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"目覚めた部下にクビを問われた" 第13話

そこには、あなたのサインと判子がバッチリ残っているんだ」

矢野の言葉のすべてが、真実だった。

森さんを追い詰めたのは、矢野ではない。 防扉を『かずの罠』に変えたのは、ならぬ、の私の傲さと、数字しか見ていなかった酷な経営判断だったのだ。

森さんは、何も覚えていない」 矢野は声を潜め、悪魔のように囁いた。 「彼女に責任を被ってもらえば、旅館も守れる。あなた自の破滅も防げる。彼女だって、い退職をもらって静かに暮らせるんだ。誰も幸にならない。……そのバインダーを、私に渡しなさい、支配。今ここで燃やしてしまえば、すべて丸く収まるんだ」

矢野がを伸ばしてきた。

私は、のアルミバインダーをく抱きしめた。 煤が、私の胸元のシャツを黒く汚した。

森さんの顔が浮かんだ。 、私の酷な言葉に涙を流しながら耐えていた顔。 そして今、病院のベッドので、「自分は何を背負わされようとしているのか」と怯え、泣き叫んでいた顔。

彼女は、も、そして今も―― 私の犯した罪の代償を、たったで背負わされようとしているのだ。

「断る」 私はバインダーを背負い、ろへがった。

「支配!」

「これは、渡さない。誰にも渡さない」 私の声は震えていた。だが、それは恐怖のせいではなかった。 自らの醜悪な過に対する、激しいりと決の震えだった。

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「私は逃げない。の私が犯した過ちのツケを、記憶を失った彼女に支払わせるような真似は、絶対にしない」

「……正気ですか」 矢野の顔が、りと焦燥で歪んだ。 「そんなことをすれば、の本社の査問会で、あなた自が破滅するんですよ!? 業務過失傷害の容疑者として、警察に突きされるのはあなたなんだ!」

「望むところだ」

私は矢野の脇をすり抜け、焦げた階段を気に駆けりた。

から矢野の鳴り声が追いかけてきたが、度と振り返らなかった。

に持ったバインダーのたい属の触だけが、私の掌に痛いほどい込んでいた。 これは、彼女が命がけで残した、現の魂だ。 そして、私がに踏みにじった、彼女の誇りそのものだ。

病院へ戻らなければならない。 彼女に過してもらうためではない。 私たちが仲だったと証するためでもない。

彼女を、の私という怪物から。 そして、今なお彼女をい物にしようとするこの組織から、守り抜くために。

夕暮れの空が、血のような赤に染まり始めていた。 、すべてが決する。 私はバインダーを抱きしめたまま、へとした。

旅館の事務所に戻った私は、鍵のかかった架のっていた。

空気には、まだ消の湿気と焦げた匂いが滞留している。

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事務所の窓は暗く、デスクのには休業対応に追われるスタッフが残していった類が乱雑に積みげられていた。

私は番奥のスチールキャビネットの最段を引きした。 そこには、私が翠閣に着任した――あの改革初度の経理・総務関係の決裁類が、埃をかぶって眠っていた。

設備投資・修繕申請綴り』。

たい黒表のファイルをデスクに広げる。 ページをめくる指が、たく張っていた。 乾いたの擦れる音が、静まり返った部にやけにきく響く。

あった。 矢野の言っていた通りの類だった。

『別館階 防区画仕切扉および煙レリーズ交換事 見積ならびに稟議』。

付は、。 起案者は矢野副支配。そして、用の決裁欄には――。

赤インクの太いペンで、容赦なく引かれた巨な×印。 その横に殴りきされた、私自跡。

『法定検査にて「観察」の範囲内。現点で稼働に致命な支障なし。今期のキャッシュフロー改善を最優先とするため、本件は保留。常点検の清掃・注油にて対応のこと。 総支配・坂井』

私はその文字を、指先でなぞった。 自分のいた文字なのに、まるで別の酷な怪物が残した爪痕のように見えた。

の私は、の支配が残した累積赤字の数字だけを見ていた。

からの融資継続を取り付けるため、本社の役員会に提する「即効性のあるコストカット案」

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