"妹のドレスを二十センチ切った" 第6話
『夜分遅くに失礼いたします。の配について、のためお姉様にもお伝えしておきたくじます。 美玖さんのの件ですが、やはりのご列席者の顔ぶれを考えますと、しの粗相も許されない状況でございます。 の入、美玖さんには常に健の斜めろを歩くよう、ご庭でも今度ご指導いただけますでしょうか。また、お直しの入退につきましても、スタッフがドレスの裾を極力広げないよう、私の方から厳に申し伝えておきました。 美玖さんのようなお体の方をお迎えすること、私どもにとっても変な覚悟と慈が必でございました。健の顔にを塗るようなことだけは、何卒避けていただきたくじます。 は良きとなりますよう、お母様にもよろしくお伝えくださいませ』
指先が、りで微かに震えた。
慈。 覚悟。 健の顔にを塗るな。
画面のかりが消え、再びリビングに暗が戻る。 窓のを見やると、くのビルの稜線が、んでいく気配を微かに帯び始めていた。
午分。 嫁を乗せるハイヤーが到着するまで、あと半。
美玖は部から歩もてこない。 閉ざされたドアの向こうで、妹が何をい、あの傷だらけのを撫でているのか、今の私にはる由もなかった。
ただつだけ確かなのは、数、あの華やかで残酷な披宴の幕ががった、誰として戻りのできない破滅と審判が待っているということだけだった。
広告
焦げた布の匂いが、腔の奥にツンと突き刺さった。
午分。 台所から漂ってきたのは、朝の噌汁の汁の匂いではなく、温のスチームアイロンが化学繊維の裏を焼き焦がした、苦く鋭い異臭だった。
「嘘……嘘でしょ、なんでくっつかないのよ……!」
リビングのにつんいになり、母は半狂乱でアイロンをドレスの裾に押し当てていた。 芸用の接着テープ。夜けのコンビニと営業のディスカウントストアを自転で何往復もして買い集めてきたものだ。 だが、切り落とされたミカドシルクの断面はく、糊など受け付けない。 むしろ無理なを加えたせいで、裾の端がチリチリと茶く縮れ、修復能な焦げ跡がコインほどのきさで浮かびがっていた。
「お母さん、もうやめて」
私が声をかけると、母は振り向きざま、に持ったアイロンをに叩きつけるように置いた。 じゅう、とシーツが微かに煙をげる。
「あんたのせいよ! あんたが切りさえしなければ、こんなことにならなかったのよ!」 充血した母の目が、私を激しく射抜く。 「話も全部ダメ! どこのドレスショップも『当の朝に貸しせるものはない』って! 当たりよね、サイズわせもクリーニングもしてないものをポンとせるわけがないわ! どうするのよ……富樫のご親族に、なんて説すればいいの?!」
広告
母の取り乱し方は、娘のへの配ではなく、ただひたすらに「世体」と「富樫のり」への恐怖だけで駆していた。 私は焦げた布の匂いを吸い込みながら、え切った廊へと目を向けた。
美玖の部のドアは、あれから、度もいていなかった。
計の針は分を回っていた。 には、式から派遣された張ヘアメイクのスタッフが、この狭いマンションにやってくる。 残されたは、あと分もなかった。
私はリビングのサイドボードの引きしから、本のさな真鍮の鍵を取りした。 子供の頃、美玖と私が部を共していた代の、古い鍵だ。
鍵穴に差し込み、静かに回す。 カチャリ、とさな属音がして、ノブを押した。
「美玖」
カーテンが締め切られた畳は、暗い青の空気に沈んでいた。 もつけられておらず、部の空気は蔵庫ののようにえ切っていた。
美玖はベッドので、膝を抱えて座っていた。 着替えてはいなかった。毛玉のついたスウェットのズボン。 その膝元には、先ほど美玖自が裁ち鋏で切り揃えた、裾のいドレスが無造作に放りされていた。
私の音に、美玖はぴくりともかなかった。
広告
おすすめ作品
-
完結第21話
母がナイフで砕いた自分の名前
母の七十歳の祝いで、私は家族に尽くし続けた母に自分の人生を取り戻してほしい一心から、ケーキのプレートに書かれた夫の姓を削り落とし、母の旧姓を書き直した。これで母は喜んでくれるはずだった。しかし母は青ざめ、「誰が戻りたいなんて言ったの」と私を睨みつけると、ナイフを掴んで自分の名前を何度も突き刺し粉々に叩き割った。家族全員から責め立てられた私は、母の部屋で底面を無残に削り取られた大量の人形を見つける。怒り|兄弟姉妹|真相|親子関係|修羅場3.1万字5 0 -
完結第19話
棺の中の男を、夫は知らない
親を捨てて逃げた冷酷な男だと親族中から罵倒される義兄の葬儀で、義母は涙を流し、夫を支えの孝行息子だと称えていた。だが焼香台へ進む夫の前に立ちはだかった私は、「あなた、本当に棺の中にいるその人を知っているの」と告げた。夫が隠していたのは、過去五年間、毎月義兄へ送り続け、そのたびに全額突き返されていた六十回分の送金記録だった。血の気を引かせる夫と親戚の前で、私はその明細を祭壇の上に広げた。兄弟姉妹|親不孝|絶縁|親子関係|修羅場2.8万字5 0 -
完結第28話
離婚11日後、私に9億8000万円が当たった
「子供を抱えて一人で生きていけると思うのか」――13年間連れ添った夫・達也は、離婚の最後まで私を見下していた。娘の教育資金80万円を無断で投資に使いながら、「家族の金だ」と開き直った男。私は娘・日向を守るため、傷だらけの結婚生活に終止符を打った。だが離婚からわずか11日後、何気なく買った宝くじが約9億8000万円の高額当選を果たす。 人生を変える大金――それでも私は誰にも秘密を明かさなかった。ところが娘を連れて頼った実家では、母から「達也さんに謝りなさい」と門前払いされる。味方だと思っていた家族さえ、私の意思より世間体を選んだのだ。 もう二度と、誰かに人生を支配させない。金に頼って復讐するのではなく、自分の意思で生き直すと決めた私。だが、約10億円という秘密が知られた時、元夫と家族の本当の顔が暴かれ始める――。修羅場|熟年離婚4.1万字5 21 -
完結第24話
目覚めた部下にクビを問われた
地方旅館の火災で客を救い出し重傷を負った部下が目を覚ました。だが彼女の記憶は直近の二年分が抜け落ち、着任初日の私が冷酷に解雇を迫った日のまま止まっていた。会社は避難扉が開かなかった責任を彼女の記憶喪失に乗じて背負わせようと、退職金の支払いを口実に過失を認める書類への署名を病室で迫る。何も思い出せない部下は震える手でペンを握り、かつて自分を追い詰めたはずの私を怯えた目で見つめた。職場逆転|真実|裡の顔|修羅場3.7万字5 0 -
完結第25話
祖父が私に遺した最後の拒否権
亡くなった祖父の果園を三千二百万円で売却するため、東京で働く私は十年ぶりに実家へ呼び戻された。生活苦に喘ぐ父と妹の結婚資金のため、名義を持つ父は契約を急いでいたが、司法書士が出したのは「長孫である私の書面同意がなければ売却は無効」という祖父の遺言だった。早く終わらせようとペンを握った私は、ふと買い手企業がここを何にするつもりなのか尋ねた。山を削り大型トラックの夜間中継所にすると聞かされた瞬間、私は手元のペンを静かに机へと置いた。祖父母と孫|相続|親子関係|金銭問題3.7万字5 0