"昭和28年、妻が消える炭鉱町" 第3話
しかし同に、もっときな謎が目のに現れた。
夫たちは、なぜ妻を消したのか。
茂は仕事を休まなかった。
「坑に遅れたら当がぶ」と言い、勤までの分だけ話した。
炭鉱には昔から借りの仕組みがあった。族の病気、葬式、子どもの入学、米がりないなど、まとまったが必になれば会社や購買所を通じて借りる。料からしずつ引かれるが、度借がなると、料に封筒を受け取ってもがほとんど残らないがてくる。
茂のもそうだった。
、子が肺炎をこじらせて入院した。治療費に加えて茂自も落盤でを傷め、週坑内へ入れなかった。そのに借りがなった。
「佐伯さんに言われた。節子がか働けば、借は全部消せるって」
「どこで」
「隣町の選炭」
「なんで黙ってかせたと?」
茂は歯をいしばった。
「子どもは連れていけん。女だけ寮に入って働く決まりや。所には実へ帰ったと言っとけと言われた。借で女を働かせにしたなんてられたら、節子が笑われるやろ」
「誰がそんなこと言ったと」
「会社じゃない。組っていう請負のや。佐伯さんが紹介した」
女たちは、炭鉱そのものから追いされたわけではなかった。
夫も妻も応は納得していた。
借を返し、数かに戻るためにていった。
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それを聞いた瞬だけ、澄子はししかけた。
無理やり連れられたのではない。
きている。
働いている。
けれど、黒い通帳の数字をいした。
「兄ちゃん、かで返せるって言われたんやね」
「ああ」
「残り、いくら」
茂は答えなかった。
「らんの?」
「……佐伯さんが管理しとる」
「自分の借やろ」
「坑夫は仕事しとればいい。細かい帳面は事務方に任せろって」
澄子は借用証を突きした。
「じゃあこれは? 節子さん、消えたにまた千円借りとる」
茂の顔に、本物の驚きが浮かんだ。
「らん」
「本当に?」
「俺はらん!」
初めて声を荒らげた。
奥から子の泣き声がし、とも黙った。
茂は声を落とした。
「節子が向こうで何か必だったんやろ。宿代とか……」
「それをまた借にするん?」
「らんと言いよろうが」
茂は作業をつかんだ。
ていく直、澄子が聞いた。
「兄ちゃん、節子さんがどこで働いとるか見たことある?」
茂のが止まった。
「ない」
「は?」
「ない」
「かで帰るって、誰から聞いた?」
返事はなかった。
佐伯だった。
何もかも、佐伯を通した話だった。
妻がどこで寝ているかも。
いくら料を受け取っているかも。
借がいくら減ったかも。
夫たちはらない。
その、澄子は決めた。
自分で隣町へく。
田辺キヨが乗った列のき先を、駅員にそれとなく尋ねた。切符売りの老は、「あの女なら原でよくりる」
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と教えてくれた。
翌の休み。
澄子は始発にい列へ乗った。
原駅でり、炭を積んだ貨の線沿いを歩く。町れにはいくつもの選炭や練炭があり、どこを探せばいいか分からない。
昼くまで歩いた頃。
川の向こうから、女たちが列になっててきた。
巾。
古いもんぺ。
顔も腕も黒い煤に覆われている。
そのに節子がいた。
「節子さん!」
声をげると、節子の顔が張った。
周囲の女たちも振り返る。
澄子は川沿いの柵までった。
「何で来たと」
「帰ろう」
節子は首を振った。
「まだ帰れん」
「あといくら返したらいいん?」
その問いに、節子は初めて澄子の目を真正面から見た。
疲れ切った顔だった。
けれど泣いてはいなかった。
「それが分からんのよ」
そして、誰かに聞かれるのを恐れるように声を落とした。
「働けば働くほど、数字が増えよる」
澄子は返す言葉を失った。
妻たちが消える理由は分かった。
だがその仕組みは、のある稼ぎではなかった。
か働けば帰れる。
その約束そのものが、嘘なのかもしれなかった。
休憩は分しかなかった。
節子は澄子を川沿いの物置のへ連れていった。くでは選炭が唸り、炭とがぶつかる乾いた音が絶えず響いている。節子の巾からは黒いが落ち、の皺のまで煤が入り込んでいた。
「いくらもらっとると?」
「帳面では百円」
「帳面では?」
「に来るのは円か円。