"長女にだけ渡された鍵" 第12話
「姉さん、お願い! 私を追いさないで!」 織が再び私の腰にすがりついてきた。 「姉さんはしっかり者だから! 父さんだって言ってたじゃない、『ののことは朋美に任せる』って! 女なんでしょ!? 族を守ってよ!」
吐き気がした。
胃の腑から、灼のマグマのようなりと、氷のような絶望が同にせりがってくる。
しっかり者。 女。 任せる。 族を守れ。
、私を呪い続けてきた言葉が、今度は弟と妹のから、私を解体して肉をらうための刃となって突きつけられていた。
私が、な事務を着て、理尽な民の苦にをげ、同僚たちが旅や結婚の話題で盛りがるのを横目に、杯百円のうどんを啜ってコツコツと貯めてきた定期預。 それは、私がこの呪われたからいつか完全に抜けすための、最の命綱だった。
それを、当たりのように差しせと? 自分たちの見栄と依で空っぽになった穴を埋めるために、私の骨までしゃぶる気か?
「……触るな」
私はく言った。
「え?」
「私の体に、気く触るんじゃないわよ!!」
私は織のを力任せに振り解き、健のすがりつく線をたく踏み躙った。 が怯んだ隙に、私は座敷へとがり、仏の襖をピシャリと閉めた。
「姉さん! けてよ! 見捨てる気!?」 襖の向こうで織が激しく叩く音がする。
広告
健が「頼むよ、姉さん!」と叫ぶ声が響く。
私はを塞ぎ、荒い呼吸をえた。 震えるで喪の胸元を押さえる。
何かがおかしい。 何かが、決定に狂っている。
父は、本当にただの見栄っ張りで、無能な暴君だったのか? いや、それならなぜ百万ものを借りる必があった? 役所のち退き補償がることをっていたなら、なぜそのが入るまで待てなかった? 健から毎万巻きげ、織に万握らせていた男が、を抵当に入れてまでに入れた百万円。 そのは、体どこへ消えたのだ。
元に残された通帳の残は、万千円。 ののどこを探しても、現など円も残っていなかった。
『庫の鍵はおにしか渡せん』
病で父が遺した言葉が、再び脳裏をよぎる。 庫のには、冊の通帳と、冊の学ノートしかなかった。 通帳は空っぽだった。 じゃあ――残されたのは、あのノートだけだ。
健が胸に抱え込み、その座卓のに放りされた、あの冊の古い学ノート。
私は襖をしだけけ、廊を窺った。 は玄関先でまだ言い争っていた。 「おがもっとく言わないからだ」「あんたこそ無職のくせに偉そうに」と、醜い責任の擦り付けいを始めている。
私は音をてずに仏を抜けし、暗い廊を奥へとんだ。
広告
向かうのは、寝ではない。 廊の突き当たり、井に隠されたさな点検――根裏部への入りだった。
子どもの頃、父は「根裏には絶対に入るな。事な類が置いてある」ときつく言い聞かせていた。 母がくなった、父は母の遺品をすべてダンボールに詰め、あの根裏へ押し込んだのだ。
私は廊の物入れから折りたたみ式の脚を引きし、点検の真にてた。 ギシギシと軋む脚を登り、井のベニヤ板をに押しげる。
バサリと、分の埃が顔にりかかった。 咳き込むのをで押さえ、私は点検から半を根裏へと滑り込ませた。
暗がりのに、スマホのライトを向ける。 剥きしの梁と断材。 埃をかぶった古い扇、壊れた鉢、そして――奥に積みげられた、褪せたみかん箱の。
私は埃まみれの板にいがり、みかん箱のへんだ。 箱の側面には、母の几帳面な字で『昭雄さん類』『朋美・健・織 幼期』とかれている。
その番に、黒ずんだ桐の箱がつ、ポツンと置かれていた。 真田紐で固く結ばれた、文庫本ほどのきさの箱。
紐を解き、蓋をける。 に入っていたのは、権利証でも、借用の原本でもなかった。
革表の、のひらサイズの帳が数冊。 そして、茶封筒に入った、分い類の束だった。
私は帳をめくった。 それは、――母が胃がんでくなったの、父の記だった。
広告
おすすめ作品
-
完結第23話
義母が突然、結婚指輪をくれた
夫が亡くなった日、義母は「もう家族じゃない」と私と娘を雨の中に追い出した。それから二年、一度の連絡もなかった義母が娘の小学校入学を控えた夕暮れ、四十年間外さなかった結婚指輪を私の指に無理やり嵌めて頭を下げた。翌日、親族が集まる祝いの席で和解を受け入れようとした私の前で、義母は冷たい笑みを浮かべ、夫が生前に娘の氏の変更書類を用意していたのではないかと問い詰めてきた。私の手の中で箸が止まった。裡切られた|祖父母と孫|嫁姑|親子関係|修羅場3.5万字5 0 -
完結第21話
母がナイフで砕いた自分の名前
母の七十歳の祝いで、私は家族に尽くし続けた母に自分の人生を取り戻してほしい一心から、ケーキのプレートに書かれた夫の姓を削り落とし、母の旧姓を書き直した。これで母は喜んでくれるはずだった。しかし母は青ざめ、「誰が戻りたいなんて言ったの」と私を睨みつけると、ナイフを掴んで自分の名前を何度も突き刺し粉々に叩き割った。家族全員から責め立てられた私は、母の部屋で底面を無残に削り取られた大量の人形を見つける。怒り|兄弟姉妹|真相|親子関係|修羅場3.1万字5 1 -
完結第19話
棺の中の男を、夫は知らない
親を捨てて逃げた冷酷な男だと親族中から罵倒される義兄の葬儀で、義母は涙を流し、夫を支えの孝行息子だと称えていた。だが焼香台へ進む夫の前に立ちはだかった私は、「あなた、本当に棺の中にいるその人を知っているの」と告げた。夫が隠していたのは、過去五年間、毎月義兄へ送り続け、そのたびに全額突き返されていた六十回分の送金記録だった。血の気を引かせる夫と親戚の前で、私はその明細を祭壇の上に広げた。兄弟姉妹|親不孝|絶縁|親子関係|修羅場2.8万字5 0 -
完結第21話
妹のドレスを二十センチ切った
妹の結婚式を数時間後に控えた深夜二時、私はリビングで特注のウェディングドレスに裁ち鋏を入れた。事故で右足に傷が残る妹に対し、相手の家族は配慮という名目で足を隠す重いドレスを強要し、当日は動かず座り続けるよう言い含めていた。母の怒声が響き、私の頬に平手打ちが飛ぶ。泣き崩れる妹の足元には、前裾だけが二十センチ切り落とされた純白の布が散らばっていた。私は鋏を置き、「今日これを着て出なさい」とだけ告げた。裡切られた|兄弟姉妹|裡の顔|親子関係|修羅場3.1万字5 0 -
完結第28話
離婚11日後、私に9億8000万円が当たった
「子供を抱えて一人で生きていけると思うのか」――13年間連れ添った夫・達也は、離婚の最後まで私を見下していた。娘の教育資金80万円を無断で投資に使いながら、「家族の金だ」と開き直った男。私は娘・日向を守るため、傷だらけの結婚生活に終止符を打った。だが離婚からわずか11日後、何気なく買った宝くじが約9億8000万円の高額当選を果たす。 人生を変える大金――それでも私は誰にも秘密を明かさなかった。ところが娘を連れて頼った実家では、母から「達也さんに謝りなさい」と門前払いされる。味方だと思っていた家族さえ、私の意思より世間体を選んだのだ。 もう二度と、誰かに人生を支配させない。金に頼って復讐するのではなく、自分の意思で生き直すと決めた私。だが、約10億円という秘密が知られた時、元夫と家族の本当の顔が暴かれ始める――。修羅場|熟年離婚4.1万字5 371