"棺の中の男を、夫は知らない" 第11話
「お義母さん、いい加減にしてください」
私の声は、く、しかし氷のように張り詰めていた。 テーブルのの麦茶のコップを指差す。
「これ以、んだお義兄さんを冒涜するなら、今すぐこのからてってください」
「なんですって!?」 澄子はちがり、テーブルのの麦茶のコップを力任せに払いのけた。
ガシャアン!
甲い破砕音が静寂を切り裂いた。 ガラスの破片がフローリングのにび散り、たい麦茶が私の元に広がる。
「ゆみ!」 浩平が叫んで私を庇おうとした。 だが、澄子は狂ったように叫び続けた。
「あんたのせいよ! あんたが浩平を唆して、私から引きそうとしているのね! 結婚するからそうだった! この棒猫! 浩平は私の息子よ! あの子が私を裏切るはずがないのよ!」
澄子は胸をかきむしり、げさに肩で息をし始めた。 顔を歪め、ソファーに崩れ落ちるように倒れ込む。
「あ……ああ、臓が……苦しい……! 浩平、救急を……! あんたたちが私を殺す気よ……!」
お決まりの芝居だった。 自分のい通りにならなくなると、体調良を装い、罪悪を植え付けて相を屈させる。 浩平はこの、母親のこの「発作」に怯え、そのたびに自分の志を殺してきたのだ。
浩平の顔が、瞬、過の恐怖に引き戻されそうになった。 「母さん……丈夫か……?」と、を伸ばしかける。
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「浩平、触らないで」
私は夫の首をく掴んだ。 そして、ソファーので目を剥いて苦しがる澄子を、徹に見ろした。
「救急を呼びましょうか、お義母さん? それとも、にお義父さんがくなった、あなたが毎晩のように駆け込ませていた、あの武蔵野病院の救急来に連絡しますか?」
澄子の荒い呼吸が、瞬だけ止まった。 閉じられていた瞼の隙から、憎悪に満ちた瞳が私を盗み見た。
「……あなたが『臓が止まりそう』と言って浩平を夜に呼び戻し、私たちの婚約を破談に追い込もうとした、あのと同じですね」
澄子の顔から、芝居の苦悶が消えった。 代わりに浮かびがったのは、剥きしの敵だった。
「……てって」 浩平が言った。
その声はさかったが、部の空気を震わせるほどかった。 浩平は母親の顔を見ようともせず、玄関の方向を指差していた。
「てってくれ、母さん。今夜は……あんたの顔を見たくない」
「浩平……? あんた、本気で言ってるの……? 母親を追いす気……?」
「てけと言っているんだ!!」
浩平の魂の底からの叫びに、澄子は怯え、ずさりした。 これ以ここにいても自分に勝ち目がないと悟ったのだろう。 澄子はのガラスの破片を避けながら、バッグをひったくるように持ちげた。
「……悔するわよ」 玄関ドアの隙から、澄子は呪いのような言葉を吐き捨てた。
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「あんたたちだけで、まともにきていけるとわないことね。私を切り捨てた罰は、必ず受けるわ」
バタン!と乱暴にドアが閉まり、静寂が戻ってきた。
フローリングに広がる麦茶の染みと、砕けたガラス。 浩平はそのに膝をつき、両で顔を覆ってかなくなった。 その背は、見ているのが痛々しいほどさく丸まっていた。
私は割れたガラスを黙々と片付け、雑巾でを拭いた。 りで指先が微かに震えていたが、のは議なほど研ぎ澄まされていた。
何かが繋がろうとしていた。 の記憶。 浩平が私にプロポーズをしてくれた直、佐伯に吹き荒れた、あの異常な嵐の記憶が。
「……浩平」 私は夫の隣に座り、そのたい肩にを置いた。 「話して。、お義兄さんがてった本当の理由を。あなたがずっと胸の奥に閉じ込めて、見ないふりをしてきたことを」
浩平は顔をげなかった。 ただ、指の隙から、苦渋に満ちた告がぽつり、ぽつりと零れ落ち始めた。
「……怖かったんだ」
浩平の声は、幼い子供のように震えていた。
「ゆみと会って、結婚しようって決めた……俺はまれて初めて、母さんのをて、自分のをきられるとった。でも……母さんにゆみを紹介した次のから、獄が始まった」
いすだけでも息が詰まるような、の景。
「母さんは毎、夜に過呼吸の発作を起こした。『浩平が私を捨てる』『女に狂って親を殺す気だ』って……眠薬を量に机のに並べて、俺ので泣き叫んだ。
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