みかん小説
本棚

"長女にだけ渡された鍵" 第1話

の法が終わり、親戚たちが乗ったタクシーが坂のへと消えていくのを見届けた、私の背はすでに汗で喪に張り付いていた。

の湿ったが、古いの玄関にち込める線の匂いをかき混ぜる。

「朋美ちゃん、女なんだからね。これからはあなたがの面倒を見て、を守っていくのよ」

帰り際、松戸の伯母に両を取られてそう囁かれた。 を過ぎたいいに向かって「の面倒を見ろ」というのも奇妙な話だが、私は慣れた笑みを作って「ええ、父の言いつけ通りにしますから」とさく頷いた。

それが、私の役割だった。物ついた頃からずっと。

玄関の引き戸を閉めると、ガラガラと乾いた音が廊に響く。 仏壇のあるへ戻ると、そこにはすでに気まずい沈黙が落ちていた。

弟の健は、仕てのいい濃紺のスーツのボタンをし、スマホの画面を忙しなく指で弾いている。虎ノのIT関連企業で役員待遇の営業部をしている彼は、さっきから計ばかり気にしていた。

方、台所との境目にっている妹の織は、黒いエプロンを着けたまま、腕を組んで健の横顔を睨みつけている。彼女はこので父と歳になる今までずっと暮らしてきた。

「健、まだ仕事の連絡? 今くらい源切れないわけ? 父さんの区切りのなのよ」

広告

織の尖った声が、静かな部に突き刺さる。

「切れるわけないだろ。俺がかしてる案件、どれだけのいてるとってるんだ。これでも法事のはマナーモードにしてただろ」

「その言い方が嫌なのよ。まるで『俺が番忙しい、おら暇はいいよな』って言ってるみたいで」

「被害妄だ。暇なんて言も言ってない」

種が燻り始める。 私はく息を吸い、喪のスカートをえながらの座卓に正座した。

「やめなさい。親戚が帰った途端にみっともない。……とも、座って」

私の声には、女特の、くて無を言わせないトーンが混ざる。 健は舌打ちをつしてスマホをテーブルに伏せ、織は満そうに唇を尖らせながら私の向かいに腰をろした。

も無事に終わった。お寺へのお布施も、精落としの料理の支払いも、全部私の座からて替えておいたから。領収はここにある」

私は黒いバッグからクリアファイルを取りし、卓に置いた。

「これからのことよ。このをどうするか、それと……父さんが残した物の確認。健京へ戻らなきゃいけないし、織もこの先どうするか考えなきゃいけない。今、ある程度話をつけておきたいの」

「ある程度って」 織が目を細めた。 「話をつけるも何も、私がここに残るに決まってるじゃない。

広告

私が今まで誰のために結婚もしないで、この湿気臭いで父さんのの世話までしてきたとってるの? 朋美姉さんは実所にアパート借りて、気楽な暮らしだったじゃない」

「気楽?」 私の胸の奥で、カチリと何かがたくねた。 「週に回、仕事帰りにスーパーで買いしして届けてたのは誰? 父さんの通院の送迎、使い果たして誰がやってたとってるの?」

「それは……たまに来ていい顔するだけなら誰だってできるわよ!」

「やめろって言ったのはおだろ、朋美姉さん」 健がネクタイを緩めながら、笑を浮かべて割って入った。 「結局、どっちがどれだけ介護したかなんて掛け論になるんだよ。論はどうでもいい。法律通り、資産価値を査定して、負債と相殺して、分割。それが番スマートだ」

「スマート?」 織の頬がりで引きつる。 「あなた、度も父さんのオムツ替えたことないくせに! 京からたまに産持って帰ってきて、数万円包んで渡して『これで美いもんでもえよ』って……あれ、父さんがどれだけ傷ついてたかってるの? で片付けられたって、裏で泣いてたのよ!」

「親父が? 泣くだけ?」 健の目が険しく細くなった。 「おい、適当なこと言うなよ。親父は俺が稼いだ座の寿司いに連れてった番嬉しそうな顔をしてたぞ。

『健、おは俺の誇りだ』って、何度も言ってた」

広告

おすすめ作品

リンクを共有

以下のリンクをコピーして友達と共有してください: