みかん小説
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"妹のドレスを二十センチ切った" 第16話

そして、美玖は鏡のの自分に向かって、ふっと柔らかく微笑んだ。

「お姉ちゃん」

美玖が振り返った。 その表は、事故に遭ってからので、違いなく番美しかった。

「ベールをげて」

私は息を呑んだ。 「……美玖」

「顔を隠すのも、もうやめる。ベールをげて、お姉ちゃん」

私は歩、美玖へと歩み寄った。 震える指先で、いチュールのベールを摘み、ゆっくりと、美玖の額のへと持ちげた。 わになった妹の顔には、涙の跡はつもなかった。 ただ、凛とした、揺るぎない覚悟だけがそこに宿っていた。

ガチャリ。

美玖自らがを伸ばし、部の鍵をけた。 そして、なマホガニーのドアを、側へ向かって力杯押しいた。

眩いばかりの廊の照が、部へと崩れ込んでくる。 廊で待していたホテルのキャプテン、先導のスタッフ、カメラマンたちが、斉に振り返り、々とげた。

婦様、おで――」

キャプテンが顔をげた瞬、その言葉が喉の奥で凍りついた。 スタッフ全員の線が、美玖の元へと吸い寄せられる。

裾をセンチ切り落とされ、赤の巨なケロイドをに晒した嫁。 そして、その背で、りと屈辱で般若のような顔をした郎の母と、青ざめた郎。

美玖は、息を呑むスタッフたちに向かって、完璧な角度で会釈をした。

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「お待たせいたしました。参りましょう」

ヒールの音が、カツンと静かな廊に響いた。 美玖は誰の腕も取らず、誰の支えも借りず、ただを向いて歩きした。

チャペルのい扉の向こうから、パイプオルガンの厳かな音が、ズンとを震わせながら響き渡っていた。

なチーク材の扉の向こうから、パイプオルガンの音が鳴りのように響いてきた。

荘厳なバッハの旋律。 チャペルの井を震わせ、元のたいを通じて、私のの裏から骨へと振がってくる。

チャペルの――『アトリウム』には、異様な緊張が張り詰めていた。 式のキャプテンを務める松氏が、インカムのイヤホンを押さえながら、脂汗の浮かんだ額を刻みに拭っている。 その線は、美玖の元から瞬たりともれることができないでいた。

級のミカドシルク。 背には、を埋め尽くすように優美に広がるメートルのロングトレーン。 だが、その頃だけが、膝センチのラインで平に断ち切られている。 朝の陽が差し込むガラス張りので、美玖のに刻まれた赤のケロイドが、真っなシルクの額縁のに、これ以ないほど鮮に浮かびがっていた。

婦様……」 松キャプテンが、震える声で囁いた。

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「本当に……本当にこのまま、入されるおつもりですか? 今ならまだ、代わりの控えへお戻りいただき、式を断することも――」

「結構です」 美玖はを向いたまま、平然と言い放った。 「扉をけてください」

その声には、迷いの片もなかった。

から、荒い息遣いが迫ってきた。 加賀友禅の裾を乱暴に蹴りげながら、健さんの母親――加奈子さんが美玖の肩を掴もうとを伸ばす。 その完璧に結いげられていたはずの髪からは数本の髪が解れ落ち、能面のように端正だった顔は、りと恐怖で醜く歪んでいた。

「美玖さん! あなた、自分が何をしようとしているのか、本当に分かっていらっしゃいますの?!」 加奈子さんは声を殺しながら、しかしを劈くような鋭い気迫で詰め寄った。 「あの扉の向こうには、健の会社の司の方々がいらっしゃるのよ! 専務ご夫妻も、常務も、本部も! 族の老たちも全員揃っているの! そので、そんな奇形の傷跡を見せびらかして、うちの健に恥をかかせる気?! そんなことをしたら、あなた、ただじゃ済まなくてよ! 、世に顔向けできないようにしてやるわ!」

脅迫だった。 流階級の体面という名のメッキが完全に剥がれ落ちた、ただの剥きしの暴力。

その横で、純のタキシードを着た健さんが、幽鬼のようにふらふらとち尽くしていた。

胸に挿したチーフは折れ曲がり、額からは粒の汗がポタポタと絨毯に落ちている。

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