みかん小説
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"妹のドレスを二十センチ切った" 第11話

その指先には、もはや震えはなかった。

私はドアの脇にち、呼吸をえた。 臓が、肋骨を内側から激しく叩いていた。

数分。 廊から、軽やかな音がづいてくるのが聞こえた。

男性の、弾むような靴音。 そして、く響く、品な女性の笑い声。

「健、タイがし曲がっていてよ。専務へのご挨拶のは、もうし背筋を伸ばしなさいね」 「分かってるよ母さん。美玖、もう着替え終わったかな。写真、く撮ろうよ」

聞き慣れた、富樫健さんの声だった。 何の疑いも、何の警戒もなく、世界で番幸福な郎として、このドアの向こうにっている。

ガチャリ。

ドアノブが、ゆっくりと押しげられた。

「美玖ちゃん、入るよ――」

のタキシードにを包み、満面の笑みを浮かべた健さんが、束をに部へとを踏み入れてきた。 そのすぐろには、最級の加賀友禅の黒留袖をに纏い、完璧に結いげた髪に鼈甲の簪を差した、加奈子さんの姿があった。

の笑顔が、部の空気に触れた瞬だった。

さんの線が、美玖の顔から、その首元、胸元へと滑り落ちていく。 そして、膝のさに達した瞬――。

さんのが、に縫い付けられたようにピタリと止まった。

にしていた純のカラーの束が、音もなくへと滑り落ちた。

「……え?」

さんの喉から、の抜けた、乾いた空気の音が漏れた。

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そのろから入ってきた加奈子さんの線も、同じ所へと吸い寄せられた。 加奈子さんの顔から、刷毛で掃くように血の気が引いていくのが分かった。 数秒まで浮かんでいた慈に満ちた笑みは、見るも無残に凍りつき、唇がわなわなと刻みに震え始めた。

美玖は、逃げなかった。 歩も引かず、その切り落とされたドレスの裾から、醜く引きつれたの傷痕を晒したまま、を静かに見つめ返していた。

の空気が、完全に消滅したかのような、絶対な静寂。

最初に沈黙を破ったのは、健さんでも、加奈子さんでもなかった。

ガチャリ、とで部の鍵を閉める、たい属音。 加奈子さんが、震えるでドアノブのロックを回したのだ。

そして、振り返った加奈子さんの瞳には、今まで誰も見たことのない、どす黒いりと侮蔑の炎が燃えがっていた。

「……美玖さん。これ、何の冗談ですの?」

く、うような声が、密閉された控に響き渡った。

カチャリ。

施錠されたドアのさな属音が、密閉された『鳥の』の空気を真空のように吸い尽くした。

の隅に飾られたカサブランカの、甘ったるく濃な芳が、急激に腐敗した果実のような苦しさに変わる。 誰も息をしていない。 エアコンの微かな送音すら消え失せ、沈黙のみだけでが抜けてしまいそうだった。

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最初にいたのは、母だった。

「お、奥様……! 申し訳ございません、申し訳ございません……!」

母はソファからへ滑り落ちるように崩れ落ち、加賀友禅を纏った加奈子さんの元に、文字通り額を擦りつけた。 着崩れた留袖の帯が歪み、髪から落ちたヘアピンが絨毯に突き刺さる。 娘のれのに、実の母親が相方の母親に座をしている。 その姿は、あまりにも無残で、あまりにも見苦しかった。

「私が……私の監督き届きでございます! 昨夜、美玖が定になりまして、取り返しのつかないことを……! すぐに、すぐに隠すものを探しますから! どうぞ、どうぞお許しください……!」

加奈子さんは、元にひれ伏す母を瞥すらしなかった。 ただ、その徹な線は、美玖の膝――切り落とされたドレスの断面から剥きしになった、と赤のケロイドの傷痕に、杭のように打ち込まれていた。

「……定?」

加奈子さんのから漏れたのは、く、湿り気を帯びた氷のような声だった。 普段の、あの朗らかで品な「良の奥様」の仮面は、跡形もなく剥ぎ取られていた。

「そんな易しい言葉で済むとおいですの? 藤堂さん」

加奈子さんはゆっくりと歩みをめた。 履の底が、に落ちていた純のカラーの束を容赦なく踏みにじる。 緑の茎が潰れ、青臭い分が絨毯に滲んだ。

「何百万というをかけて、私がから誂えさせた最級のミカドシルクですのよ。

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