みかん小説
本棚

"長女にだけ渡された鍵" 第15話

「見殺し?」 私はたく微笑んだ。 「健、あんた歳でしょ。自分で作った借と、自分で選んだ見栄のツケを、なんで歳の姉が払わなきゃいけないの?」

織だって……!」 健が妹を指差す。 「織はどうするんだよ! こいつはこのしか居所がないんだぞ!」

「私が今まで、父さんのオムツを替えてきたのよ!?」 織が切り声をげ、私のスカートを掴もうとする。 「姉さんは逃げるの!? 自分だけ全な所に逃げて、私たちを獄に置きりにする気!? それでもなの!? 女のくせに!!」

私は、織のたく払いのけた。 そして、抱えていたの父の帳を、座卓のに放り投げた。

「読みなさい」

私のい声に、が息を呑んだ。

「何よ……これ」

「父さんがいた記よ。母さんがんだ直、父さんが私たちをどうやって懐けて、飼い慣らすかを計画した、作戦ノート」

が恐る恐る帳にを伸ばす。 健がページをめくり、織が横から覗き込む。

読んだだけで、健の顔から血の気が完全に失われた。 織の瞳が刻みに震え、いたが塞がらなくなる。

「……チョロいものだ」 健から、乾いた掠れ声が漏れた。 「自尊を満たしてやれば……勝に勉し……俺が成し遂げられなかった世を……」

織、おだけが俺に似ている……罪悪を植え付けろ……俺の傍かられられない……」

広告

織ががくがくと膝を震わせ、帳を取り落とした。

は、幽霊を見たかのように青ざめ、畳のに崩れ落ちた。

「分かった?」 私はを見ろした。 「父さんは、誰もしてなかった。誰も特別扱いなんてしてなかった。ただ、自分が寂しくて、世体が悪くて、事ができないから、私たちに役柄を押し付けただけ。……あんたたちのも、私のも、全部あの男の掌ので転がされてただけなのよ」

「嘘だ……」 健を抱え、に額を擦り付けた。 「嘘だろ……親父……俺を……俺の世を誇りにしてたんじゃなかったのかよ……!」

「私は……私はお父さんの番の理解者だったはずなのに……」 織が虚空を見つめ、涙をボロボロとこぼした。 「ただの……無料の介護だったってこと……? 私の青は……全部……」

の慟哭が、夕暮れの仏霊する。

だが、私のには、もう何の波たなかった。 同も、憐れみも、罪悪も、綺麗さっぱり消え失せていた。

「辞任するわ」 私はバッグを肩にかけた。

「……え?」 健が涙に濡れた顔をげる。

「私、今限りで『女』を辞任するの。しっかり者の朋美ちゃんは、今にました」

私はに向かって、々と礼した。 皮肉でも何でもなく、台を終えた役者として、完璧な礼だった。

百万をどう面するか、ち退き補償をどう分けるか、このをどうするか。

広告

……全部、あんたたちで話しって決めなさい。法テラスへくなり、破産宣告するなり、好きにすればいい。私はもう、円もさないし、を挟まない」

「待って……待ってよ、朋美姉さん!」 織がいつくばって私の首を掴もうとした。 「かないで! 置いていかないで! 私、じゃ何もできないの! お姉ちゃん!!」

ついてから度も私を「お姉ちゃん」と呼んだことのなかった妹が、赤ん坊のように泣き叫んでいる。

私はそのを、静かに、しかし度と掴ませないさでした。

「さようなら」

私は振り返ることなく、廊を歩いた。 背で「姉さん!」「嘘だろ、朋美!」と絶叫が響いていたが、その声は私のの表面を滑り落ちていった。

玄関をけると、はすっかりが暮れていた。 たいが、ポツポツとアスファルトを叩き始めている。

私は傘も差さずに、実た。 、私の肩にい込んでいた見えない鉛の鎖が、気にれたような覚だった。

元が、信じられないほど軽い。 息が、吸える。 胸の奥まで、たく澄んだ空気が入ってくる。

私はポケットのを突っ込んだ。 指先が、根裏から持ちした、父の保険証券とメモ用に触れる。

百万円の命保険。 父が最期に残した、贖罪の。 須藤への借を清算し、あのが破滅を免れるための、唯の鍵。

私はち止まり、に煙る夜空を見げた。

この鍵を、あのに渡すかどうか。

広告

おすすめ作品

リンクを共有

以下のリンクをコピーして友達と共有してください: