?」

「防設備の更回しにし、現に無理な員削減をいてきたのは、ならぬあなただ。もし会社が全責任を負うことになれば、真っ先に業務過失傷害の容疑で警察に類送検されるのは、現責任者であるあなたなんですよ」

臓に、氷の杭を打ち込まれたようだった。

「あなたが彼女を庇おうとするのは結構だ。だが、彼女が証言しない限り、疑いの目はすべて旅館の管理体制――つまり、あなたのの経営責任に向けられる。それでもいいのですか?」

松永はがり、類を私の胸元に突きつけた。

「今に、彼女の向を確認してください。

には警察の本格な事聴取が入ります。

広告

おすすめ作品

リンクを共有

以下のリンクをコピーして友達と共有してください: