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"母の還暦祝いで家を奪おうとした夫" 第16話

彼が自ら傘を差しかけなかったのは、これが初めてだ。

そして私も、彼を待たずに歩きしたのはこれが初めてだった。

その夜、に帰ったレオは初めて靴を磨かなかった。

玄関で靴も脱がずにち尽くし、番に言った。

「ゆか、今はやりすぎだぞ」

私はバッグを掛け、しゃがんでスリッパに履き替えながら答えた。

「そうね」

私のその言に、彼は言葉を詰まらせた。

以の私なら、必に言い訳をし、反論し、自分が理尽にっているわけではないと証しようとしていたはずだ。

私がになればなるほど、彼は静さを装った。

呆れたような包容力を見せつけて、こう言ったのだ。

「し落ち着きなよ。ちゃんと話しおう」

でも今の私は、その落とし穴にはまらない。

私が平然としていればいるほど、彼は居が悪くなるのだ。

彼はの鍵を棚に投げ置き、りを押し殺した声で言った。

「会社であんなにがいるで、どうしてあんな質問をしたんだ!」

彼は声を荒げた。

「周りから俺がどう見られるか、考えなかったのか!」

私は顔をげた。

「周りがあなたをどう見るかは、あなたのい次第でしょう」

彼はついに、声を荒げた。

「俺が何をしたって言うんだ!」

彼は正当化しようと必だった。

「お義母さんのことを考えるのが悪いことか?負担を減らそうとするのが悪いのか?」

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彼は詰め寄るように言った。

「夫婦でや老の話をするのが、そんなに恥ずかしいことなのか!」

彼は言葉を吐きすたびに、歩ずつ私にづいてきた。

私はダイニングテーブルの横にち、歩もがらなかった。

私は静かに言い返した。

「恥ずかしくなんてないわよ」

私は彼を見据えた。

「だから皆ので堂々と話してと言ったの」

私は首を傾げた。

「どうして嫌がるの?」

彼の顔が張った。

私はキッチンへき、コップにを注いだ。

のネット通販で買った、底にいびつな猫の絵が描かれているコップ。

レオは当、「子供っぽい」と馬鹿にしていた。

でも、私がをむはいつも決まって、このコップを棚からしてくれた。

記憶とは厄介なものだ。

相が最なだと分かっても、いまで自に消えてくれるわけではないのだから。

私はを入れたコップを両で包み込んだ。

指先がしずつ温まっていく。

レオがキッチンに入ってきて、しだけ声のトーンを落とした。

彼はなだめるように言った。

「ゆか、もうやめよう」

彼は探りを入れた。

「最、誰かに変なことでも吹き込まれたんじゃないのか?」

彼は顔をしかめた。

「佐藤さんか?あのは面半分で引っ掻き回すタイプだから」

私は首を振った。

「彼女は関係ないわ」

私はきっぱりと言った。

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「誰の話も聞いてない」

彼はため息をついた。

「君が周りに響されてる気がしてならないんだ」

彼はれっぽい声をした。

「俺たちのが、の無責任な言葉に負けるなんておかしいだろう」

またこれだ。

問題の焦点を、「彼が何をしたか」から「私が誰を信じるか」にすり替える。

私は彼を真っ直ぐ見つめた。

「じゃあ教えて」

私は問い詰めた。

「あなたはに『誕会の、あのは俺たちのものになる』って言ったことはないの?」

レオの目が泳いだ。

その瞬の揺らぎだけで分だった。

彼は秒沈黙し、こう答えた。

「似たようなことは言ったかもしれない」

彼は慌てて弁解した。

「でもそれは、族はつだというであって、言葉尻を捉えられるとだ」

私は頷いた。

「わかった。言葉尻は捉えないわ」

私は次の矢を放った。

「じゃあ、あなたのスマートフォンにいる『まゆ』って誰?」

彼の顔からしだけ血の気が引き、すぐにまた戻った。

彼はで答えた。

「クライアントだよ」

私は聞いた。

「どんなクライアント?」

彼は線を逸らした。

「プロジェクトの関係者だと」

彼は苛ったように言った。

「君には分からないよ」

私は笑った。

「私が分からなくてもいいわ」

私は提案した。

「誕会に、彼女も呼びましょうよ」

私はにっこりと笑った。

「プロジェクトの関係者なら、しい友が増えるのは歓迎」

レオは鋭い線を私に向けた。

「ふざけるな」

私はコップを置いた。

「ほら、またに聞かれるのを怖がっているじゃない」

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