"十年分の船代で始まった一人旅" 第8話
「買うんですか?」
吉さんが聞いた。
「どうしよう」
私はしばらく見た。
どこへ飾るか考える。
自宅の居。
仏壇の斜め向かい。
朝、お茶をむと必ず目に入る壁。
「買います」
迷いはそこで消えた。
正さんが笑った。
「決めるのいですね」
「置く所が決まったから」
で顔を見わせて笑った。
絵を包んでもらっている、私は常夫の封筒から現をした。
残りはもうくない。
代。
寄港の事。
さなガラスの魚。
そしてこの絵。
でも減ったことを惜しいとはわなかった。
分のおが、分のへ戻っていくような気がした。
へ戻ると、入で千鶴子さん夫妻に会った。
包みを見て、千鶴子さんが聞いた。
「絵?」
「はい」
「いくらだった?」
以なら、ごく自然に続く質問だったのだろう。
けれどにした直、千鶴子さん自が「あ」とさく言った。
私は笑った。
「万千円です」
「そう」
「毎見る予定です」
千鶴子さんも、し笑った。
「それならいわね」
初めて彼女と値段の話をして、嫌な気持ちにならなかった。
最終夜、では乗回数のい客向けのさな懇親会がかれた。
カードの千鶴子さん夫妻も招待されている。
夕方、千鶴子さんがし誇らしげに言った。
「今は会員の集まりがあるから、夕のに遅れるかもしれないわ」
以なら、最に必ず、
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「いカードだと入れないけれど」
と加えただろう。
このは言わなかった。
しかし事始から分ほどすると、千鶴子さん夫妻は普通にテーブルへ現れた。
「かったですね」
吉さんが聞いた。
千鶴子さんはし満そうだった。
「顔をしただけ」
隆さんが笑った。
「分でてきたんですよ」
「あなた、余計なこと言わないで」
「の話しかしないんだもの。同じに何回乗ったとか、次は何になるとか」
千鶴子さんは夫を睨んだが、否定はしなかった。
「それで戻ってきたんですか?」
私は聞いた。
「だって、こっちの方が事は同じでしょう」
その言い方が笑しくて、みんなで笑った。
千鶴子さんも最には笑った。
事、別のテーブルからの女性が声をかけてきた。
乗初に見かけた代くらいの客だった。
「すみません。のって、荷物は何までにすか分かりますか?」
千鶴子さんが反射に、そののい乗カードへ目を向けた。
私は気づいた。
千鶴子さん自も気づいたらしい。
瞬だけ止まり、それから普通に答えた。
「までだったといます。でも聞で確認した方が確実ですよ」
「ありがとうございます」
女性はをげた。
それだけだった。
でも私は、何となく嬉しかった。
カードを見た。
けれど、そので相を判断するに止まった。
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が変わるというのは、こういうさなことなのかもしれない。
、千鶴子さんが私を呼び止めた。
「杉本さん」
「はい」
「へ帰ったら、の絵、けてみるわ」
私は驚いた。
「ぜひ」
「気に入らなかったらどうしよう」
「それは私には分かりません」
「相変わらずね」
千鶴子さんは苦笑した。
「でも、気に入らなかったら売るなり何なりすればいいでしょう。箱ので価値ががるのを待つより、ずっと分かりやすいといます」
「価値ががってたら?」
私はし考えた。
「そのは、万円で『次からはの話だけで買わない』って覚えたことになりますね」
千鶴子さんは目を丸くした。
次の瞬、声をして笑った。
初めて聞く笑い方だった。
いつもの、へ聞かせるようない笑い声ではない。
「い授業料ね」
「いですね」
「ほんとに」
し歩いてから、彼女は言った。
「あなたのあの言葉、ずっと残ってるの」
「どの言葉ですか?」
「かけて来たんじゃなくて、待っていたって」
私はを止めた。
千鶴子さんはを向いたままだった。
「私、隆が働いていた頃、待つのが嫌いだったの。次はどこへく、何を買うって、いつも先に先に決めてた。会社を辞めてから急に予定がなくなって、それが怖かったのかもしれない」
私は黙って聞いた。
「だからに乗る回数を増やした。カードのが変われば、自分がにんでいる気がしたのよ」
しだけ、分かった気がした。
待つ。
待つことが怖くて回数を増やす。
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