"長女にだけ渡された鍵" 第18話
『次に、健だ。 おは昔から癇癪持ちで、がかかった。 だが、男のプライドだけは倍かった。 俺は、自分が叶えられなかった「エリート」のを、おに押し付けた。 「おは優秀だ、このの柱だ」と煽りてれば、おは血を吐くようないで勉し、いい学に入り、京の流企業に入った。 同窓会で、おの名刺を見せびらかすのが、俺の唯のきがいだった。 だが……、おがに困って泣きついてきた、俺は本当は嬉しかったんだ。 ああ、こいつも俺と同じで、はただの虫だったんだと。 だが、そのさを認めるのが怖くて、俺は姉たちのを奪っておに渡し、毎万の仕送りを求した。 おが俺を見さないように。 おがいつまでも、俺のの平ので苦しむように』
健の肩が、刻みに震え始めた。 パーカーのフードをく被り、膝のにボタボタと粒の涙を落としている。
『……そして、織』 テープの父の声が、段とく、湿り気を帯びた。 『おに番、残酷なことをした。 のがきくなり、いつかをていくと悟った、俺の元に残るのは誰だと考えた。 おだった。 番さくて、番甘えん坊だったおを、俺は最初から「俺の介護」として囲い込んだ。 「おだけが俺に似ている」と言えば、おは自分を特別なだとい込み、の世界へていくのを諦めてくれた。
広告
おが代の、連れてきた結婚相の男を、俺が鳴りつけて追い払ったのを覚えているか。 あの男の柄が気に入らなかったんじゃない。 おがをてったら、俺がで野垂れぬのが怖かったんだ。 俺は、自分の孤独の穴を埋めるために、おの代を丸ごとい潰した』
「……う、あ……」 織が両で顔を覆い、嗚咽を漏らした。 く切った髪が揺れ、涙が指の隙からこぼれ落ちる。
『……俺は、最の男だ』 テープのの父が、ため息をついた。 それは、張り詰めていた虚飾が、完全に剥がれ落ちた老の、れな呟きだった。
『子どもをしていたんじゃない。 子どもを使って、自分のちっぽけなプライドと、孤独への恐怖を誤魔化していただけだ。 朋美には責任を、健には虚栄を、織には罪悪を植え付けた。 そうすれば、おたちが結束して俺に反抗することはない。 互いに嫉妬し、互いに疑いい、俺というの周りを回り続ける。 ……だが、最、夜に目が覚めると、胸が締め付けられるように苦しくなる。 俺は、おたちに何を残した? 歪んだ役割と、互いへの憎しみだけじゃないか。 ……須藤から借りた百万は、命保険に充てた。 ち退きの補償が入れば、須藤の借はチャラになる。 残ったと保険で、せめて……せめて、おたちにを残したかった。
広告
だが、このを渡したところで、おたちの失われたは戻らない。 許してくれとは言わん。 ただ……俺がんだら、頼むから、もう俺の言葉を信じるな。 おたちは、しっかり者でも、エリートでも、俺の代わりでもない。 ただの……俺の被害者だ。 すまなかった。 本当に……すまなかった』
プチッ、という乾いた音とともに、テープのが止まった。
内に、沈黙が戻った。
蔵庫のモーター音だけが、く響いている。
誰も、をかなかった。 けなかった。
テープから流れてきたのは、巨悪の告ではなかった。 緻密な策略の酷な遺言でもなかった。
ただの、くて、卑怯で、見栄っ張りで、妻に先たれてパニックになり、そのしのぎの嘘をね続けた、のれな男の残骸だった。
私たちは、そんな男が吐きした、たった数の「おは特別だ」という言葉を握りしめ、、互いのを引っ張りっていたのだ。
「……何だよ、これ」 健が、掠れた声で笑いした。 涙でぐしゃぐしゃになった顔をげ、井を見つめて笑う。 「何が『俺の誇り』だ……何が『の柱』だ……ただの、臆病者の連れだったんじゃないか……」
「私だって……」 織が膝に額を擦り付け、子どものように泣きじゃくった。 「私……父さんが好きだったんじゃない……。父さんを見捨てたら、自分が悪いになるのが怖かっただけ……。
私、ずっと父さんを憎んでたのに……されてるフリをしてただけじゃないの……」
広告
おすすめ作品
-
完結第23話
義母が突然、結婚指輪をくれた
夫が亡くなった日、義母は「もう家族じゃない」と私と娘を雨の中に追い出した。それから二年、一度の連絡もなかった義母が娘の小学校入学を控えた夕暮れ、四十年間外さなかった結婚指輪を私の指に無理やり嵌めて頭を下げた。翌日、親族が集まる祝いの席で和解を受け入れようとした私の前で、義母は冷たい笑みを浮かべ、夫が生前に娘の氏の変更書類を用意していたのではないかと問い詰めてきた。私の手の中で箸が止まった。裡切られた|祖父母と孫|嫁姑|親子関係|修羅場3.5万字5 0 -
完結第21話
母がナイフで砕いた自分の名前
母の七十歳の祝いで、私は家族に尽くし続けた母に自分の人生を取り戻してほしい一心から、ケーキのプレートに書かれた夫の姓を削り落とし、母の旧姓を書き直した。これで母は喜んでくれるはずだった。しかし母は青ざめ、「誰が戻りたいなんて言ったの」と私を睨みつけると、ナイフを掴んで自分の名前を何度も突き刺し粉々に叩き割った。家族全員から責め立てられた私は、母の部屋で底面を無残に削り取られた大量の人形を見つける。怒り|兄弟姉妹|真相|親子関係|修羅場3.1万字5 1 -
完結第19話
棺の中の男を、夫は知らない
親を捨てて逃げた冷酷な男だと親族中から罵倒される義兄の葬儀で、義母は涙を流し、夫を支えの孝行息子だと称えていた。だが焼香台へ進む夫の前に立ちはだかった私は、「あなた、本当に棺の中にいるその人を知っているの」と告げた。夫が隠していたのは、過去五年間、毎月義兄へ送り続け、そのたびに全額突き返されていた六十回分の送金記録だった。血の気を引かせる夫と親戚の前で、私はその明細を祭壇の上に広げた。兄弟姉妹|親不孝|絶縁|親子関係|修羅場2.8万字5 0 -
完結第21話
妹のドレスを二十センチ切った
妹の結婚式を数時間後に控えた深夜二時、私はリビングで特注のウェディングドレスに裁ち鋏を入れた。事故で右足に傷が残る妹に対し、相手の家族は配慮という名目で足を隠す重いドレスを強要し、当日は動かず座り続けるよう言い含めていた。母の怒声が響き、私の頬に平手打ちが飛ぶ。泣き崩れる妹の足元には、前裾だけが二十センチ切り落とされた純白の布が散らばっていた。私は鋏を置き、「今日これを着て出なさい」とだけ告げた。裡切られた|兄弟姉妹|裡の顔|親子関係|修羅場3.1万字5 0 -
完結第28話
離婚11日後、私に9億8000万円が当たった
「子供を抱えて一人で生きていけると思うのか」――13年間連れ添った夫・達也は、離婚の最後まで私を見下していた。娘の教育資金80万円を無断で投資に使いながら、「家族の金だ」と開き直った男。私は娘・日向を守るため、傷だらけの結婚生活に終止符を打った。だが離婚からわずか11日後、何気なく買った宝くじが約9億8000万円の高額当選を果たす。 人生を変える大金――それでも私は誰にも秘密を明かさなかった。ところが娘を連れて頼った実家では、母から「達也さんに謝りなさい」と門前払いされる。味方だと思っていた家族さえ、私の意思より世間体を選んだのだ。 もう二度と、誰かに人生を支配させない。金に頼って復讐するのではなく、自分の意思で生き直すと決めた私。だが、約10億円という秘密が知られた時、元夫と家族の本当の顔が暴かれ始める――。修羅場|熟年離婚4.1万字5 371