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"母の還暦祝いで家を奪おうとした夫" 第20話

さなダイニングテーブルに座り、母がスプーンでお汁をかき混ぜるのを見つめた。

キッチンの窓から差し込む朝が、母の元の髪を照らしていた。

その瞬、全てを打ちけてしまいたい衝に駆られた。

子供の頃のように、膝を擦りむいてお母さんと泣きつきたかった。

でも、が負った傷はそう簡単にはにせないのだ。

母が目のにお椀を置いた。

「みなさい」

豆はトロトロに煮込まれていて、に入れると優しい甘さが広がった。

んだところで、涙がお椀のに落ちそうになった。

母は私の向かいに座り、ゆっくりとをいた。

「レオ君、あんたにの話をしたんじゃないの?」

私は顔をげた。

母は私を静かに見つめていた。

「私がボケてるとった?」

母は鋭い目つきで言った。

「あいつ、ここ最やたらとだったからね」

彼女は経験から来る言葉を紡いだ。

「普段は割くらいしか気にかけてないが急に割の優しさを振り撒くは、必ず何か裏があるものよ」

私はスプーンを握りしめた。

母はで制した。

「黙って聞きなさい」

母は寝にき、古いブリキの箱を持って戻ってきた。

縁が錆びついたその箱は、私が子供の頃にヘアピンを入れていたものだ。

箱をけると、黄ばんだ類が数枚と若かりし頃の父の写真が入っていた。

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青い作業着を着た父が、器用に笑っている。

喉の奥がぐっと詰まった。

母は写真を見つめながら言った。

「このは、お父さんで稼いだものじゃないんだよ」

彼女は昔を懐かしむように語った。

「で切り詰めてね。お父さんはトラックの運転をして、私は昼お惣菜を売って、夜は裾直しの内職をした」

彼女の声がし沈んだ。

「お父さんが事故にあって、その賠償は銭も使わずに全部ローンの残りに当てたんだ」

母は私に線を向けた。

「名義をあんたにしたのは、お父さんの遺言だったのよ」

彼女は優しく微笑んだ。

「ゆかが将来誰と結婚しても、いつでも帰ってこられる所を残してやりたいってね」

私はうつむき、ついに涙をこぼした。

父がくなった、私はまだ幼かった。

病院のい廊と、母のたいしか覚えていなかった。

それからというもの、母は父の話をほとんどしなかった。

「ろばかり振り返ってちゃだめだ。を向いてきないと」と言って。

母が忘れていたわけではなかったのだ。

ただ、私を傷つけないように番痛い部分をの奥底に隠していただけだったのだ。

母は類の束を私に押しやった。

「これ、あんたが持っていなさい」

彼女は力く言った。

「誰かと争えって言ってるんじゃない。ただ、忘れちゃいけないよ」

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彼女は厳しく告げた。

「このは、腹をすかせた野良犬がい散らかしていいような肉の塊じゃない」

母は私のを握った。

「これはお父さんが残してくれた、あんたの最の砦なんだ」

彼女は自分自に言い聞かせるように言った。

「そして私にとっても、の最の誇りなんだからね」

私は類を押し返した。

「お母さんが持ってて」

母は眉をひそめた。

「あんたが持ちなさい」

私は涙を拭った。

「お母さん」

私は決を込めて言った。

「今私は、誰かと奪いいをするつもりはないの」

私は顔をげた。

「ただ、の砦を自分の餌だとい込んでるたちに、分からせてやりたいだけ」

母は私をじっと見つめ、ふっといため息をついた。

「になったね」

彼女は配そうに言った。

「それに随分と疲れ切って見えるよ」

どんな慰めの言葉よりも、その言が胸に刺さった。

私はテーブルに突っ伏して、しばらく声もさずに泣いた。

肩が震えるのをじながら。

母は何も言わず、ただ私のを定のリズムで撫でてくれた。

子供の頃、をして寝込んだにずっとそばにいてくれたのように。

泣き終わってから、洗面所で顔を洗った。

鏡に映る私は、目はし赤いけれど数のような底なしの顔ではなかった。

とは議なものだ。

番痛いには泣けなくて、誰かがしっかりと受け止めてくれたに初めて涙がこぼれ落ちるのだ。

をる、母はブリキの箱をしまいながらゆっくりと言った。

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