"棺の中の男を、夫は知らない" 第12話
仕事を休んで病しろ、結婚なんて許さない、どうしても結婚するなら私の体に誓っててけって……」
浩平は爪を噛んだ。血が滲むほどく。
「父さんはもう末期癌で、ホスピスに入る直だった。のはめちゃくちゃだったよ。そんな……兄貴が、母さんを精神科に連れてこうとしたんだ」
「お義兄さんが?」
「ああ。兄貴は静だった。『母さんのこれは病気だ。依と執着が異常すぎる。ちゃんと医者に診てもらって、浩平から引きさないと、族全員が共倒れになる』って。……でも、母さんはそれを逆に取った」
澄子は親戚じゅうに話をかけ、泣き叫んだのだという。 『男が私を狂扱いして、精神病院に閉じ込めようとしている』と。 親戚たちは澄子の方をし、達也さんを『母親を棄てようとする酷な男』として斉に糾弾した。
「父さんも、もう気力が残っていなかった。母さんのヒステリーを止める力なんてなかったんだ。そして……あのが来た」
浩平の呼吸が浅くなる。
「の、の初めだった。俺が実に帰ると、兄貴の荷物が全部なくなっていた。机のには、母さんの実印と、の権利、そして殴りきの置が枚だけあった。『もう面倒は見切れない。浩平に全部押し付ける』って……」
「それをお義母さんが親戚に見せたのね」
「……そうだ。母さんは泣き崩れて、『浩平、私にはもうあんたしかいないのよ』って俺にしがみついた。
広告
親戚たちも『浩平くんが澄子さんを守ってあげなさい』ってを揃えて言った。……俺は、しちゃったんだ」
浩平は、涙でぐしゃぐしゃになった顔をげた。 その瞳には、自分自に対する激しい嫌悪が渦巻いていた。
「俺は……兄貴がてってくれたことで、助かったってってしまったんだ! 母さんの憎悪の矛先が全部兄貴に向かったから! 兄貴が悪者になってくれたおかげで、母さんは『私を支えてくれる優しい息子』として俺の結婚を……ゆみとの活を、渋々認めてくれたんだ! 俺は……俺は兄貴の犠牲のにって、ぬくぬくと幸せをに入れていたんだよ!!」
浩平の叫びは、痛の極みだった。 彼はずっと気づいていたのだ。 無識の奥底で、兄が背負ったのさをっていた。 っていたからこそ、毎万円を送り続け、それが突き返されても、決して兄の顔を見にこうとはしなかった。 真実をってしまえば、自分のに入れたささやかな幸福が、罪の識で崩壊してしまうと分かっていたからだ。
「……でも、それだけじゃないはずよ」
私はちがった。
「お義兄さんは、なぜそこまでしなければならなかったの? ただをてくだけなら、悪者になる必なんてなかった。親戚に罵倒され、弟に憎まれるようなを残す必なんてなかったはずよ」
広告
「ゆみ……?」
「確かめにきましょう。、お義父さんの主治医だった野先のところへ」
翌朝、私たちは武蔵野にあるさな内科クリニックを訪れた。 かつて佐伯の主治医であり、き義父の終末期医療を担当していた野医師は、すでにを過ぎていたが、まだ現役で域医療を支えていた。
診察の、奥の院に通された私たちは、い沈黙ので向きった。
「……達也くんが、くなったのかね」
野医師は、私が差しした診断のコピーを見つめ、く、いため息をついた。 その皺の刻まれた顔に、痛のが広がる。
「急性全か……。あの真面目な男が、で……そうか」
「先」私はのめりになって尋ねた。「先は、の佐伯で何が起きていたのか、ごなんですね?」
野医師は線を伏せ、机のの万をいじった。
「医師には守秘義務がある。庭の内にち入るべきではないと、自分に言い聞かせてきたよ。だが……達也くんが命を落とし、浩平くんがそこまで追い詰められているのなら、話さなければならないのかもしれんな」
医師は鏡をし、疲れたように目元を揉んだ。
「浩平くん。君のお母さんの、君に対する執着は……単なる子れができていないというレベルのものではなかった」
野医師の言葉は、静かだったが容赦がなかった。
「あれは、共関係という名の精神支配だ。お父さんのが病気とともにっていくにつれて、お母さんは君を『夫の代わり』、いや、それ以の『自分の義を担保する唯の所物』として囲い込もうとしていた。
広告
おすすめ作品
-
完結第20話
長女にだけ渡された鍵
父の四十九日。「お前が一番しっかりしている」と病床の父から金庫の鍵を託された長女の私は、弟と妹の前で鉄の扉を開けた。だが中にあった私の通帳は残高一万円で、二百八十万円あった預金は弟の名義で全額引き出されていた。問い詰める私に弟は「親父に頼まれた」と父の直筆の手紙を突きつけ、妹も父と交わした別の密約を叫び始める。そこへ男が現れ、父が実家を担保に借りた五百万円の借用書を突きつけてきた。裡切られた|兄弟姉妹|相続|金銭問題|修羅場3.0万字5 0 -
完結第21話
母がナイフで砕いた自分の名前
母の七十歳の祝いで、私は家族に尽くし続けた母に自分の人生を取り戻してほしい一心から、ケーキのプレートに書かれた夫の姓を削り落とし、母の旧姓を書き直した。これで母は喜んでくれるはずだった。しかし母は青ざめ、「誰が戻りたいなんて言ったの」と私を睨みつけると、ナイフを掴んで自分の名前を何度も突き刺し粉々に叩き割った。家族全員から責め立てられた私は、母の部屋で底面を無残に削り取られた大量の人形を見つける。怒り|兄弟姉妹|真相|親子関係|修羅場3.1万字5 0 -
完結第21話
妹のドレスを二十センチ切った
妹の結婚式を数時間後に控えた深夜二時、私はリビングで特注のウェディングドレスに裁ち鋏を入れた。事故で右足に傷が残る妹に対し、相手の家族は配慮という名目で足を隠す重いドレスを強要し、当日は動かず座り続けるよう言い含めていた。母の怒声が響き、私の頬に平手打ちが飛ぶ。泣き崩れる妹の足元には、前裾だけが二十センチ切り落とされた純白の布が散らばっていた。私は鋏を置き、「今日これを着て出なさい」とだけ告げた。裡切られた|兄弟姉妹|裡の顔|親子関係|修羅場3.1万字5 0 -
完結第28話
離婚11日後、私に9億8000万円が当たった
「子供を抱えて一人で生きていけると思うのか」――13年間連れ添った夫・達也は、離婚の最後まで私を見下していた。娘の教育資金80万円を無断で投資に使いながら、「家族の金だ」と開き直った男。私は娘・日向を守るため、傷だらけの結婚生活に終止符を打った。だが離婚からわずか11日後、何気なく買った宝くじが約9億8000万円の高額当選を果たす。 人生を変える大金――それでも私は誰にも秘密を明かさなかった。ところが娘を連れて頼った実家では、母から「達也さんに謝りなさい」と門前払いされる。味方だと思っていた家族さえ、私の意思より世間体を選んだのだ。 もう二度と、誰かに人生を支配させない。金に頼って復讐するのではなく、自分の意思で生き直すと決めた私。だが、約10億円という秘密が知られた時、元夫と家族の本当の顔が暴かれ始める――。修羅場|熟年離婚4.1万字5 166 -
完結第24話
目覚めた部下にクビを問われた
地方旅館の火災で客を救い出し重傷を負った部下が目を覚ました。だが彼女の記憶は直近の二年分が抜け落ち、着任初日の私が冷酷に解雇を迫った日のまま止まっていた。会社は避難扉が開かなかった責任を彼女の記憶喪失に乗じて背負わせようと、退職金の支払いを口実に過失を認める書類への署名を病室で迫る。何も思い出せない部下は震える手でペンを握り、かつて自分を追い詰めたはずの私を怯えた目で見つめた。職場逆転|真実|裡の顔|修羅場3.7万字5 2