みかん小説
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"長女にだけ渡された鍵" 第17話

織が、胸元に抱えていた古い呂敷包みを、両で差ししてきた。 角い、みのある何か。

私はしの、迷った。 だが、の目に宿っていたのは、かつて私を搾取しようとしていたの卑しい甘えではなかった。 ただ、途方に暮れ、打ちのめされただけが持つ、空っぽの諦だった。

「……チェーンをすわ。散らかってるけど、がりなさい」

狭いワンルームにを入れると、それだけで部の空気が窮屈になった。 私はさなローテーブルのに、コンビニで買った麦茶をつ並べた。

は正座し、呂敷の結び目を解いた。

からてきたのは、埃を被った古いカセットテープレコーダーと、本の濁したカセットテープだった。 テープのラベルには、マジックで震えるような字で、ただ言こうかれていた。

『遺言ではない』

父の跡だった。

「これ……どこにあったの?」 私は尋ねた。

「仏壇の……の引きしの、さらに奥の隠し底」 織が、膝のを握りしめながら答えた。 声がさく震えている。

「姉さんがった、須藤が乗り込んできて……をひっくり返して、目のものがないか探したの。貴属でもあれば、しでも借しになるとって。……そしたら、仏壇の奥からこれがてきたの」

「テープ?」

「……俺たちも、まだ全部は聞いてない」

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が俯いたまま言った。 「最初の数分だけ再して……これは、で聞かなきゃいけないものだって、織と話したんだ」

はレコーダーの再ボタンに指をかけた。 カチャリ、といプラスチックの音が響く。

サーッ、という障りなテープの音。 狭い部に、沈黙が落ちる。

やがて、スピーカーから、が擦れるようなガサゴソという音と、浅い呼吸音が聞こえてきた。

『……録音されているか、これ』

父の声だった。

で酸素マスクをつけていた々しい声ではない。 だが、元気だった頃の威張り散らしていた声でもない。 ひどく掠れて、老いと疲れが混ざりった、どこか怯えたような声だった。

テープの向こうから、くでの音が聞こえる。 付は入っていなかったが、声の張りからして、おそらく父が倒れる、癌の告を受けたのものだとわれた。

『……朋美、健織。 おたちがこのテープを聞いているということは、俺はもうんだのだろう。 あるいは、呆けてしまって、自分の名も分からなくなっているかだ』

父がく、自嘲するようにを鳴らした。

『このテープは、誰にも渡すな。 弁護士にも、親戚にも聞かせるな。 ただ……だけで流せ。 遺言は別に作っていない。公正証で作ろうとしたが、公証役までって、がすくんで逃げ帰ってきた。

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けなかったのだ。 俺がどんなだったか、法に残すのが怖かった』

がぎゅっと目を閉じ、拳を太ももに押し付けた。

『……俺は、ずっと怖かった』 テープのの父が、独を続ける。 『歳の、おたちの母さんがんだ。 あの、俺はしいとに、まず絶望した。 飯も炊けない、洗濯の使い方も分からない、役所のの子どもをどうやって育てればいいのか、見当もつかなかった。 親戚連は「に」と言いながら、誰もしてはくれなかった。 所の連は「男つじゃ、どうせ娘はグレて息子は落ちこぼれる」と噂しっていた。 俺は、世が恐ろしかった。 役所で世コースかられ、妻に先たれ、落ちぶれたれな男として見られるのが、ぬほど怖かった』

父の呼吸が、し荒くなる。

『だから、嘘をつき始めた。 まず、朋美に嘘をついた。 おは母親に似て、く、の顔を伺う子だった。 「おが母親代わりだ、しっかり者だ」と褒めてやれば、泣きながら弟たちの面倒を見た。 本当は、おを甘えさせてやらなきゃいけなかった。 歳の女の子に、分の洗濯や飯炊きを押し付けるなんて、親のすることじゃない。 だが、おが「はい、お父さん」と健気に笑うのを見るたびに、俺はの底で胸を撫でろしていた。

これで俺は、世から「派に庭を維持している父親」に見える、と』

私の喉の奥が、ツンと痛んだ。 膝ののスカートを、指先がく掴む。

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