"昭和28年、妻が消える炭鉱町" 第4話
それも毎じゃない」
残りは宿代、費、紹介料、作業着代、鹸代、借返済として差し引かれる。最初に説されたのは宿代と費くらいだったが、働き始めると聞いたことのない項目が増えた。
「今の初め、向こうの帳面をちらっと見たんよ。うちの借、茂から聞いとった額よりかった」
「いくら?」
「千百円」
澄子はを疑った。
「兄ちゃんは千百円って」
「そうやろ」
節子は頷いた。
「私もそれ聞いとった。だから確かめたかった」
千円の借用証。
あれは節子が本当にに困って借りたものではなかった。
選炭の詰所で「実へ仕送りしたい」と言い、わざとしく千円を借りた。借用証には自分で付をき、写しが必だと頼んだ。係員は嫌がったが、「夫にらせるため」と言うと枚作ってくれた。
「その、どうやってうちに」
「田辺のキヨさん」
澄子は、佐伯から封筒を受け取っていた女をいした。
「キヨさんはここにおると?」
「別の加。でもに度、向こうの細を持って佐伯さんに会いにかされる」
節子は、その会に借用証をキヨへ預けた。
「澄ちゃんのに入れといてって」
「何で私に?」
「購買所におるやろ」
節子の目が鋭くなった。
「向こうと炭鉱で、帳面がつある」
澄子は背筋を伸ばした。
「何で分かると」
「ここへ来た女たちで話したんよ。
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田辺さんは炭鉱では残り千百円って言われた。でもこっちじゃ千百円。松永さんも違う。私だけやない」
「じゃあ、どっちかが嘘をついとる」
「どっちも嘘かもしれん」
節子は周囲を確認した。
「澄ちゃん。購買所に古い帳簿あるやろ」
「あるけど」
「のじゃない。、のを見て」
「何で」
「ここにいるで、にも来たことがある女がおる」
節子の声がさらにくなった。
「今から始まったことやないらしい」
休憩終をらせる鐘が鳴った。
節子がちがる。
澄子は腕をつかんだ。
「緒に帰ろう」
「今帰ったら、向こうは帳面を隠す」
「でも」
「私、ただ働かされてるだけやない」
節子は初めてく笑った。
「ここで何が引かれよるか、全部覚えよる。澄ちゃんは向こうを見て」
「危ないことせんで」
「子どものところへ帰るためにやっとるんよ」
節子はをし、選炭へ戻っていった。
その夜。
閉の購買所で、澄子は古い帳簿棚のへった。
昭。
昭。
埃を被った冊子を引きす。
《族貸付》
今と同じ文字。
ページをめくる。
いくつもの女の名。
赤線。
《移送》
さらに数枚めたところで、指が止まった。
《本徳治》
父の名だった。
、坑内事故でくなった父。
その横には母・ハルの署名。
《族労務 か》
そして赤鉛で、
《完済せず》
とかれていた。
澄子は子へ座り込んだ。
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記憶の底から、つの景が蘇った。
歳の。
母がかだけからいなくなった。
親戚の病気を伝いにくのだと聞かされていた。
父は何も説しなかった。
あれも同じだったのか。
節子だけではない。
母も。
自分のも。
ずっとから、この仕組みのにいた。
澄子は帳簿の内容をさな帳へ写した。
父の借入額は千百円。
母が「族労務」へたから毎返済が記録されているにもかかわらず、かの残は千百円だった。さらに翌には《臨替》として千円が加えられ、父が事故でくなったにも《活補填》百円が追加されている。
んだへ、誰がを貸したのか。
理解できなかった。
へ戻ると、澄子は仏壇のへ座った。父の写真は、坑夫仲と撮った集写真から母が切り抜いたものだ。煤けた顔で笑う父の隣に、に病気でくなった母の位牌がある。
「母ちゃん、どこへっとったん」
答えはない。
澄子は母の裁縫箱、箪笥、古いを探した。
夜くになって、仏壇の番の引きしから布に包まれた束がてきた。
病院の領収。
父の事故に会社から渡された見の細。
そして枚だけ、見覚えのない証があった。
《借精算受取》
昭。
《本徳治 貸付残完済》
には炭鉱事務所の角印。
澄子は息を止めた。
購買所の帳簿では完済していない。
母の元に残った証では完済している。
つの記録が完全にい違っていた。