みかん小説
本棚

"棺の中の男を、夫は知らない" 第2話

者への冒涜だ」「これだからから入ってきたは」

周囲からの容赦ない敵の言葉が、私の朶を打つ。 浩平は耐えかねたように私の腕を掴もうとを伸ばしてきた。その指先は、刻みに震えていた。

「ゆみ、頼むから座ってくれ。で……で何でも聞くから」

じゃ遅いのよ」 私は夫のを、たく、だが決定な力で振り払った。

の炉に入って骨になってしまったら、もう度と確かめられない。だから今、ここで答えて」

私は喪のバッグのジッパーをけた。 から、つ折りにした数枚のA4用を取りす。 それは昨、夫の斎の引きしの奥、鍵のかかる古い革製アタッシュケースから見つけした、ネットの取引のコピーだった。

私はそのを広げ、浩平の目のに突きつけた。

「あなたが本当に、お義母さんの言う通り『親を捨てて逃げた酷な兄』を軽蔑しているなら……どうして過、毎に欠かさず、兄の座へ万円を振り込み続けていたの?」

浩平の喉が、ヒュッと音をてて鳴った。 彼の顔から、さっと血の気が引いていくのが分かった。 ただの驚きではない。 隠していた秘密の臓腑を、に引きずりされたの顔だった。

「ふ、振り込み……?」 親戚のが怪訝な声を漏らした。 「浩平くんが、達也にを送っていたのか?」

広告

「毎万円? 万円も……?」

ざわめきが、先ほどとは全く異なるを帯びて広がり始める。 義母が目を見張り、畳を蹴るようにして駆け寄ってきた。

「浩平! 何なのそれ、本当なの!? あんた、あの棒猫みたいな兄貴におを恵んであげていたの!? 親を裏切ったあの子に、私に隠れて仕送りをしていたっていうの!?」

澄子は私のからを奪い取ろうとを伸ばした。 私は半歩がり、それをかわした。 そして、夫から度も目をさずに、最もな、そして最もな事実を告げた。

「お義母さん、違います。恵んであげていたんじゃない」

私は夫の青ざめた唇を指差した。

「本当に奇妙なのは、その先です。……浩平。あなたはこの、毎振り込みをしていたけれど、兄の達也さんはそのおを、円たりとも使っていなかった」

の空気が、再び張り詰めた。

「毎に浩平が万円を振り込む。すると、必ず、全く同じ万円が『振込返却』として、浩平の座に戻されている。過度の狂いもなく」

私はの数字を指先でなぞった。

回振り込んで、回全額戻ってきているのよ。あなたは最初の回で、兄がを受け取る気がないことをっていたはずだわ。それなのに、なぜもの、毎、虚空に向けておを投げ込むような真似を続けたの? そしてなぜ、度だって兄の顔を見にこうとしなかったの?」

広告

「そ、それは……」

浩平の唇が震え、をなさない呼気が漏れた。 彼は助けを求めるように線を泳がせたが、親族たちはもはや彼を庇う空気を失っていた。 ただ困惑と、得体のれない気悪さに圧倒されていた。

受け取られないと分かっている仕送りを、械のように送り続ける弟。 そしてそれを、頑なに突き返し続けた兄。

「浩平、答えなさいよ!」 澄子が浩平のスーツの袖を引っ張った。その爪が布い込む。 「どういうことなの!? あの子はおが欲しくて、勝ったんでしょう!? 京で借でも作って、あんたに集ろうとしてたんじゃないの!? どうして私に黙ってたのよ!」

「母さん、やめてくれ……」

「やめないわよ! 私は被害者なのよ! あの子に捨てられて、どれだけ恥ずかしいいをしたか! それなのに、あんたたちで私をのけ者にして……!」

澄子のヒステリックな叫び声が、読経の静粛なホールに反響した。 親族たちは居悪そうに目を背け、葬儀社のスタッフが巻きに困惑した表を浮かべている。

私は、夫の胸元を見つめた。 彼は、泣き叫ぶ母親の腕を振り払うこともできず、かといって私の問いに答えることもできず、ただ縮こまっていた。 その姿は、歳の分別あるの男には見えなかった。 見えない糸で全を縛りげられ、きの取れなくなった、幼い子供のようだった。

広告

おすすめ作品

リンクを共有

以下のリンクをコピーして友達と共有してください: