"凶悪犯と殺処分寸前の猫" 第2話
「フォワード・P.A.W.S.(Prison Animals Writing Stories)。マディソン郡のアニマル・プロテクション・リーグ(APL)と提携した、保護猫の更飼育プログラムだ。シェルターには、虐待を受けたり、病気や齢であったりして、引き取りのない猫が溢れている。インディアナ州内だけでも、毎何千もの猫が殺処分されている現実がある。彼らもまた、社会の片隅に追いやられ、見捨てられた命だ」
「見捨てられた凶悪犯と、殺処分寸の野良猫の掃き溜めですか」ミラーが嘲笑した。
「そうだ。だが、互いに傷つけられ、きる所を奪われた者同士だからこそ、通いうものがあるかもしれん。……試験導入は来週曜だ。Jブロックの模範囚、あるいは精神に極限状態にある期受刑者のから、厳格な適性検査をパスした名のみをパイロットケースとする。責任はすべて私が取る」
リチャードの固い決に、ミラーは忌々しそうに唇を噛み、踵を返して部をてった。
その決定が、え切ったコンクリートの迷宮にどのような嵐を巻き起こすのか、このはまだ誰として予見していなかった。
「猫だと? 冗談だろ、おい!」
運の錆びた網ので、筋骨隆々の受刑者たちが唾をばして笑い声をげた。
「ここはいつから幼稚園になったんだ? 毛むくじゃらの玩具なんぞ寄越されたって、踏み潰しちまうぜ」
広告
「いや、待てよ。猫の肉ってのは、よく煮込めばウサギのがするらしいぞ」
品な冗談がび交う、アンソニーはベンチプレスバーに背を預け、百キロのバーベルを無言で押しげていた。ギチ、ギチと軋む属の音。首筋の血管が張し、全からちる汗がたい気に触れて湯気となる。
「アンソニー、おはどううよ? 所が猫の親父を募集してるらしいぜ」
声をかけてきたのは、同じブロックのカルロスだった。柄だが麻薬取引の元締めで、報通の男だ。
「……興ねえな」アンソニーはバーベルをラックに叩き落とし、タオルで顔を拭った。「自分の糞の始末もできねえ奴らに、き物の世話ができるわけがねえ」
だが、独に戻り、廊の掲示板に貼りされた枚の募集項を見た、アンソニーのが止まった。
そこには、プログラムの概とともに、今回シェルターから移送されてくる保護猫たちの写真とプロファイルが掲載されていた。片が千切れた老猫、皮膚病で毛が抜けた毛、そして——と黒の揃いな毛並みを持つ、痩せこけた雄猫。
写真のに印字された解説文に、アンソニーの線が釘付けになった。
『名:オレオ(推定歳)。劣悪な飼育崩壊の現から救。飼い主による執拗な打擲と暗所への監禁歴あり。
広告
に対する極度の信と恐怖から、接する者すべてに激しい攻撃性を示す。譲渡能(アンアダプタブル)判定。週の殺処分予定リストより選定』
——暗所への監禁。に対する極度の恐怖。
アンソニーの脳裏に、幼い頃、父の音に怯えながら暗い押入れの隅で膝を抱えていた記憶が、焼けた鉄文の痛みのようによみがえった。自分と同じだ。誰も信じられず、触れられることを恐れ、を剥くことでしか自分を守れなかったき物。
「何を突っってんだ、カーター」
背から守のたい声が響いた。アンソニーは無言で歩きしたが、その夜、彼のからオレオのの瞳が消えることはなかった。
翌週曜、Jブロックの面談。
厳な体検査と理テストを経て選ばれた名の受刑者が、鉄骨の子に座らされていた。アンソニーのには、かつて盗で役の黒青マーカス、詐欺と横領で役の初老のヘンリー、麻薬毒からち直りつつあるカルロス、そして粗暴犯のジャックだった。
部の扉がき、APLの代表である女性獣医師・マレア・ハドソンが、スタッフとともに数個のプラスチック製キャリーケースを台に載せて入ってきた。
「皆さん、こんにちは」
マレアは受刑者たちの刺青や凶悪な相に気圧されることなく、澄んだ瞳で全員を見渡した。
「ここにいる猫たちは、ペットショップで売られているようならしい子たちではありません。
広告
おすすめ作品
-
完結第14話
「死産」と告げた院長と20年目の出生記録
20年前、出産した娘を「死産でした」と告げられた私・佐藤しず子。しかし私は、麻酔の中で確かに聞いた産声を一度も忘れられなかった。 真実を確かめるため、私は清英産婦人科医院の清掃員として20年間働き続け、誰にも気づかれず院内の秘密を探ってきた。そんなある夜、若い看護師から「まだ間に合います。あなたの娘さん生きています」と書かれた紙を渡される。 やがて地下の保管庫へ忍び込んだ私は、自分の出産記録の隣に「佐藤女児――転送」と記された手帳を発見する。 さらにそこには複数の新生児と金銭の記録まで残されていた。娘を奪ったのは誰なのか。そして病院は20年間、何を隠してきたのか。見下され続けた“掃除婦”は、集めた証拠を手に院長・安藤剛と対峙する――。真相|修羅場2.1万字5 407 -
完結第15話
全盲の義母が言い当てた味噌汁の色
「お味噌、白味噌に変えたでしょう?」。11年前の事故で全盲になったはずの義母・かず子が、漆塗りの椀を抱えて微笑んだ。亡き実母への後悔から、365日欠かさず介護と手料理を捧げてきた嫁の私。だが翌朝、ゴミ袋の底から現れたのは、手つかずのまま無残に捨てられた私の料理と、1万8千円の銀座高級寿司やフレンチのデリバリーレシート30枚だった。夫は「お前の味付けが悪い」と冷笑し取り合わない。孤立無援の中、弁護士の助言を得た私はある罠を仕掛ける。そして勝手口の前で義母が放った「ある一言」で、11年間の嘘が音を立てて崩れ去る――。嫁姑|真相2.3万字5 3039 -
完結第25話
底辺受付嬢を見下す役員たちの誤算
父の会社は、最も信頼していた人間の裏切りによって無惨に食い物にされた。巨額の負債を背負い、絶望の中で病に倒れた父。私はその冷酷な真相を暴くため、ハーバード大の博士号を隠し、ただの「受付嬢」として敵の中枢である星空グループに潜入した。 誰からも見下され、理不尽な侮辱に耐え忍ぶこと3年。息を潜めて集めた証拠が示したのは、あまりにも残酷な真実だった。父を破産に追い込み、私から全てを奪った黒幕の正体は、父が家族のように慕っていた古参役員だったのだ。 「黒幕は役員会の中にいる」――私を守るため、父が命懸けで残してくれた最期のメッセージを知った時、胸の奥の悲しみは絶対的な冷酷さを持つ復讐の炎へと変わった。私の素性を知る新社長のハルトや、父の旧友たちと共に、私は決して逃れられない完璧な包囲網を密かに築き上げていく。 そして迎えた運命の役員会。全てを掌握したと信じ、私の前で勝ち誇る黒幕。だが彼はまだ知らない。無力な受付嬢だと思っていた私が、彼を社会的死の淵へと突き落とす致命的な罠を仕掛けていたことを。仮面を脱ぎ捨てた時、強欲な悪魔を地獄の底へと引きずり下ろす、容赦なき反撃が幕を開ける――。因果応報|真相|修羅場3.8万字5 1809 -
完結第15話
不当解雇された高卒技術者の特許逆転劇
精密機械メーカーの技術者・中村誠は、高卒叩き上げであることを理由に、名門大卒のエリート上司・北川部長から「掃除とオイル交換しかできない無能な雑用係」と見下されていた。ある日、大口顧客向けの製品に二百個超の大量不良が発生。北川は自らの設定ミスを隠蔽し、誠を犯人に仕立て上げて責任を押し付ける。深夜に真相を暴くアクセスログのUSBメモリーを確保した誠だったが、直後に車に撥ねられ全治三ヶ月の重傷を負ってしまう。病室から連絡を入れると、北川は「好都合だ、クビにしておく」と嘲笑し電話を切った。だが誠が病室のベッドから特許庁へ出願した一枚の技術書類と、彼が去って完全沈黙した工場の製造ラインが、欺瞞に満ちた組織に前代未聞の崩壊をもたらす――。職場逆転|人生逆転2.5万字5 430 -
完結第14話
高卒エースを掃除係に落とした無能社長
大手玩具メーカーの営業エース・篠田零司は、高卒叩き上げながら十二年間にわたりトップの成績を維持してきた。だが、恩師である先代の矢吹会長が病で倒れ、新社長に就任した倉島哲也から全社報告会で突如「先月の達成率は三十パーセント、部内最下位のお荷物だ」と虚偽の数字で公開処刑される。強烈な学歴コンプレックスと嫉妬を燃やす倉島は、篠田を社長室の雑用係へと追いやったばかりか、彼が一年かけて心血を注いだ総額百億円の大型独占契約を故意に破談へ追い込む暴挙に出る。しかし、篠田の手元には「確定売上高一億四千二百万円」を証明する売上管理ファイルの原本が存在していた。理不尽の極みの中で静かに退職届を差し出した篠田。だが、現場の異変を察知した車椅子の矢吹会長が立ち上がり、握りつぶされた証拠が暴かれたとき、欺瞞に満ちた社長室に前代未聞の鉄槌が下される――。職場逆転|人生逆転2.9万字5 206 -
完結第14話
雑用係の逆襲――百億の商談と偽りの女社長
病気の母の療養のため帰国し、学歴を「中卒」と偽って中小IT企業「藤山システム開発」に入社した森本大河。しかし傲慢な女社長・藤山薫からは「引きこもりの変人オタク」と蔑まれ、社運を賭けた百億円の新システム開発から外され雑用掃除係に追いやられてしまう。 だが大河の真の姿は、ハーバード大学を早期卒業しMIT大学院を修了した、世界が畏怖する伝説のスーパーホワイトハッカー「ミスター・モリティー」だった。迎えた海外メガIT企業首脳陣との商談当日、手配されていた通訳3名が全員ドタキャンし絶体絶命の危機に陥る。 「失敗したらクビ」と責任を押し付ける女社長の前で、大河が手元のコントローラーを操作して口を開いた瞬間、会議室の空気が一変する。そして明かされる社長の巨額不正と、タブレット端末に隠された決定的な証拠の行方は――。職場逆転|裡の顔1.9万字5 230 -
完結第21話
母がナイフで砕いた自分の名前
母の七十歳の祝いで、私は家族に尽くし続けた母に自分の人生を取り戻してほしい一心から、ケーキのプレートに書かれた夫の姓を削り落とし、母の旧姓を書き直した。これで母は喜んでくれるはずだった。しかし母は青ざめ、「誰が戻りたいなんて言ったの」と私を睨みつけると、ナイフを掴んで自分の名前を何度も突き刺し粉々に叩き割った。家族全員から責め立てられた私は、母の部屋で底面を無残に削り取られた大量の人形を見つける。怒り|兄弟姉妹|真相|親子関係|修羅場3.1万字5 137 -
完結第21話
妹のドレスを二十センチ切った
妹の結婚式を数時間後に控えた深夜二時、私はリビングで特注のウェディングドレスに裁ち鋏を入れた。事故で右足に傷が残る妹に対し、相手の家族は配慮という名目で足を隠す重いドレスを強要し、当日は動かず座り続けるよう言い含めていた。母の怒声が響き、私の頬に平手打ちが飛ぶ。泣き崩れる妹の足元には、前裾だけが二十センチ切り落とされた純白の布が散らばっていた。私は鋏を置き、「今日これを着て出なさい」とだけ告げた。裡切られた|兄弟姉妹|裡の顔|親子関係|修羅場3.1万字5 94 -
完結第24話
目覚めた部下にクビを問われた
地方旅館の火災で客を救い出し重傷を負った部下が目を覚ました。だが彼女の記憶は直近の二年分が抜け落ち、着任初日の私が冷酷に解雇を迫った日のまま止まっていた。会社は避難扉が開かなかった責任を彼女の記憶喪失に乗じて背負わせようと、退職金の支払いを口実に過失を認める書類への署名を病室で迫る。何も思い出せない部下は震える手でペンを握り、かつて自分を追い詰めたはずの私を怯えた目で見つめた。職場逆転|真実|裡の顔|修羅場3.7万字5 691 -
完結第20話
偽りの仕送りと緑の通帳
専業主婦の佐藤真美は、長年にわたり傲慢な義母・君代から「無収入の居候」と見下され続けてきた。夫の減給により進学を断念し、誇りを持って介護職に就いた二十歳の娘・奈々までも、義母は「高卒の無能な孫」と親戚の前で嘲笑する。さらに君代は「長男の嫁・恭子を見習い、毎月十五万円を仕送りしろ」と理不尽な要求を突きつけてきた。耐えかねた真美が恭子に相談すると、長男一家の仕送りに隠された信じがたい事実が判明する。義母の言う通り「見習う」ことを決意した真美は、夫の浩一を巻き込み、スマートフォンに収めたATMの振込画面の写真と、タンスの上の空の茶封筒を使ったある計画を仕掛ける。だが、疑念を深めた義母が「緑の銀行通帳」を差し出し、記帳を命じたことで事態は急転する――。嫁姑|真相3.0万字5 721