みかん小説
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"棺の中の男を、夫は知らない" 第1話

の空気は、臭さと線の煙で、胸の奥がく詰まるほど淀んでいた。

「喪主、佐伯浩平様、へ」

葬儀社の司会者の、を削ぎ落としたい声がスピーカーから落ちる。 黒い喪を包んだ私の夫、浩平が、ぎこちない取りでがった。

歳。私のの夫は、この数で目に見えて痩せこけていた。 仕ての良いスーツの肩が、本来の体型よりも回りきく浮いている。 祭壇の奥、とりどりの菊に囲まれた製の棺のに眠っているのは、彼のの実兄、達也さんだった。

歳。因は、独居アパートでの急性全。 発見されたのは、息を引き取ってから丸だったという。

親族席からは、ため息混じりの囁き声が波のように広がっていた。

「……それにしても、あんな勝奔をしておいて、最はあんなに方かね」 「お母さんがだよ。あんな孝者を最まで気にかけて」 「浩平くんがしっかりしていて本当に救われたわ。あのが佐伯を支えてくれなかったら、今頃どうなっていたか」

囁いているのは、黒い着物を着た叔母たちや、縁の親戚たちだ。 彼らの線は、浩平の背に向けられたれみと称賛、そして祭壇央の遺に向けられたたい軽蔑に分されていた。

に使われていたのは、、達也さんがまだ代半ばのころのスナップ写真だった。

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画質は荒く、引き伸ばされた目元はどこかピントがぼやけている。 族の誰も、彼の最の写真を持っていなかったからだ。

私の隣に座る義母、澄子は、レースのハンカチを目元に押し当てて、かすかに肩を震わせていた。 歳。首筋に巻かれた真珠のネックレスが、蛍灯のく鈍くっている。

「浩平……お兄ちゃんに、お線をあげてやって頂戴」

澄子の掠れた、々しい声が響く。

「あの子がどんなにたいでも……親を捨てて逃げた罪でも、血の繋がった兄なんだから。あなたの派な姿を見せて、迷わず成仏するように祈ってあげて」

親族たちが斉に頷く。 「澄子さんは本当にできた母親だ」「あんな息子でも、親としてのを捨てないなんて」と、々に同を漏らしている。

誰もが信じ切っていた。 、父が末期癌で倒れたまさにその、「介護ものことも面倒だ」と言い放って具をまとめ、族との連絡をに絶った男。 それが、この斎にいる全員が共している『佐伯達也』というの輪郭だった。

浩平は返事をしなかった。 ただ、操り形のようにぎくしゃくとを運び、焼台へと向かう。 祭壇まであと歩。 彼が炉のとうとした、その瞬だった。

私はがった。

パイプ子が畳を擦る乾いた音が、静まり返った式さく響いた。

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誰何する暇も与えず、私は黒いストッキングので歩みをめ、浩平の真正面に回り込んだ。

祭壇と夫のに、私の体を割り込ませる。

「……ゆみ?」

浩平が驚いたようにを止め、濁った瞳を私に向けた。 目のに張り付いた濃い隈と、カサカサに乾いた唇。 私は彼の目から線を逸らさず、式の全員に通る、く澄んだ声で言った。

「浩平。あなた、本当に棺のにいるそのっているの?」

瞬、斎が止まった。 親族たちのざわめきが凍りつき、読経のの静寂よりもい、な空が広がった。

「な……何を言いすんだ、ゆみ」 浩平の声が裏返った。 「やめろ、親戚の皆さんもいるで……何をしてるんだ」

「聞いてるのは私よ」 私はかなかった。歩も引かず、夫の揺しきった顔を見据えた。 「あなたは本当に、そこに横たわっている実の兄のことをっているの?」

「あんた、正気なの!?」

鳴のような号が、方からんできた。 義母の澄子だった。 先ほどまでの々しい態度は消え失せ、りで顔を真っ赤にしてがっていた。

「浩平のお嫁さんだからとってして見ていれば……何て無作法なの! 兄をくして番傷ついているのは浩平なのよ! 親戚の皆様ので、恥をかかせる気!?」

親戚たちからも、非難の線が斉に私に突き刺さる。 「浩平くんの嫁、がおかしくなったんじゃないか」

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