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"棺の中の男を、夫は知らない" 第16話

そこで、昼は運送会社の仕分け、夜はビルの清掃をして、命を削るように働いていました」

浩平は、青い表の通帳を冊持ちげ、親戚たちに向けていて見せた。

「これは、兄貴が遺した通帳です。名義を見てください。『サエキコウヘイ』……俺の名です。兄貴は毎、自分の費を削り、もやしや見切り品のパンをべて、俺のためにを貯め続けていました。残は、万円あります」

がざわめいた。 「万……?」「弟のために……?」 親戚たちが顔を見わせ、驚愕の声を漏らす。

「嘘よ!」 澄子が切り声をげた。がり、座卓をバンと叩く。 「そんなの、あの子がどこかで盗んできたおに決まっているわ! 親戚の皆様、騙されないで! この女が浩平を洗脳して、佐伯の財産を奪うために偽造したのよ!」

澄子は私を指差し、鬼のような形相で叫んだ。 いつものだった。 な真実をすべての悪にすり替え、被害者を演じて方を作る。

だが、浩平は微だにしなかった。 彼は澄子の号を遮ることなく、ただややかな線を母親に向けたまま、もう枚のを掲げた。 それは、アパートの壁に掛けられていたカレンダーのコピーだった。

「兄貴が棒だって言うなら、これは何なんだ、母さん」

浩平の指が、カレンダーに記された文字をなぞった。

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「ここには、こののゴミ収集のと、母さんの通院が全部いてあった。兄貴は毎朝半、夜勤が終わったでここまで歩いてきて、母さんが起きるに庭の柊の垣を刈り込んでいたんだ。母さんが膝を痛めているのをっていたから、いゴミ袋を収集所まで運んでいたんだ。玄関のドアノブに、母さんがんでいる関節痛のお茶と湿布を掛けていたのは、所の親切ななんかじゃない。……兄貴だったんだよ」

親戚たちの息を呑む音が、なった。

「達也が……毎朝ここに来ていたのか……?」 叔父の声が震えていた。 「澄子さん、お……所のから親切にされているって、自げに話していたじゃないか。あれは、達也だったのか……?」

「ち、違うわ……そんなの、私は頼んでない!」 澄子の額から脂汗が滲みていた。 彼女はずさりし、着物の裾を両で握りしめた。 「あの子が勝にやったことよ! 私を監して、嫌がらせをしていたのよ! そうに決まっているわ!」

「嫌がらせのために、自分の命をすり減らしてを貯め、親の垣を切るがどこにいるんだ!」

浩平の声が、仏の障子をビリビリと震わせた。 それは、の沈黙を破る、魂の底からの叫びだった。 澄子は息を呑み、怯えたように肩をすくめた。

だが、浩平の表は、りから痛へと変わっていった。

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彼は座卓のの写真をに取った。 軽井沢の教会の、漏れで微笑む私たちと、その向こうの植え込み。

「兄貴は……俺たちの結婚式にも来ていた」

浩平の瞳から、粒の涙がこぼれ落ちた。

「親戚全員から絶縁され、式への席を許されなかった兄貴が、幹線に乗って軽井沢まで来たんだ。そして、教会ののツツジの植え込みのに隠れて、だらけになりながら、俺たちの姿をくから見届けていた。この写真の裏を見てくれ」

浩平は写真を親戚たちに見せた。

『浩平、振り返るな』

掠れた青いインクの文字。 それを見た叔母のが、元を押さえてさく鳴をげた。

「兄貴は、俺にを向いてきてほしかったんだ」 浩平の声は震えていた。 「母さんの呪縛から逃げて、自分の庭を築いてほしかったんだ。……なぜ兄貴が、悪者になってかなければならなかったのか。その答えが、ここにいてある」

浩平は、野医師から託されたを広げた。 そして、震える声で、言を噛み締めるように読み始めた。

『父の命がくないことは理解しています。そして、父がいなくなった、母の病な刃がすべて浩平に向かうことも分かっています。浩平は優しすぎます。誰かを傷つけるくらいなら、自分が傷つくことを選ぶ男です。……母の憎悪には、巨な排が必です。

その受け皿になれるのは、男である私しかいません』

達也さんの静かな覚悟が、浩平のを通して、親戚たちの胸へと突き刺さっていく。

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