みかん小説
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"妹のドレスを二十センチ切った" 第5話

分。 の空はまだに包まれているが、タイムリミットは刻刻と迫っていた。 メイクスタッフが自宅に入ってくるのは、朝のだ。

母はにへたり込み、パニックのあまり震えるでスマートフォンの画面をタップしていた。 「貸装……夜対応の貸装……誰か、誰かてよ……!」 コール音が虚しく響く。繋がるはずがなかった。 たとえ繋がったとしても、嫁のサイズにわせたウェディングドレスが、数に入るわけがない。

沈黙が、く部を支配した。 聞こえるのは、母のすすり泣きと、壁の計が刻むチクタクという無質な秒針の音だけ。

その、美玖がいた。

美玖はゆっくりと歩み寄り、テーブルのに置かれていたあの裁ち鋏にを伸ばした。 ひやりとした属の触を確かめるように、細い指で柄を握り直す。

「美玖……?」 母が怯えたような声をげた。 「何するの……? 美玖、まっちゃダメよ……!」

美玖は母の声を無した。 そして、ラックに吊るされたドレスのまで歩いていくと、私が切り落とした裾のラインをじっと見つめた。

私の入れた刃は、焦りとりのせいで、ところどころ布の端が引きつれ、ギザギザに毛羽っていた。 美しいとは言えない、暴力の痕跡そのものの切り

美玖は鋏の刃をきくき、その毛羽った糸の束に刃を当てた。

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ジャキッ。

迷いのない音が響いた。 美玖は、自らので、歪んでいた切り平に、滑らかにえ始めた。

「美玖……何をしてるの?」 私の問いに、妹は振り返らなかった。 ただ、刃先をかすだけが、驚くほど正確に、淡々と布を切り揃えていく。

「これしか着るものがないんでしょ」

美玖の横顔は、信じられないほど静かだった。 先ほどまでの涙は完全に止まり、濡れた瞳の奥に、暗くたいが灯っていた。

「あのお義母様が用した布を、お姉ちゃんが切った。そして、私が仕げをした」

ジャキッ、と最片が落ちる。 えられたドレスの裾は、まるで最初からそういうデザインであったかのように、美玖の膝センチのラインで潔く切り揃えられていた。

そこから覗くのは、、美玖が必に隠し続けてきた、醜く盛りがった赤の傷痕。 その傷痕が、真っなシルクとチュールのコントラストによって、残酷なほど鮮に浮かびがっていた。

「健さんに話するの?」 私が尋ねると、美玖は鋏をシーツのに投げした。 属が擦れう、たい音がした。

「しない。今言ったら、式そのものを止にされるか、どっかから変な布を持ってこられてグルグル巻きにされるだけだから」

美玖はドレスのジッパーにをかけ、ラックから乱暴に引き抜いた。

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抱きかかえられたドレスは、もはや純潔無垢な嫁の装ではなく、誰かの血を吸った旗のように見えた。

くよ。式には予定通り入る」

「美玖、正気なの?!」 母ががり、美玖の腕を掴もうとした。 「あちらのご親族が見たら、なんて言われるか……! うちの教育を疑われるわ! 健さんに捨てられたらどうするの?!」

美玖は、母のを静かに、しかし決定な力で振り払った。

「捨てられたら、それまでの男だったってことでしょ」

「美玖……!」

「お母さんは、あのお義母様にげる練習でもしててよ。私は自分の部で着替えるから」

美玖はドレスを引きずりながら、自分の部へと向かった。 いシルクの裾が廊を擦る、シュシュッという擦過音が、やけにきく響いた。

バタン、とドアが閉まり、内側から鍵の回るカチャリという音が聞こえた。

リビングに残されたのは、私と母だけだった。 母はそのに崩れ落ち、顔を両で覆って声を殺して泣き始めた。 「おしまいよ……このはおしまいよ……」

私は母に声をかけることもできず、ただち尽くしていた。 頬の打撲痕が、脈打つようにい。

その、リビングのテーブルのに置いてあった私のスマートフォンが、く震えた。 画面が点灯し、通が表示される。

メッセージの送り主は、『富樫加奈子』――健さんの母親だった。

送信刻は昨夜の分。 私が美玖の話を聞き、鋏を握る直に届いていたものだ。

私はロックを解除し、その文面をいた。

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