みかん小説
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"棺の中の男を、夫は知らない" 第14話

それは、弁護士の印鑑が押された、公正証遺言の控えだった。

「お父さんはね、ただ泣き寝入りしたわけではなかった。お母さんには内緒で、私と弁護士を病に呼び、この遺言を作成したんだ」

「遺言……?」浩平が涙に濡れた顔をげた。

「そうだ。佐伯と建物に関するものだ。お父さんは、お母さんが浩平くんに実を継がせ、元に縛り付ける未来を恐れていた。だから、こうき残したんだ」

医師が指差した条項を読んだ瞬、私の息が止まった。

男・佐伯達也が命である限り、実の持ち分分のは達也に帰属する。 ただし、もし達也が母・澄子より先にした——実および建物の権利は、すべて信託に委託され、母・澄子の終医療および施設入所費用に充当するものとし、浩平への直接相続はこれを禁ずる』

「これは……」

「お父さんの、最の防壁だよ」 野医師の目が、鋭くった。 「浩平くんが実を相続してしまえば、お母さんと未来永劫、縁を切ることができなくなる。お父さんは、達也くんがんだ、実そのものを解体して換し、お母さんをに専の施設に入れられるよう、法な仕掛けを残していたんだ」

その、私のスマートフォンがく震えた。 見ると、親族のまとめ役である叔父からのメッセージだった。

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画面に表示された文字を読んだ瞬、私の背筋にたいりがった。

『澄子さんから連絡があった。達也の遺骨の件だが、の法で佐伯の墓に入れるのは見わせることにした。親孝者の骨を先祖代々の墓に入れるわけにはいかないという澄子さんの向だ。摩の奥にある無縁塚に祀供養の配をしたそうだから、浩平くんも納得するように』

無縁塚。 寄りのない者、引き取りのない者が、名も刻まれずに放り込まれる同墓

澄子は、んで骨になった達也さんからすら、佐伯の名を奪い、歴史から完全に抹消しようとしていたのだ。 自分のついた嘘を守るために。 自分が『れな被害者の母親』であり続けるために。

「浩平」 私はスマホの画面を、夫の目のに突きつけた。

浩平はそのい文章を読んだ。 彼の目から、涙が消えた。 代わりに宿ったのは、、彼の度もしなかった、静かで、徹な、男の決だった。

「……母さんは、兄貴を無縁仏にする気だ」 浩平の声は、もはや震えていなかった。 彼はがり、野医師から渡された兄のと、父の遺言の控えを、しっかりと両で握りしめた。

「ゆみ。の法は……来週だな」

「ええ。吉祥寺の実で、親戚全員が集まるわ」

こう」 浩平は私をまっすぐに見つめた。

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その瞳の奥には、兄が背負い続けてくれた痛みのさと、それを今度は自分が引き受ける覚悟が、炎のように灯っていた。

「兄貴の骨は、俺が守る。母さんがつき続けた嘘を……俺が、こので終わらせる」

枯らしが、クリニックの窓をガタガタと揺らしていた。 だが、私たちの元にはもう、迷いの筋も落ちていなかった。

の法の朝、吉祥寺の空は抜けるようなれだった。 刺すようなたいが、佐伯に植えられた柊の垣をさく揺らしている。 然と刈り込まれたその枝先を見るたび、私の胸の奥に鋭い痛みがった。 あの暗い畳半で命を削っていた達也さんが、夜勤けの凍える指先で、この垣をえていたのだ。 主を失った垣は、わずか余りのに、もうさな揃いの芽をあちこちに伸ばし始めていた。

玄関をくぐると、線りと級な仕し料理の匂いが混ざりい、苦しい空気が廊に漂っていた。

「あら、浩平。遅かったじゃないの」

奥の仏から現れた義母の澄子は、漆黒の綸子にを包んでいた。 喪は滑らかで、胸元には黒真珠のブローチが留められている。 夫をくし、男をくしたれな未。 その完璧な装いにを包んだ澄子の顔には、など微もなかった。

あるのは、親族たちを従え、このの頂点に君臨する者特の、傲な誇らしさだけだった。

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