"棺の中の男を、夫は知らない" 第15話
「親戚の皆様はもう全員お揃いよ。ほら、く仏壇のに座りなさい。今はお寺の職さんがお経をあげてくださった、材さんが来てくださることになっているの」
澄子は私のなど最初から界に入っていないかのように、浩平の腕を取ろうとした。 だが、浩平はをわずかに引いて、そのをすり抜けた。
「……材?」 浩平の声はく、乾いていた。
「ええ、そうよ」 澄子は事も無げに、艶のある唇をかした。 「達也の骨のことよ。お寺の職さんと相談してね、摩の霊園にある同の供養塔……無縁塚へ引き渡すはずをえてもらったの。今、法が終わったらすぐに材さんが骨壺を引き取りに来てくださるわ。あの子の骨を、佐伯の先祖代々の墓に入れるわけにはいかないでしょう? 親孝な真似をして野垂れんだを緒の墓に入れたら、お父さんやご先祖様に申し訳がたないもの」
仏の広には、すでにい親戚が集まっていた。 喪を着た叔父たちや叔母たちが、澄子の言葉に静かに頷いている。
「まあ、澄子さんの言う通りだな。達也のことは憫だが、を捨てただからな」 「血筋だからって何でも許されるわけじゃない。浩平くんの将来のためにも、綺麗に区切りをつけた方がいいわ」
親戚たちの声には、片の悪もなかった。
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だからこそ、恐ろしかった。 彼らは義母がかけて吹き込み続けた『勝な男と、耐え忍ぶれな母親』という物語を、何の疑いもなく正義として信じ込んでいたのだ。
仏壇の脇、の台座のに、い布で包まれたさな骨壺がぽつんと置かれていた。 誰もお茶を供えず、誰もお線をあげていない。 そのたい壺のに、あの畳半で弟の結婚写真を胸に抱きしめ、息を引き取った達也さんが眠っている。
浩平の線が、そのい壺に吸い寄せられた。 彼の拳が、ズボンのポケットのでさく震えているのを私は見逃さなかった。 だが、その震えは怯えではなかった。 内側で煮えたぎる炎を、必で押し殺している震えだった。
「浩平、ほら、施主の席へきなさい」 澄子が急かすように浩平の背にを当てようとした。
「……待ってくれ」 浩平が静かに言った。
その声は決してきくなかったが、ざわついていた広の空気をぴたりと止める力があった。 浩平は振り返り、澄子の目をまっすぐに見つめた。 その瞳は、これまで母親ので見せたことのないほど、たく澄み切っていた。
「職が来るに、親戚の皆さんに話さなきゃならないことがある」
「何よ、改まって」澄子がそうに眉をひそめた。「そんなことより、くお経の準備を……」
「ゆみ」
浩平が私を呼んだ。
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私はく息を吸い込み、持っていた黒いきなボストンバッグのジッパーをけた。 そして、そのをつずつ、仏の央に置かれたい座卓のに並べ始めた。
最初に置いたのは、傷だらけで錆の浮いた、青い提げ庫だった。 親戚たちの線が集まる。 続いて、輪ゴムで束ねられた数冊の預通帳。 の私と浩平の結婚式の招待状。 軽井沢までの往復切符。 そして、植え込みの隙から隠し撮りされた、裏面に『浩平、振り返るな』と記された枚の写真。
最に、野医師から託された達也さんの直のと、き義父が残した公正証遺言の謄本を、いのに広げた。
「な、何なのよ、それ……」 澄子の顔から、先ほどまでの余裕がさっと消え失せた。 彼女の目は、青い提げ庫と、かれた通帳の文字に釘付けになっていた。
「見覚えがあるだろう、母さん」 浩平が言った。 彼は座卓のにみると、親戚たち全員が見渡せる所に、背筋を伸ばしてった。
「これは、兄貴がんだ荻窪の畳半のアパートに残されていたものだ」
「浩平くん、それは……」 最列に座っていた配の叔父が、怪訝そうにを乗りした。 「荻窪って……達也は関へったんじゃなかったのか?」
「兄貴は、関なんかにっていません」 浩平の声が、静かに仏に響き渡る。
「兄貴はずっと、このから歩いて分のボロアパートにいました。呂もない、エアコンもない、畳半の部です。
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