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"長女にだけ渡された鍵" 第14話

私の代も、代も、誰かをするはずだったも、子どもを産み育てるはずだった未来も―― 全部、この帳の数のメモによって、最初から奪い取られていたのだ。

涙は滴もなかった。 ただ、胸の奥で、カチリとたいスイッチが入る音がした。

、私を縛り付けていた「女」という名の、錆びついた分い鎧が、元から音をてて崩れ落ちていく。

私はに落ちた帳を拾いげ、もうつの茶封筒にを伸ばした。 封筒の表には、父の字で『ち退き補償・命保険式』とかれていた。

を引き抜く。 そこに入っていたのは、須藤建設の借用ではなく、通の命保険証券だった。

契約者――『宮本昭雄』。 被保険者――『宮本昭雄』。

受取の欄を見て、私は息を呑んだ。

通目、保険百万円。受取――『宮本朋美』。 通目、保険百万円。受取――『宮本健』。 通目、保険百万円。受取――『宮本織』。

契約は、。 須藤建設から百万円を借り入れた、まさにそのだった。

そして、証券の裏に挟まれていた、枚のメモ用。 震える文字で、きされていた。

『須藤から借りた百万は、この本の保険の全期払いに充てた。 ち退き補償千万が入れば、須藤の借は相殺できる。 残るこの千百万は、あいつらに残す。

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朋美へ。健へ。織へ。 すまなかった』

メモの文字は、そこで途切れていた。

「……すまなかった?」

私は掠れた声で呟いた。 笑いが込みげてきた。 狂気じみた、喉の奥が引き攣るような笑いだ。

父は、自分がやってきたことの罪さに、最期の最期で気づいていたのだ。 自分が子どもたちを呪い、そのをすり潰してきたことに。 だから、を抵当に入れてまで百万円を借り、自分に命保険をかけ、補償で帳尻をわせようとした。 で、分のを買い取ろうとしたのだ。

だが、その続きを完させるに、父はんだ。 そして、遺されたのは、互いを憎みい、を奪いい、破滅へ向かって転がり落ちるの子どもたちだけだった。

「遅いのよ……父さん」

私はメモを握り潰した。 「おなんかで……返せるわけないでしょうが」

私は帳と保険証券を抱え、脚りた。

へ戻ると、健織が座卓を囲んで、血った目で通帳のコピーを睨みっていた。 私が襖をけて入ってきた瞬の顔にパッと卑しい期待のが浮かんだ。

「姉さん! 考えてくれた!?」 織がを乗りす。 「ねえ、定期預解約してくれるでしょ!? 女なんだから、このを守るのが姉さんの役目でしょ!?」

「姉さん、頼む!」 健わせる。 「俺が無職になったこと、親戚には言わないでくれ! 借さえ返せば、補償が入ればやり直せるんだ! 姉さんが百万て替えてくれれば、全部丸く収まるんだよ!」

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の言葉を、私はったまま、え切った目で見ろした。

の目には、私が映っていない。 『頼りになる女』 『してくれる都のいい母親代わり』 父がにあてがった、記号としての私しか見ていない。

私はバッグから、今朝、信用庫の帰りに役所で取ってきた類の束を取りした。 そして、それを座卓の真んへ、叩きつけるように置いた。

バサリ、とい音が響く。

「……何これ」 健が眉をひそめ、類を覗き込んだ。

そこには、太いゴシック体で印刷されていた。

『相続放棄申述』。

庭裁判所に提する、正式な相続放棄の申請類だった。 申述の欄には、すでに私の名と、民票の所が、黒いボールペンで几帳面に記入されていた。 あとは、実印を押すだけの状態。

「そ、相続放棄……?」 織が掠れた声をげた。 「な、何言ってるの……? 姉さん、放棄するって……補償千万も、放棄するってこと!?」

「そうよ」 私の声は、驚くほど静かで、平坦だった。 「私は、父さんの遺産を切、放棄する。このも、も、千万円のち退き補償も、須藤建設への百万円の借も。……全部、あんたたちで半分ずつ分けなさい」

「ふざけるなッ!!」 健がり、座卓を蹴りげた。 茶碗が倒れ、めた茶が畳に広がる。

「放棄するだと!? 女のおが逃げたら、百万の借は俺と織のところに全部回ってくるんだぞ! 俺が無職でがないってってて、見殺しにする気か!?」

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