"義母が突然、結婚指輪をくれた" 第22話
の母親として、もうの母親に、切な命の未来を託す礼だった。
「はい。命に代えても、守り育てます」
私は力く答えた。
役所のロビーに入り、戸籍係の窓の番号札を引いた。 『042番』。
数分、チャイムとともに番号が呼ばれた。 私は葵のを引いて、カウンターのに座った。
「本はどのようなお続きでしょうか?」
窓の職員の問いに、私はクリアファイルから類を取りし、カウンターのに然と並べた。
「子の氏の変更許がりましたので、入籍届の提をお願いします」
職員が類に目を通し、際よく確認をめていく。 「庭裁判所の審判謄本、戸籍謄本、申告……はい、すべて揃っていますね」
職員は類の最終を指差し、私に確認を求めた。
「それでは、お子様の氏を『神崎』から、者であるお母様の『野』へと変更いたします。お違いありませんか?」
「はい。違いありません」
私はペンを取り、届の署名欄に、力い跡で自分の名をき入れた。
『野 奈緒』
インクが乾く瞬、胸の奥で何かがカチリと音をてて噛みった。 、名乗ることすら憚られていた、私の本当の名。 そして、これからは娘とともに胸を張ってきていくための、私たちの旗印。
職員が葵に向かって、優しく微笑みかけた。
「葵ちゃん、今からお名が『野葵』ちゃんになるよ。
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けるかな?」
葵は嬉しそうに胸を張り、カウンターに置かれたメモ用に、クレヨンで懸命に文字をいた。 まだし揃いな、平仮名交じりの文字。
『みずの あおい』
「はい! あおい、もうじぶんのお名、じょうずにけるよ!」
職員が「にけたね」と目を細め、類にきな受理印を力く押し込んだ。
ドン、という鈍い朱肉の音が、カウンターに響いた。
終わったのだ。 神崎というたい碑の檻から、私たちは完全に、法に解き放たれたのだ。
続きを終えてロビーを振り返ると、ガラス扉の向こうに、まだ義母の姿があった。 義母はに入ってくることはせず、ただくから、葵が窓で笑っている姿を、祈るように見つめていた。
目がった。 私は葵と緒に、ガラス越しにさくをげた。 義母もまた、ハンカチで目元を押さえながら、く、静かに会釈を返してきた。
そこには、もはや憎しみも、支配も、恐怖もしなかった。 ただ、過を清算した者同士の、静かな境界線があるだけだった。
義母はそれ以づいてくることはなく、を翻すと、ののへとゆっくりと歩きっていった。 その背は、さかったが、どこか憑き物が落ちたように穏やかだった。
季節は巡り、の旬。
の桜が満を迎え、桃のびらがのようにい散る、うららかなの朝だった。
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桜ヶ丘学の正には、真しいスーツや着物にを包んだ親子連れで溢れかえっていた。 の脇には、『入学式』と墨黒でかれたきな板がてられ、記撮を待つ族のい列ができている。
「ママ、はやく! あおいのクラス、どこかな!?」
紺のブレザーにを包んだ葵が、私のを引っ張りながら、弾むような取りでをくぐった。 そのさな背には、あの、義母が届けてくれたカーマインレッドのランドセルが誇らしげに揺れている。 具に施されたさな桜のびらが、本物のびらと戯れるようにを反射していた。
昇のに張りされた、きなクラス分けの名簿。
混みをかき分け、私たちは『組』の表を見げた。
音順に並べられた、しいたちの名。 私の指先が、の方へと滑っていく。
『ま』の欄。
そのに、くっきりと太いゴシック体で印刷された文字が、目にび込んできた。
【野 葵】
「あ! あおいの名、あった!」
葵が歓声をげ、名簿のその所を指差した。
『野葵』。 神崎の紋も、代目の圧も、過の霊のも、どこにもない。 ただ、の無垢な女が、これから自分のを自分ので歩んでいくための、しく、誇らしい名札だった。
界が、瞬だけ涙で滲んだ。
――亮介さん、見てる? あなたの娘は、今、あなたが望んだ通りの名で、しい世界の扉をけたよ。
胸ので呼びかけると、がふわりと吹き抜け、私の頬を優しく撫でていった。
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